【完結】もう結構ですわ!

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
53 / 80

53.お腹が満ちれば怒りも薄れる

 伯父様の尻を蹴飛ばし、ご先祖様の遺した手記を奪う。いいえ、表現が悪いわね。ちょっとお借りしたの。いずれ返すわ……数十年くらい借りるだけよ。

 古代語で記された内容の半分は、意味不明だった。ルフォルの先祖はロマンチストだったのか、何かと詩的な表現を好む。そのため魔法道具の絵の隣に書かれた説明が、抽象的だった。雨を降らせた魔法道具の形も不明なので、片っ端から目を通す。

 途中でうんざりして読むのをやめた。ル・ベル公爵家の分家、ル・メール侯爵が手記を解読し始めた。こういった古文書の研究が趣味なんですって。目を輝かせる彼に任せ、私達は壊れた門の外側で休憩を始めた。

 まずは腹ごしらえだ。ドラゴン達が張り切って狩りに向かったので、野営料理に決まった。商人が運ばせた食材を前に、民が得意な得物で捌いていく。漁師は手際よく魚を、飯屋の女将さんは肉を切った。その脇で、農家の一団が賑やかに切った野菜と肉を串刺しにしていく。

「その串はどこからきたの?」

「あっちの小屋さ」

 猟師のおじさんが豪快に笑って指さしたのは、武器を保管する小屋だと思うの。ということは、これ……元は矢だったんじゃない? 太い串に豪快に塊肉や野菜が突き刺さり、巨人用の料理に仕上がっていく。

 人数も多いし、焼いてから分ければいいわね。私も手伝いを申し出たが、渡されたのはハーブ塩の瓶だった。これを少量ずつ串の食材に振っていく係だ。ドラゴンが仕留めた獲物は、騎士が剣で豪快に捌いていく。

 その剣、まさか人を斬った経験はないでしょうね。聞きたいが、人前では口にしづらい質問だ。どこからか見つけた酒を、お父様が剣にかけていく。あれで消毒したつもりなんですもの……まあ、やらないよりマシでしょうか。

 お母様達がいたら止めてくれただろう。でも私は止める気がないし、貴族も可能な範囲で協力している。このまま食事会にしましょう。全身ボコボコの伯父様は、腫れが酷くなって呻いている。農家のおばさんが、うるさいと眉を寄せて、傷口に薄切りの野菜を貼り付けた。それ、火傷の手当て方法じゃなかったかしら?

 騒ぎながらも焼けた肉を分配し、野菜を齧り、高揚していた気分を落ち着ける。腹が空くと怒りやすくなるっていうし。

「食べさせてあげるよ、シャル」

「お断りするわ」

 笑顔で串焼きを運んできたレオに、首を横に振って断る。手元の皿に盛られた、大量の料理の消費で忙しいの。貴族の接待なのか、挨拶がてら運ばれる肉や魚に少しずつ手をつける。全部食べるのは無理なので、手をつけた残りはリュシーに渡した。仲間と仲良く分けあって食べている。

「シャルリーヌ姫! わかりました」

 さきほど手記を渡したル・メール侯爵が、頬を紅潮させて駆け寄る。さっと間に入ったレオに遮られるも、隙間から顔を覗かせた。変態を押し退ける研究者の熱意も、ちょっと怖いわね。

「あれは気象を変更するのではなく、ただ雨を降らせる道具です」

「つまり?」

「本国で作動させれば、雨が降りますよ。この手記によれば……」

 そこからの話は長すぎて、聞き流してしまった。要は過去に本国で使用したけれど、何らかの理由で海を渡った先祖が持っていったのね。お年寄りと研究者って話が長いのよ。
感想 115

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(9/10受賞作発売中!)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?

詩海猫(9/10受賞作発売中!)
恋愛
私の家は子爵家だった。 高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。 泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。 私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。 八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。 *文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*

王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?

ねーさん
恋愛
 公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。  なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。    王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!