110 / 222
本編
109.場に溶け込むクラウスは有能ね
クレーベ公爵とのやり取りは、すべて叔父様やエック兄様に任せた。私が出ていくのはおかしいもの。デーンズ王国は基本的に、男尊女卑の傾向が強い。王妹だったクレーベ前公爵夫人が、優秀なのに王位につけなかったのも、その影響だった。生まれた順番で兄が王になったのではなく、男だから選ばれただけ。
リヒター帝国は皇位継承権に男女の差はほぼないわ。ルヴィ兄様から順番にあてがわれ、私が四番目だったのは末妹だったからよ。五番目に叔父様がいたのは、年齢や傍流に当たるから。でもすぐに皇位継承権を放棄して、神殿に入った。そういったルールは各王国にもあるけれど、ほとんどが男性優位なの。
戦いに明け暮れ、他国と国境を争う時代ならわかる。軍の頂点に立つ元帥を従える王は、自らも剣をとる男性を選ぶことが多い。このリヒター帝国でさえ、戦時中は姉を押しのけて弟が皇帝になった事例があった。姉君が儚い感じの美女だったようだから、周囲が心配したのでしょうね。
何にしろ、デーンズのクレーベ前公爵夫人には同情するわ。記録を読む限り、どう考えても首を落とされた兄王より優秀だった。彼女が女王として立っていたら、もっと苦戦したでしょう。その悔しさを息子に託し、見事、王位を奪ったのだから大した女性だわ。
デーンズ前国王の首は、フォルト兄様が検分したらしい。間違いないと太鼓判を押した報告書は、しっかり副官の署名が入っていた。ハイノが確認したなら、間違いないでしょうね。クレーベ公爵がいつまで王でいられるか、その鍵を握るのは母君かしら?
執務室の窓を開けて、外の風を呼び込む。朝から夢中になって書類を処理していたから、気づいたら午後のお茶を楽しむ時間だった。ノックの音がして、そのリズムで相手を知る。
「どうぞ」
「失礼します。トリア様、お茶の時間ですが……私に付き合っていただけますか?」
「あら、断る理由はないわ。でも小さな姫君も誘ってくださる?」
「もちろんです」
軽い言葉遊びをして、応接用のソファーへ向かう。だが、クラウスが止めた。首を横に振り、窓の外を示す。窓際に戻って外を確認すれば、中庭の一角に天幕が張られていた。
「あちらで、皇帝陛下、宰相閣下、大神官殿がお待ちです」
「まあ! 叔父様もいらしたのね」
表情が自然と笑みに変わる。クラウスが差し伸べる腕をとり、乳母のアンナを呼んだ。準備ができたら、お茶会へジルヴィアを連れてくるよう命じる。了承したアンナに頷き、クラウスと歩き出した。
果樹の多い中庭は低木ばかりが並ぶ。防犯面の見通せる環境であり、家族の間に垣根を作らない意味も込められていた。全員は揃わないが、叔父様がいるのは珍しい。
「寄らせてもらったよ、トリア」
「歓迎しますわ、叔父様」
お兄様達の前には、すでに茶菓子が並んでいた。半分ほど手を付けているのは、何か話し合いでもしていたのかしらね。探るような視線を向けたら、ルヴィ兄様がわかりやすく目を逸らした。それを睨みつけるのは、エック兄様だ。
「エック兄様、ルヴィ兄様を責めないで。正直なのも美徳よ」
「正直に顔に出す皇帝など、足を引っ張る阿呆です」
きっぱりと言い切られ、参ったなと苦笑いするルヴィ兄様が肩を落とす。
「婚約式の相談をしていました。トリア様が忙しそうでしたので、先に男性だけで細かな部分を詰めたのです。報告を聞いていただけますか?」
クラウスはとりなすように状況説明を始める。穏やかな口調と、知りたかった内容に頷く。用意された椅子に腰かけると、クラウスが隣に落ち着いた。説明された内容は、婚約式の時期の検討と儀式の内容に関する確認……それで叔父様が神殿から出てきたのね? 納得したわ。
リヒター帝国は皇位継承権に男女の差はほぼないわ。ルヴィ兄様から順番にあてがわれ、私が四番目だったのは末妹だったからよ。五番目に叔父様がいたのは、年齢や傍流に当たるから。でもすぐに皇位継承権を放棄して、神殿に入った。そういったルールは各王国にもあるけれど、ほとんどが男性優位なの。
戦いに明け暮れ、他国と国境を争う時代ならわかる。軍の頂点に立つ元帥を従える王は、自らも剣をとる男性を選ぶことが多い。このリヒター帝国でさえ、戦時中は姉を押しのけて弟が皇帝になった事例があった。姉君が儚い感じの美女だったようだから、周囲が心配したのでしょうね。
何にしろ、デーンズのクレーベ前公爵夫人には同情するわ。記録を読む限り、どう考えても首を落とされた兄王より優秀だった。彼女が女王として立っていたら、もっと苦戦したでしょう。その悔しさを息子に託し、見事、王位を奪ったのだから大した女性だわ。
デーンズ前国王の首は、フォルト兄様が検分したらしい。間違いないと太鼓判を押した報告書は、しっかり副官の署名が入っていた。ハイノが確認したなら、間違いないでしょうね。クレーベ公爵がいつまで王でいられるか、その鍵を握るのは母君かしら?
執務室の窓を開けて、外の風を呼び込む。朝から夢中になって書類を処理していたから、気づいたら午後のお茶を楽しむ時間だった。ノックの音がして、そのリズムで相手を知る。
「どうぞ」
「失礼します。トリア様、お茶の時間ですが……私に付き合っていただけますか?」
「あら、断る理由はないわ。でも小さな姫君も誘ってくださる?」
「もちろんです」
軽い言葉遊びをして、応接用のソファーへ向かう。だが、クラウスが止めた。首を横に振り、窓の外を示す。窓際に戻って外を確認すれば、中庭の一角に天幕が張られていた。
「あちらで、皇帝陛下、宰相閣下、大神官殿がお待ちです」
「まあ! 叔父様もいらしたのね」
表情が自然と笑みに変わる。クラウスが差し伸べる腕をとり、乳母のアンナを呼んだ。準備ができたら、お茶会へジルヴィアを連れてくるよう命じる。了承したアンナに頷き、クラウスと歩き出した。
果樹の多い中庭は低木ばかりが並ぶ。防犯面の見通せる環境であり、家族の間に垣根を作らない意味も込められていた。全員は揃わないが、叔父様がいるのは珍しい。
「寄らせてもらったよ、トリア」
「歓迎しますわ、叔父様」
お兄様達の前には、すでに茶菓子が並んでいた。半分ほど手を付けているのは、何か話し合いでもしていたのかしらね。探るような視線を向けたら、ルヴィ兄様がわかりやすく目を逸らした。それを睨みつけるのは、エック兄様だ。
「エック兄様、ルヴィ兄様を責めないで。正直なのも美徳よ」
「正直に顔に出す皇帝など、足を引っ張る阿呆です」
きっぱりと言い切られ、参ったなと苦笑いするルヴィ兄様が肩を落とす。
「婚約式の相談をしていました。トリア様が忙しそうでしたので、先に男性だけで細かな部分を詰めたのです。報告を聞いていただけますか?」
クラウスはとりなすように状況説明を始める。穏やかな口調と、知りたかった内容に頷く。用意された椅子に腰かけると、クラウスが隣に落ち着いた。説明された内容は、婚約式の時期の検討と儀式の内容に関する確認……それで叔父様が神殿から出てきたのね? 納得したわ。
あなたにおすすめの小説
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。