【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
111 / 222
本編

110.最強のお嫁さん候補らしいわ

 戦という災いが起きたので、最短でも半年は間を置く必要がある。これは神殿のルールなので、勝手に短くできないわ。承諾して頷いた。叔父様が暦表を広げて、最短日と一番近い祝福日を指さす。祝福日はいくつかあるけれど、基本的には九柱の神々にまつわるお祝いだった。

 厄日を避けて最短日を選ぶか、祝福日まで待つか。迷う必要はないわ。だって間が五日だけなんだもの。女神の祝福日を選んで、確定させた。これ以上、我が国土で問題が起きなければ延期はない。各国への通達も含め、エック兄様が予定表に日付を逆算で書き込んだ。

 婚約式が祝福日で、その半月前から儀式は始まる。貴族なら数日で済むのだけれど、地位が高くなるほど儀式は複雑になった。その分、大金を寄進しているのだから当然かもしれない。

「国内で問題が起きなければいいのよね?」

 思わず確認したのは、どこまでが帝国に含まれるか判断する必要があるから。ブリュート領とアディソン領は含まれるし、デーンズ王国はクレーベ公爵が新しい王になって独立を保つ。アルホフ王国も同じね。友好国であるプロイス王国、イエンチュ王国、シュナイト王国も、独立しているわ。

「ブリュートはすでに制圧して管理下にあります。疫病や暴動は起こしません」

 起きないのではなく、起こさない。エック兄様は「アディソン領もすぐに手配します」と付け加えた。リヒター帝国には、前身であるリヒテンシュタット帝国の技術や歴史が受け継がれている。その中に、属国の管理方法があった。

 帝国が衰退して王国が立ち上がった最近ではなく、帝国が始まってすぐの頃の話よ。属国から奪うものと残すもの、与えるものが理由付きで説明されていた。皮に書かれた内容だから残っていたけれど、紙だったら朽ちていた可能性もある。

「神殿にある資料も写しておこう」

 叔父様が優雅にお菓子を摘まんで、口を挟む。頼もしい発言に頷いた。神殿は紙で残したけれど、一般的な紙と違う材料を使うから読めるのね。定期的に神官が写しを作って、内容を複数残しているのも賢い方法だわ。

「半年以内にフォルトの嫁が見つかるといいな」

 ルヴィ兄様が眉根を寄せる。そこで思い出した! 

「クラウス、紹介していただける女性はどなた?」

「皇太后陛下と同じ、イエンチュ王国の部族長の娘です。実力主義で夫を選んだ結果、国内の主要部族の男を叩きのめしてしまったとか」

 私は額を押さえて溜め息を吐いた。強烈な方なのね。つまり「自分より弱い男に嫁ぐ気はない」というやつね。一般的にはそこで強い男が現れて終わるのに、誰も勝てずに負けてしまった、と。

「そんなに強い方、フォルト兄様は大丈夫かしら?」

「皇太后陛下に憧れているそうで、二つ返事でこちらに向かっています」

 え? ああ、そう。もう向かっているならお迎えしないとダメね。クラウスの手配が早いのか、イエンチュ王国の方々がせっかちなのか。両方でしょう。

「首都に到着したらお迎えしなくては……」

「おそらく途中で曲がって、アディソン領との国境の砦に向かうかと」

 フォルト兄様はその先にあるデーンズ王国との国境よ? 帝国を通ったほうが近道なのにどうして。首を傾げて尋ねたところ、クラウスが苦笑いを浮かべた。

「母上に挨拶、か」

 ルヴィ兄様が溜め息を吐く。大きく頷くクラウス、何かを察した顔でお茶を飲む叔父様。動揺した私はお菓子を二つも摘まんで口に放り込んだ。溶けるタイプのギモーブでよかったわ。エック兄様は喜ばしいと手を打って喜んだ。

「あの方が決めてくだされば、フォルトの婚約式も同時にできますね」

 残った四人はそれぞれ別の考えながら、表面上は何も言わず頷きあう。あのフォルト兄様が素直にお見合いするかしら。ガブリエラ様がいれば平気? でも戦って負ける危険もあるわ。戦闘部族が集まって国の形をとったイエンチュの最強が女性だなんて、想像できない。

 戦いに関することで、フォルト兄様を心配することになるとは思わなかったわ。
感想 146

あなたにおすすめの小説

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。