【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
112 / 222
本編

111.ジルヴィアはどうしたの

 ガブリエラ様とフォルト兄様へ手紙を出す。どちらも私が書くことになった。お父様に関しては、手紙がなくてもガブリエラ様に教えてもらえるはずよ。国境の砦には明日にでも到着するけれど、フォルト兄様はもう少しかかるわね。

 騎士団の精鋭が馬を乗り継いで走らせても、三日目の朝が最短でしょう。ガブリエラ様のところへ立ち寄る女性が、伝令より早く到着するはずがない。そのため急ぎといっても、緊急扱いにはしなかった。

 お茶会を終えた私の手を支えるクラウスに、首を傾げる。

「どこで、その女性を知ったの?」

「イエンチュ王国に伝手がありまして」

 情報屋が情報源を隠すのは当然よ。でも気になって口から出てしまったの。イエンチュ王国は、様々な部族の集団で王は持ち回りなの。王への挑戦は五年ごとに認められており、毎回、立候補者が各部族から選出される。部族内で事前に戦って候補者を絞るから、全部の部族が一人ずつ代表を出す形ね。

 優勝者が王と戦い、勝てば王位が移動する。力がすべてのわかりやすい構図だった。ある意味、洗練されているのかもしれない。王を出した部族は、多少発言権が強くなる程度の恩恵しかないの。でも一族から王を出すことは誉れであり、親兄弟は一族内での立場が強まる。

 ガブリエラ様は翌年の優勝候補だったのよ。よくお父様に嫁いでくれたわ。なんでも、弟君に挑戦権を譲ったと聞く。一回は決勝戦で負けたものの、五年後にリベンジして王位に就いた。二期十年務めて、自ら退位したはず。

 記憶を探りながら、どこの部族と繋がっているのかしら? とクラウスを見つめた。

「そのようなお顔をされても、情報源は明かせません」

「そうよね」

 にっこり笑って話を切った。失礼なことをしてしまったわ。そこでふと気づく。娘のジルヴィアをお茶会に連れてくるよう命じたのに、アンナはどうしたの? 宮殿内が騒がしい感じではないから……大丈夫よ。あの子がぐずっただけ。

 連れてこなかった理由を頭の中に思い浮かべるも、不安が膨らんだ。手を引くクラウスより前に出る足が、焦りを示す。

「何かございましたか」

「ジルヴィアが、来なかったでしょう? それで……」

「では、失礼して……急ぎましょう」

 重ねた手をきゅっと握り、引き寄せられる。急いでいた足は素直に彼に従った。たたらを踏む前に、ひょいっと抱き上げられる。今までの速度が嘘のように、クラウスは走り始めた。あまりに揺れるので、首に腕を回してしがみつく。

 怖いのに、落とされる心配はしなかった。支える腕は逞しく、回された腕の位置も適切よ。強張った体を深呼吸で緩めた。庭から廊下に入ると、さらに速度が上がる。すたすたと進む先に、見慣れた扉があった。

「扉を開けてください」

「わかったわ」

 首に回した腕を伸ばし、近づいたノブを回す。そのまま肩で押したクラウスが、滑るように室内へ入った。

「っ! うそ!!」

 室内は荒れている。開けっ放しの窓から風が入ったのか、書類が床に散らばっていた。何かが盗まれたとしても、すぐには判断できない状態よ。それ以上に、隣へ繋がる扉が揺れる事実に目を見開いた。

「おろ……」

「騎士を呼びます」

 私を下したクラウスの声に、はっとする。そうよ、入り口に警備がいたわ。それが消えていて、閉まっていた窓や扉が開けっ放し。まだ敵がいたら……足元の書類を踏みながら、机の裏に隠した短剣を引き抜いた。鞘を机の上に残し、抜き身で進む。

 鼓動がうるさくて、周囲の音を聞き洩らしてしまいそう。自分が攻撃されても、ここまで怖くないわ。でも……ジルヴィアは違う。無力で何もできず、襲われたら身を守れない。あの子が傷ついていませんように。泣き声が聞こえないのは、眠っているから。アンナは何か理由があって……。

 何もなかったと笑える状況を望みながら、風で揺れる扉を押す。左右に目を配り、陰になる場所に注意しながら踏み込んだ。正面に倒れているのは、アンナ? ベビーベッドに駆け寄り、中を覗いて膝から崩れた。
感想 146

あなたにおすすめの小説

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。