【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
113 / 222
本編

112.犯人には痛い目を見てもらうわ

「トリア様! 皇女殿下は……」

「……いない、わ」

 ある意味、ほっとした。この場で動かない我が子と対面したら、絶対に立ち直れないわ。ここで殺さずに連れ去ったなら、絶対に理由がある。私達への切り札として使うか、または身代金を要求するか。

「護衛の騎士はどうしたの!」

「申し訳ございません、先代陛下のお呼び出しを受け……」

「お父様、の?」

 首を傾げる。危ない予感が消え、代わりに呆れが広がった。まさか、お父様が連れ去ったの? でもまだ国境の砦にいるはずよ。いつ帰って、なぜ連れて行ったのか。いえ、半分はわかっている。ガブリエラ様がいない隙に、独占して過ごしたかっただけね。家族に関しては甘く、驚くほど阿呆になるから。

 倒れているアンナを確認すれば、眠っているだけ。どうやら護身用の睡眠草を使われたみたいね。悪知恵の働く父親に、本気で腹が立った。首が据わったばかりの赤子を、母親や乳母から引き離すだなんて! 

「っ、お父様とジルヴィアを捜して! 最優先よ」

「承知いたしました」

 騎士達が分散して動き出す。窓が開いていた執務室へ戻り、中を見回す。私が踏んだ書類が数枚、そのほかに何か落ちているはず。駆けつけた侍従達が拾う書類に、足跡を発見した。女性用の細い靴ではなく、がっちりした男性の靴跡ね。

「……まさかとは思いますが……」

「そのまさかよ。おそらくお父様だわ。窓から入ってはいけないと、何度も……」

 過去にもやらかしたお父様は、ガブリエラ様にかなりきつく叱られた。それでも時間が経てば、懲りずに似たような騒動を起こす。額を押さえて、近くのソファに座った。

 ジルヴィアに何かあったかと思ったあの瞬間、心臓が凍るかと思ったわ。計画の柱とか、そんな理由では説明できない。あの子が本当に愛しくて、大切なの。お父様には痛い目を見て頂きましょう!

「ルヴィ兄様とエック兄様に面会の連絡を、それからガブリエラ様に手紙を出します。準備して」

 侍従達に命じ、先触れの返答を待たずに歩き出す。お兄様二人は、まだ打ち合わせで執務室でしょう。

「お手を」

 クラウスの声が私を落ち着かせてくれる。あの子の安全は疑わないけれど、泣きだしたらお父様の手に負えないでしょうに。表宮へ向かう途中で、叔父様に追いついた。私とクラウスが席を立った後、まだ打ち合わせをしていたみたい。

「叔父様、お願いがありますの」

 呼び止めて、事情を説明した。目を見開いて「なんてことを」と零した叔父様は、私の味方よ。異母弟である叔父様に甘いお父様を、より反省させることができる人を確保したわ。

「同行します」

 侍女など人目があるので、丁寧な大神官の仮面を被る叔父様は斜め後ろについた。やや足音荒く進み、エック兄様の執務室の扉をノックする。許可を得て入室したら、予想通りルヴィ兄様もいた。それと先触れに立った侍従も……。彼に労いの言葉をかける。

「父上がやらかしたらしいな」

「ええ。奥の宮にはいないと思うの。どこか心当たりはあるかしら?」

 尋ねる私に、エック兄様が宮殿の地図を広げた。手早く数か所に印をつけていく。

「この辺りでしょう。手分けして捜しますが、早くしないと……」

 ここで叔父様が地図を覗き込み、一か所を指で示した。

「ここだ。ほかの場所は以前に隠れて見つかっている」

 家族だけの部屋に、叔父様の怒りに満ちた声が響く。走りだそうとした私を押さえ、先に叔父様とルヴィ兄様が向かう。エック兄様は各所に指示を出し、護衛を動かす以外の問題を起こしていないか確認を始めた。私はクラウスと歩調を合わせて追いかける。

 踵の高い靴を脱いで走りたい気持ちを堪え、やや大きな歩幅で踏み出した。見つけたら顔を引っ叩いて、靴で踏んで……呪いのように考えが言葉になってこぼれ出る。

「しばらく面会を禁止するのは効果がありますよ」

 クラウスの指摘に、彼も怒っているのだと察した。
感想 146

あなたにおすすめの小説

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。