【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

131.馬泥棒の死体はどこへ?

 婚約式の相談を始めたら、ガブリエラ様が暴走した。私達四人を我が子のように慈しむ方だから、ある程度は理解できる。興奮した様子でドレスは色違いで、この色が……云々。宝飾品はそれぞれに象徴となる石を選んで、云々。すごい勢いで話すので、頷きながらサラダとスープを食べ終えた。

 卵料理が運ばれたところで、フォルト兄様とアデリナが口を挟む。

「シンプルでいいぞ」

「夫は決まった。家族に話して宴会で終わりだ」

 イエンチュ王国の婚姻は、一族総出で大宴会を開く。お披露目を兼ねているのでしょうね。それで終わり……他部族に知らせる必要もなければ、結婚式という儀式自体がない。もちろん、花嫁花婿は途中で席を外して寝室へ向かうが……それもテントで音は丸聞こえ。すごく野生的というか、シンプルなの。

「帝国の皇族と結婚するのだから、いろいろ儀式があるのよ」

「面倒だ」

 一言で返され、少し迷った。どう説得しようかしら? 先に口を開いたのはクラウスで、すらすらと話し始める。途中でアデリナが食いついた。

「姫様も、着飾るのか?」

「ええ、もちろん。結婚の儀式も一緒です。一番近くで見られるのが、皇族席ですね。結婚式を承諾すれば、皇族席に座れますよ」

 丁寧に何度も「皇族席」を強調する。アデリナはすぐに頷いた。

「皇族席、座る」

「面倒だが、皇族だからな。俺は構わんぞ」

 アデリナが視線を向けた先で、フォルト兄様が承諾する。似たようなタイプだけれど、フォルト兄様は皇族としての立場を叩きこまれてきた。考え方は少し違うみたいね。

 話の間に卵や燻製肉を頂き、パンも味わう。今日のパンはやや黒く、麦の香りが強かった。中にクルミが入っているので、私は好きよ。食べ終えたところで、はたと思い出す。馬泥棒の話を忘れているわ。

「ガブリエラ様にお願いがありますの。実は……」

 お父様が叱られる原因にもなったのだけれど、馬泥棒が出た。お父様の騎士が預けた軍馬を狙い、侍従を倒して奪った……ここまで聞いた時点で、ガブリエラ様の怒りが爆発する。

「なんという! 恥知らずか!! それでもイエンチュの誇り高き戦士の血を引く男だとは……そっ首、叩き落してくれる!」

 そっ首……その首という意味かしら? 疑問に思ったけれど、意味は通じるので流す。

「すでに捕らえて処置いたしました」

「なんだと? そんな楽しそうな事件、どうして俺に知らせなかった!」

「フォルト兄様は戦場にいらしたでしょう?」

 砦にいれば、任せたわ。握った拳でテーブルを叩くフォルト兄様は、それでも参加したかったとぼやく。騎士のティムが聞いたら「どうぞ」と譲るでしょうね。そういえば、ティムを屋敷に呼んでいたけれど、その後どうなったのか。クラウスを見るも、彼は穏やかに微笑むだけ。

 聞くのは後にしましょう。また話がずれてしまうもの。

「……一族の者かもしれん、すまない」

 アデリナが謝罪を始め、慌てたフォルト兄様が慰める。きっと違うとか、別の一族だろうとか。この二人、いい夫婦関係が築けるかもしれないわね。

 侍女達は食器を片付けるが、一部のお皿はフォルト兄様の拳で割れていた。侍従が進み出て、テーブルクロスごと回収される。間違いない対応ね。新しいクロスが敷かれ、食後のお茶が並ぶ。

「話を進めますわ。馬泥棒は確保して処分済み、あら? 死体が届きませんでしたか?」

 私達より前の荷馬車で送ったのよね? 気づいて首を傾げると、クラウスも確認の指示を出した。そうよ、到着時に死体の話が出なかったのはおかしい。アデリナの存在で、すっかり忘れていたなんて。この頃、うっかりミスが多いけれど……疲れているのかしらね。
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