【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
133 / 222
本編

132.二人の共同作業ね

 消えた死体を探す仕事は、騎士達が嬉々として受け入れた。というのも、フォルト兄様が荒れていて、鍛錬の相手をするのが危険だからよ。本来は兵士の雑事なのに、大喜びで出かけていくんですもの。フォルト兄様は朝から何をしでかしたのかしら?

 クラウスの確認によれば、やや殺気立っていたようで……正面から対峙するのが怖いと。その程度でよかったわ。もし八つ当たりでケガでもさせていたら、お仕置きが必要だもの。ガブリエラ様にすでに叱られ、しょんぼりしながら朝食の席についた。

「フォルト兄様にお願いがありますの」

「任せろ!」

 嬉しそうな声と表情に、笑顔で告げた。

「イエンチュ王国と話をつけて下さらない?」

「そういうのは、義母上の仕事だろう。俺がやると力尽ちからづくになるが……」

「ええ、力尽くで構いません」

 フォルト兄様の目が輝く。ある意味、フォルト兄様は生まれる国を間違えた気がするわ。イエンチュ王国で、ガブリエラ様が実母なら……違和感なく溶け込めたと思う。頑張るぞと気合いを入れるフォルト兄様を見守りながら、クラウスの差し出す卵料理に手を付けた。

 上部が綺麗にカットされた半熟の卵を、スプーンで贅沢に頂く。すると次はパンを差し出された。至れり尽くせりというか、従者のような真似をして。睨むと、クラウスは微笑んだ。

「何をしているの」

「トリア様の身を作る食事を、私の手で捧げたいと思いまして」

 フォルト兄様の隣に座ったアデリナが、そわそわし始める。ダメよと制止して、大人しく食事を続けるよう伝えた。私の隣に飛んできて、手で食べさせそうなんだもの。

「ガブリエラ様はどうなさったのかしら?」

「イエンチュ王国の弟君へふみを出されると聞いております」

 エリーゼがすぐに答える。こういった情報を仕入れるのも、侍女の仕事の一つ。伝言を預かったというより、ガブリエラ様の世話をする侍女に聞いた感じね。

 ガブリエラ様の実家は、王を輩出した名家だった。馬泥棒を探るなら最適でしょう。顔も利くし、発言権も強い。他国に迷惑をかけた事例なら、他の部族も異議を唱えないはず。彼らにとって、名誉を著しく棄損する事件だもの。協力的でしょうね。

「トリア、いつから出かけられるのだ?」

「フォルト兄様の準備が整ったら、いつでも。ガブリエラ様には挨拶をしてくださいね。それと、アデリナを伴うこと」

「わかった!」

「嫌だ」

 即答で断ったのは、アデリナよ。私の近くにいたいと駄々を捏ねる。むっとした顔をされると迫力があるわ。でも拗ねた大型犬みたいで可愛いと思ってしまう。

「上手におつかいができたら、あなたの好きなドレスを着てあげるわ。三日間でどうかしら?」

「……選んでいいのか?!」

「くそっ、俺も嫌だと言えばよかった」

 興奮するアデリナの隣で、悔しそうに拳を握るフォルト兄様。仕方ないのでフォルト兄様にも同じ条件を出した。私は別に何を着てもいいのよ。提示するドレスを事前に選択しておけば、奇妙な恰好をさせられる心配は要らない。

 まだ夫婦ではないけれど、初の共同作業ね。すごい勢いで朝食を平らげ、準備をしに自室へ戻っていった。入れ替わりでガブリエラ様が入室し、実家に手紙を出す話を始める。

「フォルト兄様とアデリナを遣わすつもりです。ガブリエラ様はご一緒に戻りましょう」

「砦はどうする?」

 カトラリーの使い方は正しいし、動きも綺麗なのに……驚く速さで料理が減っていく。ガブリエラ様はあっという間に食べ終わり、食後のお茶を口にした。

「騎士ティム・リールに砦を任せます。将軍職に見合う実力者ですよ」

 クラウスは淡々と過去の実績を並べた。確かに十分な強さと指揮能力がありそう。ティムに新しい地位を与える話は、すでにエック兄様達と打ち合わせ済みだ。ハイノも将軍に推薦しておいた。将軍は元帥と違って、あと何人か増やしてもいいわ。
感想 146

あなたにおすすめの小説

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。