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本編
134.策略謀略は宮廷の華よ
それぞれに出かける準備を整え、騎士達に将軍が来るまでの管理を委任する。面倒だけれど、国や軍を動かす以上、あとはよろしくの挨拶だけで留守にできないの。臨時でも叙任を行い、皇族が認めて託した形を他の騎士に見せる必要があった。
フォルト兄様の直属の騎士から選んだ黒髪の青年は、敬礼したあとで剣を半分抜いて捧げた。ガブリエラ様が慣れた様子で受け取り、音をさせて鞘に戻す。片手で掴んで剣を返したけれど、あれは結構重かった。私だと腕がぷるぷる震えて恰好がつかないの。
「解散!」
ガブリエラ様の号令で、それぞれに持ち場へ戻っていく。フォルト兄様は黒髪の騎士に声をかけて肩を叩いた。激励したようね。ハイノが実務的な引き継ぎをするようで、騎士と話を始める。時間がかかりそうね。
首都へ戻る私達のほうが先に出発となった。悲しそうに見送るアデリナの姿に、苦笑が浮かぶ。馬車に乗り込み、手を振ってあげた。幼子みたいに素直に感情を示す者は、私の周囲には少ない。フォルト兄様くらいかしら? 微笑ましく、危ういから直すべきと思うのに、このままでいてほしい本音もあって。
動き出した馬車の中で、ガブリエラ様が足を組んで不満そうな顔を見せる。向かいに腰かけた私とクラウスは顔を見合わせ、肩を竦めた。馬車に乗る寸前まで、騎乗すると駄々を捏ねたのよ。そのせいもあって、ガブリエラ様は乗馬服のまま。
「ご相談がありますの」
「……聞こう」
八つ当たりはみっともない。ガブリエラ様が私達兄妹によく言い聞かせた言葉よ。だから機嫌や体調が悪くても、ガブリエラ様は八つ当たりをしない。不機嫌だぞと示すのは忘れない人だけれど、私にしたら心地よい存在だった。裏表はあるけれど、嘘がないのよね。
「婚約式のことですわ」
急がなければならない理由ができた。リヒター帝国の勢力が拡大し続ける状況で、他国から姫を娶らない兄達の婚約に異議が出る可能性がある。私にしても、未婚の子持ちで戻ってきた。帝国貴族との婚約なら、自分がと手を挙げる家が出そう。もちろん、出てきたら潰すけれど。
邪魔をされないために、先に婚約という形で目に見える枷を作る必要があるわ。半分は屁理屈ね。皇族として生まれたから、望まない結婚も受け入れた。でも二度目はもう嫌なの。もし……あのまま夫婦関係が続いていたら、そんなこと考えなかったでしょう。
一度ヒビが入って割れたカップは元に戻らない。繋いでも漏れるわ。私の感情も同じ、割れて溢れ出した感情は止まらなかった。我が儘に泣き叫ぶのよ。
「なるほど。貴族とは欲深い者らの名称だからな」
ガブリエラ様は脳筋に近いけれど、察しがいい。お父様と話していても、きちんと先を読んで返事をしていた。でも……貴族が欲深いなら、その頂点に立つ皇族はどうなるのかしらね。
「ところで、だ。話が変わるのだが……マインラートは本当に風呂で骨を折ったのか?」
どういう意味? 叔父様が嘘をついたとでも……いえ、あり得るわ。お父様も協力しての嘘か、巻き込まれただけか。判断はできないけれど。策略謀略は宮廷の華よ。皇帝だったお父様も、神殿で頂点に立つ大神官の叔父様も、謀は得意なはず。
「確認いたしましょうか?」
黙していたクラウスが口を開き、私とガブリエラ様は目を合わせてから頷いた。
「そうね、確認しておきましょう」
すでにエック兄様が動いている可能性もあるけれど、確認だけなら問題ないわ。お父様のケガを鵜吞みにして、会いに行かなかった私の失態ね。本当に、この頃はうまくいかないことばかり。
フォルト兄様の直属の騎士から選んだ黒髪の青年は、敬礼したあとで剣を半分抜いて捧げた。ガブリエラ様が慣れた様子で受け取り、音をさせて鞘に戻す。片手で掴んで剣を返したけれど、あれは結構重かった。私だと腕がぷるぷる震えて恰好がつかないの。
「解散!」
ガブリエラ様の号令で、それぞれに持ち場へ戻っていく。フォルト兄様は黒髪の騎士に声をかけて肩を叩いた。激励したようね。ハイノが実務的な引き継ぎをするようで、騎士と話を始める。時間がかかりそうね。
首都へ戻る私達のほうが先に出発となった。悲しそうに見送るアデリナの姿に、苦笑が浮かぶ。馬車に乗り込み、手を振ってあげた。幼子みたいに素直に感情を示す者は、私の周囲には少ない。フォルト兄様くらいかしら? 微笑ましく、危ういから直すべきと思うのに、このままでいてほしい本音もあって。
動き出した馬車の中で、ガブリエラ様が足を組んで不満そうな顔を見せる。向かいに腰かけた私とクラウスは顔を見合わせ、肩を竦めた。馬車に乗る寸前まで、騎乗すると駄々を捏ねたのよ。そのせいもあって、ガブリエラ様は乗馬服のまま。
「ご相談がありますの」
「……聞こう」
八つ当たりはみっともない。ガブリエラ様が私達兄妹によく言い聞かせた言葉よ。だから機嫌や体調が悪くても、ガブリエラ様は八つ当たりをしない。不機嫌だぞと示すのは忘れない人だけれど、私にしたら心地よい存在だった。裏表はあるけれど、嘘がないのよね。
「婚約式のことですわ」
急がなければならない理由ができた。リヒター帝国の勢力が拡大し続ける状況で、他国から姫を娶らない兄達の婚約に異議が出る可能性がある。私にしても、未婚の子持ちで戻ってきた。帝国貴族との婚約なら、自分がと手を挙げる家が出そう。もちろん、出てきたら潰すけれど。
邪魔をされないために、先に婚約という形で目に見える枷を作る必要があるわ。半分は屁理屈ね。皇族として生まれたから、望まない結婚も受け入れた。でも二度目はもう嫌なの。もし……あのまま夫婦関係が続いていたら、そんなこと考えなかったでしょう。
一度ヒビが入って割れたカップは元に戻らない。繋いでも漏れるわ。私の感情も同じ、割れて溢れ出した感情は止まらなかった。我が儘に泣き叫ぶのよ。
「なるほど。貴族とは欲深い者らの名称だからな」
ガブリエラ様は脳筋に近いけれど、察しがいい。お父様と話していても、きちんと先を読んで返事をしていた。でも……貴族が欲深いなら、その頂点に立つ皇族はどうなるのかしらね。
「ところで、だ。話が変わるのだが……マインラートは本当に風呂で骨を折ったのか?」
どういう意味? 叔父様が嘘をついたとでも……いえ、あり得るわ。お父様も協力しての嘘か、巻き込まれただけか。判断はできないけれど。策略謀略は宮廷の華よ。皇帝だったお父様も、神殿で頂点に立つ大神官の叔父様も、謀は得意なはず。
「確認いたしましょうか?」
黙していたクラウスが口を開き、私とガブリエラ様は目を合わせてから頷いた。
「そうね、確認しておきましょう」
すでにエック兄様が動いている可能性もあるけれど、確認だけなら問題ないわ。お父様のケガを鵜吞みにして、会いに行かなかった私の失態ね。本当に、この頃はうまくいかないことばかり。
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