136 / 222
本編
135.兄弟水入らずの雑談 ***SIDEウルリヒ
「兄上、わかっているだろうが」
「もちろんだ。骨折の演技は任せろ!」
にやりと笑う兄に、もっと黒い笑みで応じる。前皇帝が動けなくなった。この情報でどれだけの貴族が踊るか、神殿で起きた事故と知って誰が動くか。見極めて排除する必要があった。可愛い姪トリアの未来は明るく、平坦でなくてはならない。
神殿を騙したアディソン王国は、すでに罰を受けた。国が滅びてリヒター帝国の一領地となっている。愚かにも甥に喧嘩を売ったブリュート王国も、エッケハルトに叩きのめされた。アルホフ王国は形を保っているが、我が国に従属している。元からの同盟国には恩恵を与え、神殿が完全に掌握した。
プロイス王国が静かなのが気になる。神殿からの報告では、リヒター帝国と姫の婚約が解消された影響で、貴族が騒がしいようだ。当然だろう。愚かな女を皇妃にせずに済んだルートヴィッヒは、安心しているはず。
「だが……ウルリヒ。トリアを出し抜ける貴族はおらんだろう」
「それでも、羽虫は飛び回るだけで邪魔だ」
視界の端でちらちらと飛ぶことが、すでに排除対象となる。彼らが企んでいるのは、トリアを襲って配偶者に収まること。ローヴァイン侯爵が、婚姻によって「公爵」に陞爵される。この話を違う意味で受け取った阿呆どもだ。
トリアを娶れば公爵になれるのではない。公爵の枠が一つ空いたので、侯爵家の一つが陞爵する。公爵家は、皇族の血を受け入れてこそ存在価値があった。クラウスがたまたま有力な侯爵家の当主であり、偶然にも有能だっただけ。
表向きはそう受け取られている。トリアを大切に愛し抜く覚悟を持つ男を選んだのは、こちら側だ。繰り上がりではなく、周囲を落として作った穴にクラウスを当てはめた。順番も手段も、上位貴族が見極められないとあれば……滅ぼしても構わん。有能な下はいくらでもいる。
「一か月の猶予があるから、じっくり選定できそうだな」
「その前にトリアにバレる。あの子を見縊るな」
楽観的な異母兄に釘を刺す。皇帝の座を退いてから、少し緩んでいるのではないか? 片眉を上げて厳しい口調で注意すれば、嬉しそうに笑う。相変わらず、身内に甘い男だ。
「確かにトリアは聡い。ルートヴィッヒは後でもいいが、エッケハルトは情報共有が必要か」
「それは俺が繋ぎを取る。見舞いを適当にあしらいながら探れ。いいか、ミスをするなよ」
「うむ。これでも皇帝だったのだ」
やってみせる! 軽く請け合う異母兄が、どことなく信用できない。だが皇帝として君臨した期間、大きな功績もないが失態もなかった。計画が動き出した以上、任せるしかあるまい。
「知っているか? 初恋は実らぬそうだ」
「……知っている」
改めて言われても、もう胸は痛まない。信頼できる男にトリアを任せることに、迷いはなかった。彼女がクラウスに恋をしているのは、見ていて伝わる。その想いを壊す気はなく、応援して実らせたかった。皇族の血を薄めるために、好きでもない男と政略結婚までしたのだ。……正確には未婚の母か。
今度こそ、好きな人と添い遂げてほしいと願うのは、我々だけではない。トリアの兄三人も同じだろう。全力で守り抜く。
「兄上の初恋はどうだった?」
「……ふむ、実らなかったな」
義姉上ではない女性に恋をしたのか。思わぬ発言を掘り下げ、久しぶりに兄弟で夜を明かして雑談をした。謀略や策略が絡まぬ、ただの過去の思い出や恋話で朝日を拝み……苦笑いして肩を叩き合った。こういうのも、悪くない。
「もちろんだ。骨折の演技は任せろ!」
にやりと笑う兄に、もっと黒い笑みで応じる。前皇帝が動けなくなった。この情報でどれだけの貴族が踊るか、神殿で起きた事故と知って誰が動くか。見極めて排除する必要があった。可愛い姪トリアの未来は明るく、平坦でなくてはならない。
神殿を騙したアディソン王国は、すでに罰を受けた。国が滅びてリヒター帝国の一領地となっている。愚かにも甥に喧嘩を売ったブリュート王国も、エッケハルトに叩きのめされた。アルホフ王国は形を保っているが、我が国に従属している。元からの同盟国には恩恵を与え、神殿が完全に掌握した。
プロイス王国が静かなのが気になる。神殿からの報告では、リヒター帝国と姫の婚約が解消された影響で、貴族が騒がしいようだ。当然だろう。愚かな女を皇妃にせずに済んだルートヴィッヒは、安心しているはず。
「だが……ウルリヒ。トリアを出し抜ける貴族はおらんだろう」
「それでも、羽虫は飛び回るだけで邪魔だ」
視界の端でちらちらと飛ぶことが、すでに排除対象となる。彼らが企んでいるのは、トリアを襲って配偶者に収まること。ローヴァイン侯爵が、婚姻によって「公爵」に陞爵される。この話を違う意味で受け取った阿呆どもだ。
トリアを娶れば公爵になれるのではない。公爵の枠が一つ空いたので、侯爵家の一つが陞爵する。公爵家は、皇族の血を受け入れてこそ存在価値があった。クラウスがたまたま有力な侯爵家の当主であり、偶然にも有能だっただけ。
表向きはそう受け取られている。トリアを大切に愛し抜く覚悟を持つ男を選んだのは、こちら側だ。繰り上がりではなく、周囲を落として作った穴にクラウスを当てはめた。順番も手段も、上位貴族が見極められないとあれば……滅ぼしても構わん。有能な下はいくらでもいる。
「一か月の猶予があるから、じっくり選定できそうだな」
「その前にトリアにバレる。あの子を見縊るな」
楽観的な異母兄に釘を刺す。皇帝の座を退いてから、少し緩んでいるのではないか? 片眉を上げて厳しい口調で注意すれば、嬉しそうに笑う。相変わらず、身内に甘い男だ。
「確かにトリアは聡い。ルートヴィッヒは後でもいいが、エッケハルトは情報共有が必要か」
「それは俺が繋ぎを取る。見舞いを適当にあしらいながら探れ。いいか、ミスをするなよ」
「うむ。これでも皇帝だったのだ」
やってみせる! 軽く請け合う異母兄が、どことなく信用できない。だが皇帝として君臨した期間、大きな功績もないが失態もなかった。計画が動き出した以上、任せるしかあるまい。
「知っているか? 初恋は実らぬそうだ」
「……知っている」
改めて言われても、もう胸は痛まない。信頼できる男にトリアを任せることに、迷いはなかった。彼女がクラウスに恋をしているのは、見ていて伝わる。その想いを壊す気はなく、応援して実らせたかった。皇族の血を薄めるために、好きでもない男と政略結婚までしたのだ。……正確には未婚の母か。
今度こそ、好きな人と添い遂げてほしいと願うのは、我々だけではない。トリアの兄三人も同じだろう。全力で守り抜く。
「兄上の初恋はどうだった?」
「……ふむ、実らなかったな」
義姉上ではない女性に恋をしたのか。思わぬ発言を掘り下げ、久しぶりに兄弟で夜を明かして雑談をした。謀略や策略が絡まぬ、ただの過去の思い出や恋話で朝日を拝み……苦笑いして肩を叩き合った。こういうのも、悪くない。
あなたにおすすめの小説
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。