137 / 222
本編
136.夫となる男を連れた凱旋だ ***SIDEアデリナ
力尽くで構わないと言われた。浮かれながら、旅支度を整える。イエンチュ王国へは一日半の道のりだった。夫と定めた男を見上げる。フォルクハルト、リヒター帝国の皇帝の末弟だと聞いた。あの女傑ガブリエラ様のご子息だが……他の女が産んだ子で血は繋がらないようだ。
ガブリエラ様の実子であれば、なおよかったが……あの美しいトリアも実のお子ではないと聞く。ならば構わん。トリアと義理の姉妹として繋がれるのだ。フォルクハルトの強さは認めていた。この男になら今後の人生と身を任せても後悔しないだろう。
やはり男は、強ければ強いほどいい。イエンチュの部族を総浚いした結果、外へ探しに出たのは正解だったな。皇族だから馬車に乗ってぞろぞろと行列を作ると思えば、少数精鋭で騎乗にて移動と告げられた。こういうところも好ましい。
「アデリナ、準備ができたか?」
「問題ない」
女性らしくないあたしを、それでも妻にすると言い切った。鍛えて武骨な手足、指、硬い手のひら、太い胴回り……何もかもが輝いて見える。実家への凱旋だ。周囲の女戦士どもに自慢してやろう。にやりと笑い、愛馬に跨った。
この砦の厩は居心地がよかったらしく、毛艶も機嫌もいい。愛馬の首をぽんぽんと叩き、フォルクハルトの指示を待った。あたしより強い男に従うのは、屈辱ではなく誇りだ。彼の馬が地を蹴るのを見届け、愛馬の手綱を引いた。同行する騎士は五人ほど、皆、立派な体格をしている。
連れて行くと、女どもが群がりそうだな。夫フォルクハルトに粉を掛けたら叩きのめすが、それ以外は大目に見てやろうか。一日半の距離を、ほぼ一日に短縮して走る。馬の休憩以外は馬上にあり、かなり急ぎの強行軍だった。
「早くトリアに会いたいからな」
「わかった」
同じ気持ちだ。頷きあい、視線を交わすだけで伝わる。父の言葉は誠だった。同じレベルに達した者同士、意思の疎通に言葉は不要だと。戦い、剣先を交え、ともに眠れば兄弟も同じ。教わった言葉が、実感となって胸に広がった。
イエンチュ王国の国境を示す塀は存在しない。どこから攻め込まれても防いでみせる! その意気込みと、同盟国への信頼の表れだ。相反するようだが、どちらも本心だった。信頼する相手であっても、卑怯な不意打ちがあれば受けて立つ。
集落が見えてきた。思い出したのは、馬泥棒の話だ。ガブリエラ様もトリアも、不快だと表情を曇らせた。おそらく、死体を持ち去ったのはイエンチュの民だろう。どの部族かわからないが、必ず取り戻す。そして褒めてもらうのだ!
馬の速度を上げて、フォルクハルトの前に出た。
「あたしが先に立つ。ここはあたしの縄張りだからな」
「よし、任せる!」
驚いて振り返った。あたしに任せる、と? ここは敵地も同然なのに、あたしを信頼しているのか。期待されたら応えるのが戦士の流儀。犯人を見つけて、あんたに引き渡してみせよう。
「戻ったのか? 後ろの連中は……」
「あたしの夫と、その従者だ。この国から恥知らずが出た。探すから手伝え」
第三の部族タラバンテではないが、共闘関係にある第五の部族シャリアの男だ。あたしの夫になると宣言して戦い、敗れた。フォルクハルトを見て驚いた顔をするが、頷いて並走する。馬上で簡単な説明を行い、シャリアの長へ取次ぎを願う。
どの種族が相手でも勝って、トリアに褒めてもらうのだ。フォルクハルトも撫でてくれるかもしれない。普通の女のように、甘やかしてほしかった。報酬として強請ってみよう。浮かれる気持ちを抑えながら、シャリアの町の門をくぐった。
ガブリエラ様の実子であれば、なおよかったが……あの美しいトリアも実のお子ではないと聞く。ならば構わん。トリアと義理の姉妹として繋がれるのだ。フォルクハルトの強さは認めていた。この男になら今後の人生と身を任せても後悔しないだろう。
やはり男は、強ければ強いほどいい。イエンチュの部族を総浚いした結果、外へ探しに出たのは正解だったな。皇族だから馬車に乗ってぞろぞろと行列を作ると思えば、少数精鋭で騎乗にて移動と告げられた。こういうところも好ましい。
「アデリナ、準備ができたか?」
「問題ない」
女性らしくないあたしを、それでも妻にすると言い切った。鍛えて武骨な手足、指、硬い手のひら、太い胴回り……何もかもが輝いて見える。実家への凱旋だ。周囲の女戦士どもに自慢してやろう。にやりと笑い、愛馬に跨った。
この砦の厩は居心地がよかったらしく、毛艶も機嫌もいい。愛馬の首をぽんぽんと叩き、フォルクハルトの指示を待った。あたしより強い男に従うのは、屈辱ではなく誇りだ。彼の馬が地を蹴るのを見届け、愛馬の手綱を引いた。同行する騎士は五人ほど、皆、立派な体格をしている。
連れて行くと、女どもが群がりそうだな。夫フォルクハルトに粉を掛けたら叩きのめすが、それ以外は大目に見てやろうか。一日半の距離を、ほぼ一日に短縮して走る。馬の休憩以外は馬上にあり、かなり急ぎの強行軍だった。
「早くトリアに会いたいからな」
「わかった」
同じ気持ちだ。頷きあい、視線を交わすだけで伝わる。父の言葉は誠だった。同じレベルに達した者同士、意思の疎通に言葉は不要だと。戦い、剣先を交え、ともに眠れば兄弟も同じ。教わった言葉が、実感となって胸に広がった。
イエンチュ王国の国境を示す塀は存在しない。どこから攻め込まれても防いでみせる! その意気込みと、同盟国への信頼の表れだ。相反するようだが、どちらも本心だった。信頼する相手であっても、卑怯な不意打ちがあれば受けて立つ。
集落が見えてきた。思い出したのは、馬泥棒の話だ。ガブリエラ様もトリアも、不快だと表情を曇らせた。おそらく、死体を持ち去ったのはイエンチュの民だろう。どの部族かわからないが、必ず取り戻す。そして褒めてもらうのだ!
馬の速度を上げて、フォルクハルトの前に出た。
「あたしが先に立つ。ここはあたしの縄張りだからな」
「よし、任せる!」
驚いて振り返った。あたしに任せる、と? ここは敵地も同然なのに、あたしを信頼しているのか。期待されたら応えるのが戦士の流儀。犯人を見つけて、あんたに引き渡してみせよう。
「戻ったのか? 後ろの連中は……」
「あたしの夫と、その従者だ。この国から恥知らずが出た。探すから手伝え」
第三の部族タラバンテではないが、共闘関係にある第五の部族シャリアの男だ。あたしの夫になると宣言して戦い、敗れた。フォルクハルトを見て驚いた顔をするが、頷いて並走する。馬上で簡単な説明を行い、シャリアの長へ取次ぎを願う。
どの種族が相手でも勝って、トリアに褒めてもらうのだ。フォルクハルトも撫でてくれるかもしれない。普通の女のように、甘やかしてほしかった。報酬として強請ってみよう。浮かれる気持ちを抑えながら、シャリアの町の門をくぐった。
あなたにおすすめの小説
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります
たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。
リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。
「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。
リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
【完結済】婚約者から病弱な妹に腹を貸せと言われました
砂礫レキ
恋愛
2026/03/28誤字脱字修正しました。
エイデン伯爵家の長女イアナには病弱な妹アリーシャと末弟のルアンが居た。
両親は病弱なアリーシャと後継者のルアンにかかりきりでイアナをかえりみない。贈り物さえイアナの分だけ使用人に適当に考えさせていた。
結婚し家を出れば自分も一人の人間として尊重して貰える。
そんなイアナの希望は婚約者クロスによって打ち砕かれる。
彼はイアナの妹アリーシャと恋仲になっていただけでなく、病弱なアリーシャの代わりにイアナに子供を産むようにと言った。
絶望の中イアナは一人の少年を思い出す。
いつのまにか消えてしまった義兄ルーク、彼だけがイアナに優しくしてくれた人だった。
自分が近い内に死ぬ夢を見たイアナは毒家族の元から去る決意をする。
私が生きていたことは秘密にしてください
月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。
見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。
「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」
【完結】婚約破棄に祝砲を。あら、殿下ったらもうご結婚なさるのね? では、祝辞代わりに花嫁ごと吹き飛ばしに伺いますわ。
猫屋敷むぎ
恋愛
王都最古の大聖堂。
ついに幸せいっぱいの結婚式を迎えた、公女リシェル・クレイモア。
しかし、一年前。同じ場所での結婚式では――
見知らぬ女を連れて現れたセドリック王子が、高らかに宣言した。
「俺は――愛を選ぶ! お前との婚約は……破棄だ!」
確かに愛のない政略結婚だったけれど。
――やがて、仮面の執事クラウスと共に踏み込む、想像もできなかった真実。
「お嬢様、祝砲は芝居の終幕でと、相場は決まっております――」
仮面が落ちるとき、空を裂いて祝砲が鳴り響く。
シリアスもラブも笑いもまとめて撃ち抜く、“婚約破棄から始まる、公女と執事の逆転ロマンス劇場”、ここに開幕!
――ミステリ仕立ての愛と逆転の物語です。スッキリ逆転、ハピエン保証。
※「小説家になろう」にも掲載。
※ アルファポリス完結恋愛13位。応援ありがとうございます。