【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
142 / 222
本編

141.面会と危険の兆候

 このまま数日休むことになり、溜まる書類の心配をしてしまう。見舞いに来たエック兄様が「兄上にやらせればいいでしょう」と書類を運び出させた。

「ルヴィ兄様も書類があるのに……」

「もともと、トリアが嫁いでからは兄上の仕事でしたよ。引き受けすぎです。マルグリット嬢も心配していました」

「申し訳ないわ」

「それと、僕の婚約者であるコルネリアも。トリアの大ファンですからね」

 あれこれ聞かれて大変だったと言いながらも、エック兄様の表情は明るい。コルネリア嬢はエック兄様が無理しそうなのを察して、止めに来たのだと思うわ。とても愛らしい女性で、どうしたら自分が可愛く見えるかよく知っている人よ。私のファンという言葉に嘘はないと思うけれど、本命はエック兄様。

 顔を合わせて気持ちを解し、抜け道を教えたかったのでしょうね。ライフアイゼン公爵の孫娘だもの。両親に不幸があり、本家の養女になったけれど。賢いし立ち回りもうまい。大公妃になっても十分やっていける子よ。

「コルネリアによろしく伝えて。お見舞いはいらないけれど、近いうちにお茶会をしようと思っているの」

「ええ、もちろんです。彼女も喜びます」

 お人形のような愛らしさを武器にするコルネリアは、裏ではかなりの策略家よ。エック兄様も知っていて、そのギャップに惚れているんだもの。厄介よね。でも皇族の配偶者になる人は、先祖を辿っても変わり者ばかり。そんな変わり者に惚れるのだから、私達もどうかと思うけれど。

 そこで、クラウスとのキスを思い出す。無意識に唇に手を当てていたようで、エック兄様の視線で気づき、慌てて手を引っ込めた。

「叔父上から面会の要望がありました」

「大神官様が快癒の祈りをくださるのかしら?」

 ふふっと笑う。ガブリエラ様が乗り込んで嘘がバレたので、言い訳にいらっしゃるのね。訪問の許可を出して、エック兄様を見送った。少し疲れたわ。寝込むって体力を使うのね。寝てばかりで楽だと思っていたのに。

 エリーゼに勧められるまま、ベッドに横になる。日が暮れた後、ルヴィ兄様が見舞いに来る予定だった。窓の外の日差しを見れば、あと二刻は眠れそう。視線を外へ向けたからか、エリーゼがカーテンを閉めた。日差しを遮る分厚いカーテンが、室内を暗くする。

「お休みください」

「ルヴィ兄様がいらしたら、起こして頂戴」

 エリーゼの承諾の返事を聞きながら、目を閉じた。心地よい眠りはすぐに訪れ、ふっと意識が浮上する。すっきりしていた。目を開こうとして、誰かの気配を感じる。衣擦れの音? 何か聞こえた。気になって薄く目を開くも、室内が暗くてよく見えない。

 エリーゼがいない状態で、カーテンが引かれたまま。訪問者ではないから、ルヴィ兄様は違う。エック兄様も仕事があるから戻ったはず……。

「すまん、起こしたか」

 聞き慣れた声に、強張った体から力が抜ける。

「ガブリエラ様……」

 今度はきちんと目を開き、ゆっくりと身を起こした。枕やクッションを背に当てて座れば、ガブリエラ様がベッドの端に腰を下ろす。ぎしっと軋む音が聞こえた。

「マインラートの話は聞いたか?」

「はい、叔父様が言い訳に見えられるようですわ。面会の希望がありました」

「……あまり叱ってやるな。そなたの敵を減らそうと考えたのだ」

 口元に笑みを浮かべた。暗い中でも見えているのか、ガブリエラ様の手が髪に触れる。眠るため解いていた髪を乱しながら、ゆっくりと頭を撫でられた。久しぶりだわ。実母はこうして撫でてくれた記憶がないから、私の母親の記憶は、すべてガブリエラ様だ。

「クラウスを呼び寄せ、常に隣に置け。それ以外の時も、信頼できる者を必ず控えさせよ。狙われているのは、理解できるであろう?」

「……未婚の皇族女性だから、ですわね?」

「ああ、そなたを幸運への近道と考える阿呆どもがいる」

 排除するまで待て? それくらいなら罠にかけて、この手で処分しますわ。
感想 146

あなたにおすすめの小説

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。