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本編
153.愛を試したくなるの
奔放な皇妹殿下、夜会でやらかす……そんな噂に頬を緩めた。翌日から貴族は大騒ぎになった。若い貴族は肯定的に捉え、私達への称賛の声すら上がる。年配者は渋い顔で「はしたない」「人前でなど」と貶した。こういった話題は不敬罪が適用してこなかったので、好き勝手に口にしているようね。
「罰しますか?」
「あら、どうして? 私は楽しんでいるわ」
その気もないのに尋ねるなんて、クラウスも私に染まってきたわ。婚約式の準備は順調で、ガブリエラ様が動いている。叔父様はあちこちに根回しし、お父様に至っては貴族の粛清を始めるみたい。クラウスに伝えて、お父様へ情報を流すよう手配してもらった。
当代の皇帝陛下であるルヴィ兄様が断罪すれば、遺恨が残る。貴族はその家だけでなく、他家との縁組によって地位や財産を守るのが通例だった。一つの伯爵家を潰すと、嫁ぎ先の侯爵家やら先代と繋がりのある子爵家やら。様々な家が口出ししてくるのだ。そこに寄り親や寄り子貴族が混じれば……大混乱となる。
皇帝の権力が強いのに、失礼な貴族がはびこる原因はここにあった。ノイベルト公爵家が増長し、ギーレン公爵を巻き込んだのも……自分達は公爵家だから守られると勘違いした所為よ。公爵家だから潰されないという不文律を、私は徹底的に壊した。
目障りでも生かされてきたのは、ルヴィ兄様の功績とするためなの。ガブリエラ様やお父様が前に出て潰せば、ルヴィ兄様が傀儡のように映る。だから私の発案で、エック兄様が図面を引いた策を決行した。ルヴィ兄様の手柄になるように、工夫して。
「噂はほかに何が流れているの?」
「そうですね」
濁すことなく、相手の言葉をそのまま伝えられた。すでに体の関係があるのではないか、ふしだらな……なんて、強気だこと。侯爵とやらは随分偉いのね。階級制度が変わったのかしら? 若い伯爵は羨ましいと素直に口にしたとか。
まったく別の噂で、フォルト兄様の婚約者アデリナが粗野だの、野蛮だの、そんな噂も聞こえるらしい。鍛えた体は令嬢らしくないし、振る舞いも貴族ではない。でもフォルト兄様と並んで遜色ない美しさを持っているわ。なにより強さ至上主義のフォルト兄様が満足しているんだもの。
何を言っても負け犬の遠吠えね。令嬢を嫁がせ損ねた貴族の舌打ちと同じ、意味も価値もなかった。
大きな問題になる噂は流れていない。私やコルネリアが襲われたとする醜聞は、対処が早かったことやその後の噂に紛れて消えてしまった。噂の上書きは思ったより効果が高いわ。今後も積極的に使っていきましょう。
自室で、可愛いジルヴィアを抱く。その隣で、クラウスが鮮やかなハンカチを揺らした。興味をそそられるのか、ジルヴィアの小さな手が動く。掴もうとする指が、やっとハンカチの端を握った。あぐぅ……可愛い声をあげて、口に押し込む。
赤ん坊って、何でも口に入れるのよね。乳母や侍女達も苦労が絶えないと思うわ。はいはいして動き回るようになれば、もっと大変になるはず。足で空中を蹴る動きが力強いので、そろそろ這いずり回るかもしれない。人手を増やすよう、伝えておきましょう。
「皇女殿下は……」
「ジルヴィア、よ」
「……承知いたしました。ジルヴィア皇女殿下はお元気ですね」
何度言い聞かせても、クラウスは頑なにジルヴィアを皇女と呼ぶ。ルヴィ兄様の養女にしたから、距離を取っているのね。でも義理とはいえ、父親になるのよ? 私が産んだ事実は変わらないんだもの。この点は後で話し合ったほうがよさそう。
「ねえ、クラウス。あなたは自分の血を引く子が欲しい?」
私に産んでほしいと願うのかしら? 問いかけた途端、クラウスの目の色が濃くなった。長いまつ毛が伏せられ、口角が持ち上がる。
「どう答えたら、あなた様のお気に召すか。それを考える男ですが……正直に申し上げるなら、欲しいですよ」
誤魔化すことを考えたが、正直に答える。そんな返答に、私は嬉しくなった。良かったわ、あなたが欲しがってくれる女で。
「罰しますか?」
「あら、どうして? 私は楽しんでいるわ」
その気もないのに尋ねるなんて、クラウスも私に染まってきたわ。婚約式の準備は順調で、ガブリエラ様が動いている。叔父様はあちこちに根回しし、お父様に至っては貴族の粛清を始めるみたい。クラウスに伝えて、お父様へ情報を流すよう手配してもらった。
当代の皇帝陛下であるルヴィ兄様が断罪すれば、遺恨が残る。貴族はその家だけでなく、他家との縁組によって地位や財産を守るのが通例だった。一つの伯爵家を潰すと、嫁ぎ先の侯爵家やら先代と繋がりのある子爵家やら。様々な家が口出ししてくるのだ。そこに寄り親や寄り子貴族が混じれば……大混乱となる。
皇帝の権力が強いのに、失礼な貴族がはびこる原因はここにあった。ノイベルト公爵家が増長し、ギーレン公爵を巻き込んだのも……自分達は公爵家だから守られると勘違いした所為よ。公爵家だから潰されないという不文律を、私は徹底的に壊した。
目障りでも生かされてきたのは、ルヴィ兄様の功績とするためなの。ガブリエラ様やお父様が前に出て潰せば、ルヴィ兄様が傀儡のように映る。だから私の発案で、エック兄様が図面を引いた策を決行した。ルヴィ兄様の手柄になるように、工夫して。
「噂はほかに何が流れているの?」
「そうですね」
濁すことなく、相手の言葉をそのまま伝えられた。すでに体の関係があるのではないか、ふしだらな……なんて、強気だこと。侯爵とやらは随分偉いのね。階級制度が変わったのかしら? 若い伯爵は羨ましいと素直に口にしたとか。
まったく別の噂で、フォルト兄様の婚約者アデリナが粗野だの、野蛮だの、そんな噂も聞こえるらしい。鍛えた体は令嬢らしくないし、振る舞いも貴族ではない。でもフォルト兄様と並んで遜色ない美しさを持っているわ。なにより強さ至上主義のフォルト兄様が満足しているんだもの。
何を言っても負け犬の遠吠えね。令嬢を嫁がせ損ねた貴族の舌打ちと同じ、意味も価値もなかった。
大きな問題になる噂は流れていない。私やコルネリアが襲われたとする醜聞は、対処が早かったことやその後の噂に紛れて消えてしまった。噂の上書きは思ったより効果が高いわ。今後も積極的に使っていきましょう。
自室で、可愛いジルヴィアを抱く。その隣で、クラウスが鮮やかなハンカチを揺らした。興味をそそられるのか、ジルヴィアの小さな手が動く。掴もうとする指が、やっとハンカチの端を握った。あぐぅ……可愛い声をあげて、口に押し込む。
赤ん坊って、何でも口に入れるのよね。乳母や侍女達も苦労が絶えないと思うわ。はいはいして動き回るようになれば、もっと大変になるはず。足で空中を蹴る動きが力強いので、そろそろ這いずり回るかもしれない。人手を増やすよう、伝えておきましょう。
「皇女殿下は……」
「ジルヴィア、よ」
「……承知いたしました。ジルヴィア皇女殿下はお元気ですね」
何度言い聞かせても、クラウスは頑なにジルヴィアを皇女と呼ぶ。ルヴィ兄様の養女にしたから、距離を取っているのね。でも義理とはいえ、父親になるのよ? 私が産んだ事実は変わらないんだもの。この点は後で話し合ったほうがよさそう。
「ねえ、クラウス。あなたは自分の血を引く子が欲しい?」
私に産んでほしいと願うのかしら? 問いかけた途端、クラウスの目の色が濃くなった。長いまつ毛が伏せられ、口角が持ち上がる。
「どう答えたら、あなた様のお気に召すか。それを考える男ですが……正直に申し上げるなら、欲しいですよ」
誤魔化すことを考えたが、正直に答える。そんな返答に、私は嬉しくなった。良かったわ、あなたが欲しがってくれる女で。
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