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本編
158.閉ざされた世界を掌握した ***SIDEウルリヒ
演じるはずのケガを無視して、悪友と出かけていく異母兄を見送った。あれは止めても聞かないだろう。ちょうどいい。過保護な兄のいない間に、練った策を実行するとしようか。
婚約式を妨害したい貴族の排除は、あの二人に任せれば問題ない。神殿内に巣食う異分子を排除するのは、俺の役目だった。皇族の身分を捨てて神殿に入ったのは、この閉ざされた世界で頂点に立つためだ。神々への信仰は当然持っているが、それ以上に家族を守りたかった。
正義の天秤を持つ守護神の像に膝をつき、祈りを捧げる。
「大神官様、他国の大神官様がお揃いです」
各国に散らばる大神官は、各王国に一人ずつ。聖地である帝国に二人いる。今は数が欠けているが、すぐに穴埋めを行う必要があった。全員が揃った場で、各神殿の悪意を消し去る宣言をするのだから。九人の大神官の決断ならば、誰も逆らえない。
神殿は神々と神官の狭い世界であり、閉ざされた空間だった。信者や貴族が出入りしても、本質の部分は閉鎖的だ。神官服の長い裾を捌いて、ゆったりと歩き始めた。迎えに来た神官は、目をかけてきた子飼いだ。
「デーンズ領の大神官を入れ替えるつもりです。あなたを推薦しておきましょう」
「感謝申し上げます」
問題を起こした王国には、子飼いを配置する。神殿は王家より民の信頼が厚く、距離も近かった。何をするにも、神々の威光は無視できないのだから。
開いた扉をくぐり、集まった大神官の会釈を受ける。扉が閉ざされた瞬間、彼らは深く深く腰を折った。人前では対等の態度を崩さないが、現実はすでに掌握済みだ。神々はこの判断を受け入れたのか、俺に大きな罰は下されていない。それこそが答えだった。
俺がしたいのは、正当な権利を主張する家族を守ること。道理や慣習を捻じ曲げて介入しようとする者を駆除すること。神殿の権威を高めることだ。どれも神々の怒りを買う願いではない。
「会議を始めましょう」
穏やかな大神官ウルリヒの仮面を外さぬまま、丁寧な口調で促す。着座した大神官達を見回した。順番に国内の状況が報告され、一部の神殿の穢れが報告される。寄付金を着服した者や信者の一部を贔屓した者が、次々と並べられた。
「断罪は神々の手にあり、我らが委任された権利です。お分かりですね?」
処断を許可して促す。納得した顔でそれぞれが頭を下げた。空席の大神官の推薦は形だけのもの、実際はもう決まっている。俺の判断にケチをつける者は、この円卓にいなかった。
満足できる結果を得た俺が部屋に戻って着替えた頃、ようやく異母兄が戻ってくる。華やかなローズの香りを纏い、明らかに入浴後と分かる姿で……。
「夜会に出向くと聞いていたが?」
普段の仮面を投げ捨て、いつもの口調で詰め寄る。おどおどと視線を逸らすから、溜め息を吐いて頬を掴んだ。無理やり目を合わせて、にやりと笑う。
「な、なんで怒っている? きちんと退治してきたのに」
拗ねた兄の泣きそうな顔に、手を離した。上目遣いで機嫌を窺うこの姿は、先代皇帝陛下と言われても信じがたい。昔から俺に甘い兄の左頬に右手のひらを這わせた。
「この香りはどうした? 夜会でいい女でも見つけたか」
「っ! 違う……くそっ、フリッツの奴……親切だと思ったら、そういうことか」
文句を並べる様子に、ライフアイゼン公爵の顔が浮かんだ。どうやら揶揄われたらしい。もし義姉上だったら、平手の一発も食らわされたか? いや、呆れて放り出すかもしれん。
「まあいい。婚約式を急がせろ。また邪魔される前にな」
「わかった」
兄は真剣な顔で頷き、俺の衣の袖を摘まむ。
「包帯を巻いてくれ」
まだケガ人の振りが必要だと匂わせる兄に、俺は肩を竦めて包帯を用意した。自分で巻けるくせに甘えてくるのは、少し疲れているからか。この際だ、ケガを理由に療養させるとしよう。婚約式で倒れられると迷惑だからな……。
婚約式を妨害したい貴族の排除は、あの二人に任せれば問題ない。神殿内に巣食う異分子を排除するのは、俺の役目だった。皇族の身分を捨てて神殿に入ったのは、この閉ざされた世界で頂点に立つためだ。神々への信仰は当然持っているが、それ以上に家族を守りたかった。
正義の天秤を持つ守護神の像に膝をつき、祈りを捧げる。
「大神官様、他国の大神官様がお揃いです」
各国に散らばる大神官は、各王国に一人ずつ。聖地である帝国に二人いる。今は数が欠けているが、すぐに穴埋めを行う必要があった。全員が揃った場で、各神殿の悪意を消し去る宣言をするのだから。九人の大神官の決断ならば、誰も逆らえない。
神殿は神々と神官の狭い世界であり、閉ざされた空間だった。信者や貴族が出入りしても、本質の部分は閉鎖的だ。神官服の長い裾を捌いて、ゆったりと歩き始めた。迎えに来た神官は、目をかけてきた子飼いだ。
「デーンズ領の大神官を入れ替えるつもりです。あなたを推薦しておきましょう」
「感謝申し上げます」
問題を起こした王国には、子飼いを配置する。神殿は王家より民の信頼が厚く、距離も近かった。何をするにも、神々の威光は無視できないのだから。
開いた扉をくぐり、集まった大神官の会釈を受ける。扉が閉ざされた瞬間、彼らは深く深く腰を折った。人前では対等の態度を崩さないが、現実はすでに掌握済みだ。神々はこの判断を受け入れたのか、俺に大きな罰は下されていない。それこそが答えだった。
俺がしたいのは、正当な権利を主張する家族を守ること。道理や慣習を捻じ曲げて介入しようとする者を駆除すること。神殿の権威を高めることだ。どれも神々の怒りを買う願いではない。
「会議を始めましょう」
穏やかな大神官ウルリヒの仮面を外さぬまま、丁寧な口調で促す。着座した大神官達を見回した。順番に国内の状況が報告され、一部の神殿の穢れが報告される。寄付金を着服した者や信者の一部を贔屓した者が、次々と並べられた。
「断罪は神々の手にあり、我らが委任された権利です。お分かりですね?」
処断を許可して促す。納得した顔でそれぞれが頭を下げた。空席の大神官の推薦は形だけのもの、実際はもう決まっている。俺の判断にケチをつける者は、この円卓にいなかった。
満足できる結果を得た俺が部屋に戻って着替えた頃、ようやく異母兄が戻ってくる。華やかなローズの香りを纏い、明らかに入浴後と分かる姿で……。
「夜会に出向くと聞いていたが?」
普段の仮面を投げ捨て、いつもの口調で詰め寄る。おどおどと視線を逸らすから、溜め息を吐いて頬を掴んだ。無理やり目を合わせて、にやりと笑う。
「な、なんで怒っている? きちんと退治してきたのに」
拗ねた兄の泣きそうな顔に、手を離した。上目遣いで機嫌を窺うこの姿は、先代皇帝陛下と言われても信じがたい。昔から俺に甘い兄の左頬に右手のひらを這わせた。
「この香りはどうした? 夜会でいい女でも見つけたか」
「っ! 違う……くそっ、フリッツの奴……親切だと思ったら、そういうことか」
文句を並べる様子に、ライフアイゼン公爵の顔が浮かんだ。どうやら揶揄われたらしい。もし義姉上だったら、平手の一発も食らわされたか? いや、呆れて放り出すかもしれん。
「まあいい。婚約式を急がせろ。また邪魔される前にな」
「わかった」
兄は真剣な顔で頷き、俺の衣の袖を摘まむ。
「包帯を巻いてくれ」
まだケガ人の振りが必要だと匂わせる兄に、俺は肩を竦めて包帯を用意した。自分で巻けるくせに甘えてくるのは、少し疲れているからか。この際だ、ケガを理由に療養させるとしよう。婚約式で倒れられると迷惑だからな……。
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