165 / 222
本編
164.思わぬ才能……なのかしら?
お茶会がお開きになって、クラウスと腕を組んで宮殿の廊下を戻る。見送った淑女二人の護衛が、フォルト兄様なのは過剰戦力ね。一国が攻めてきても守り抜きそうだもの。なぜかアデリナも一緒に行くと言い張って、ガブリエラ様が穏やかに止めた。
未来の大公妃殿下が馬に跨り、未来の義姉を送っていく? 無理ね。婚姻後なら構わないけれど、今は騒動を起こすと貴族がうるさいの。我慢してもらうしかないわ。フォルト兄様の昔の話をすると餌を撒いて、アデリナはそれに食いついた。ガブリエラ様の後ろを素直についていく。
肩を落として解散した兄達は、少し顔色が悪かった。特にルヴィ兄様は怠そうね。昨夜の飲み会が徹夜だったとか?
「お疲れ様でした」
「楽しかったからいいわ。それより、昨夜は飲まされ過ぎなかった? 二日酔いの心配をしていたのよ」
腕を組んだクラウスの顔色は悪くない。二日酔いは大丈夫そうね。足取りもしっかりした彼のエスコートで廊下を進んだ。途中で、シーツを持った侍女とすれ違う。
「エッケハルト様が最初に潰れまして……」
え? 名前で呼んだの? ということは、許可を得たのよね。あのエック兄様から……?! 驚いて凝視する私の様子から気づいたクラウスは、穏やかに兄達の名を呼んだ。
「ルートヴィッヒ様、エッケハルト様、フォルト様。皆様に許可を頂きました」
フォルト兄様は愛称だなんて、よほど気に入られたのね。
「よかった。心から嬉しいわ!」
表面上は穏やかで優しい人誑しのルヴィ兄様は、実のところ人見知りなのよ。誰でも平等に距離を置いて穏やかに接する。でも次に会う時には忘れているくらい薄情だった。身内には甘くて優しい人だけれど、線引きが激しいの。
話した相手の顔も名前も覚えていないくせに、会話内容は記憶している人で……少し会話すると前回の雑談を思い出して、それなりに対応してしまう。だから気づかれないのよね。別れた後でよく首を傾げているのが、覚えていない証拠だった。それなのに名を呼ぶのを許しただなんて。
エック兄様は顔も名前もちゃんと覚えてくれる。でも親しく接することを極端に嫌うわ。人嫌いと思われているほど、冷淡に切り捨てるような話し方をした。他人に感情を動かされるのが嫌いなのよ。この部分に関しては、私も似た部分があるわ。
フォルト兄様は人懐こいけれど、覚えない。顔も名前も会話の内容も、すべて忘れるタイプだった。全員違うタイプなのは、何の悪戯かしらね。ただ、フォルト兄様が一番付き合いやすいと思うの。忘れていると承知していたら、最初からやり直せばいいんだもの。
基本的に人間が好きな大型犬みたいな人だから、懐に入れた者は大事にするわ。自分の毛皮で包んで守ろうとする。それで部下達もフォルト兄様に心酔してしまうの。どの兄も一癖も二癖もあるのに、よく全員から名を呼ぶ許可を得られたこと。
感心しながら、曖昧にぼかして伝える。
「そんなに親密になるだなんて、飲み会の話が気になるわ。どんな話をしたの?」
「ほとんど、トリア様に関するお話ばかりでした。お酒は棚にあった分をすべて消費したのですが、途中で足りなくて追加しています。美味しいお酒ばかりで、今度地方のお酒を献上する約束をしました」
ルヴィ兄様のコレクション、飲み尽くしちゃったの? 兄の中で一番の酒豪はルヴィ兄様、順番にエック兄様とフォルト兄様が続く。一番弱いフォルト兄様でも、そこらの酒飲みより強いはず。
「ルヴィ兄様の顔色が悪かったのは……もしかして」
「二日酔いはないと思います。二度も嘔吐して胃を空にしましたし……」
あれだけ吐いたのだから、お酒は残っていないだろう。けろりと言い切ったクラウスに、私は額を押さえて呻いた。昨日の飲み会で、一番お酒を飲める人がクラウスだったのね。
未来の大公妃殿下が馬に跨り、未来の義姉を送っていく? 無理ね。婚姻後なら構わないけれど、今は騒動を起こすと貴族がうるさいの。我慢してもらうしかないわ。フォルト兄様の昔の話をすると餌を撒いて、アデリナはそれに食いついた。ガブリエラ様の後ろを素直についていく。
肩を落として解散した兄達は、少し顔色が悪かった。特にルヴィ兄様は怠そうね。昨夜の飲み会が徹夜だったとか?
「お疲れ様でした」
「楽しかったからいいわ。それより、昨夜は飲まされ過ぎなかった? 二日酔いの心配をしていたのよ」
腕を組んだクラウスの顔色は悪くない。二日酔いは大丈夫そうね。足取りもしっかりした彼のエスコートで廊下を進んだ。途中で、シーツを持った侍女とすれ違う。
「エッケハルト様が最初に潰れまして……」
え? 名前で呼んだの? ということは、許可を得たのよね。あのエック兄様から……?! 驚いて凝視する私の様子から気づいたクラウスは、穏やかに兄達の名を呼んだ。
「ルートヴィッヒ様、エッケハルト様、フォルト様。皆様に許可を頂きました」
フォルト兄様は愛称だなんて、よほど気に入られたのね。
「よかった。心から嬉しいわ!」
表面上は穏やかで優しい人誑しのルヴィ兄様は、実のところ人見知りなのよ。誰でも平等に距離を置いて穏やかに接する。でも次に会う時には忘れているくらい薄情だった。身内には甘くて優しい人だけれど、線引きが激しいの。
話した相手の顔も名前も覚えていないくせに、会話内容は記憶している人で……少し会話すると前回の雑談を思い出して、それなりに対応してしまう。だから気づかれないのよね。別れた後でよく首を傾げているのが、覚えていない証拠だった。それなのに名を呼ぶのを許しただなんて。
エック兄様は顔も名前もちゃんと覚えてくれる。でも親しく接することを極端に嫌うわ。人嫌いと思われているほど、冷淡に切り捨てるような話し方をした。他人に感情を動かされるのが嫌いなのよ。この部分に関しては、私も似た部分があるわ。
フォルト兄様は人懐こいけれど、覚えない。顔も名前も会話の内容も、すべて忘れるタイプだった。全員違うタイプなのは、何の悪戯かしらね。ただ、フォルト兄様が一番付き合いやすいと思うの。忘れていると承知していたら、最初からやり直せばいいんだもの。
基本的に人間が好きな大型犬みたいな人だから、懐に入れた者は大事にするわ。自分の毛皮で包んで守ろうとする。それで部下達もフォルト兄様に心酔してしまうの。どの兄も一癖も二癖もあるのに、よく全員から名を呼ぶ許可を得られたこと。
感心しながら、曖昧にぼかして伝える。
「そんなに親密になるだなんて、飲み会の話が気になるわ。どんな話をしたの?」
「ほとんど、トリア様に関するお話ばかりでした。お酒は棚にあった分をすべて消費したのですが、途中で足りなくて追加しています。美味しいお酒ばかりで、今度地方のお酒を献上する約束をしました」
ルヴィ兄様のコレクション、飲み尽くしちゃったの? 兄の中で一番の酒豪はルヴィ兄様、順番にエック兄様とフォルト兄様が続く。一番弱いフォルト兄様でも、そこらの酒飲みより強いはず。
「ルヴィ兄様の顔色が悪かったのは……もしかして」
「二日酔いはないと思います。二度も嘔吐して胃を空にしましたし……」
あれだけ吐いたのだから、お酒は残っていないだろう。けろりと言い切ったクラウスに、私は額を押さえて呻いた。昨日の飲み会で、一番お酒を飲める人がクラウスだったのね。
あなたにおすすめの小説
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。