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本編
173.私もクラウスも厄介ね
入場して貴族からの挨拶と祝いを受ける。面倒だけれど、皇族である以上仕方ないわ。というより、貴族だったら我慢すべき仕事の一部ね。社交の繋がりで、一族の地位を高めたり家の名を知らしめたり。逆に没落の引き金を引く者もいる。
「いやぁ、皇妹殿下が出戻ったと聞いたときは……我が息子にチャンスと思いましたが」
阿呆が一人やらかして、騎士によって退場させられる。子爵家の当主だったわね。妻が青ざめていたから、彼女はまともみたい。妻の実家まで巻き込まないよう、エック兄様に注意しておきましょう。クラウスもそうだけれど、やりすぎるきらいがあった。
「トリア、クラウス殿。おめでとうございます……私個人からも祝いの言葉を贈らせてください」
大神官の時の仮面を被ったまま、叔父様は軽くグラスを掲げる。
「ありがとう、叔父様。その帯、同じ色ね」
「お祝いの言葉に御礼申し上げます。赤がお似合いです」
クラウスも赤い帯を身に着けている。肩から掛けたサッシュは、美しい刺繡が施されていた。私とお揃いの刺繍柄なのよ。
叔父様は刺繍なしで、そのまま仕立てたのね。シンプルだけど、叔父様は背が高くて映えるわ。ベルトとして巻いた叔父様は、帯に合わせて正装を準備したみたい。違和感がなく溶け込んでいた。お父様とライフアイゼン公爵が歩きまわり、アデリナを連れたガブリエラ様は壁際でタラバンテの長と話す。
貴族が忙しなく動き回り、婚約したばかりの四組に話しかける。兄三人が一度に婚約したことで、娘や姉妹を送り込もうとしていた貴族は当てが外れたでしょう。私にしてもそう。先ほどの男のように「子爵」が皇妹を娶れると勘違いするほど、価値が下がったと思われていた。
ローヴァイン侯爵と結婚し、公爵に陞爵する。この話を広げることで、私もクラウスも名誉が挽回できるわ。そもそも、私は出戻りではなく未婚の母ですもの。叔父様はお父様に掴まって、貴族の輪に連れ込まれてしまった。
「トリア様、喉が渇いたのでは?」
クラウスがグラスを一つ受け取り、口をつけてからグラスを渡した。執事でもあるまいし、毒見なんて……。いえ、毒の心配より薬の心配かしら? 媚薬のような薬を盛られたら、抵抗できない女を好きに出来ると思う貴族男性もいるはず。前回の夜会でかなり排除したけれど、漏れた害虫の心配ね。
目だけで通じ合ってしまい、ふふっと笑った。
「ありがとう、クラウス」
演じる必要はいらない。自然と笑顔になるし、腕を組んでいるのも嬉しい。
今日はジルヴィアに構ってあげられなかったから、明日は一日同じ部屋で過ごそうかしらね。婚約が決まった日でも、一人の女性の時間に母親の顔が覗く。口にしたら、クラウスは微笑んで肯定した。
「当然ですよ。どちらの顔もトリア様ですから」
「ありがとう」
今日はお礼ばかりだわ。でも少しだけ、女の顔で囁いてみた。
「嫉妬はないの?」
誰が誰に何を……すべて省いた言葉に、クラウスの目が細められた。瞳の色が暗くなって、ぞくりとする。こういう危険な一面を持っているから、この人が好きなのかも。私もたいがい、厄介な性質だわ。
「身を焦がすほどに……ご満足ですか? 簡単に煽ると後悔しますよ」
身が震えるほどの歓喜を覚える。このまま身を任せて一夜を明かしたいくらい、興奮した。そんなこと言えない? いいえ、すべてを使って……厄介なこの男を虜にしたいわ。私が囚われたくらい深く、暗く、溺れるほど冷たく。
「後悔、させて頂戴」
「……結婚式の予定を早めましょう」
予想通りの対応と、声に潜む情欲。やっぱり私、あなたが大好きよ、クラウス。
「いやぁ、皇妹殿下が出戻ったと聞いたときは……我が息子にチャンスと思いましたが」
阿呆が一人やらかして、騎士によって退場させられる。子爵家の当主だったわね。妻が青ざめていたから、彼女はまともみたい。妻の実家まで巻き込まないよう、エック兄様に注意しておきましょう。クラウスもそうだけれど、やりすぎるきらいがあった。
「トリア、クラウス殿。おめでとうございます……私個人からも祝いの言葉を贈らせてください」
大神官の時の仮面を被ったまま、叔父様は軽くグラスを掲げる。
「ありがとう、叔父様。その帯、同じ色ね」
「お祝いの言葉に御礼申し上げます。赤がお似合いです」
クラウスも赤い帯を身に着けている。肩から掛けたサッシュは、美しい刺繡が施されていた。私とお揃いの刺繍柄なのよ。
叔父様は刺繍なしで、そのまま仕立てたのね。シンプルだけど、叔父様は背が高くて映えるわ。ベルトとして巻いた叔父様は、帯に合わせて正装を準備したみたい。違和感がなく溶け込んでいた。お父様とライフアイゼン公爵が歩きまわり、アデリナを連れたガブリエラ様は壁際でタラバンテの長と話す。
貴族が忙しなく動き回り、婚約したばかりの四組に話しかける。兄三人が一度に婚約したことで、娘や姉妹を送り込もうとしていた貴族は当てが外れたでしょう。私にしてもそう。先ほどの男のように「子爵」が皇妹を娶れると勘違いするほど、価値が下がったと思われていた。
ローヴァイン侯爵と結婚し、公爵に陞爵する。この話を広げることで、私もクラウスも名誉が挽回できるわ。そもそも、私は出戻りではなく未婚の母ですもの。叔父様はお父様に掴まって、貴族の輪に連れ込まれてしまった。
「トリア様、喉が渇いたのでは?」
クラウスがグラスを一つ受け取り、口をつけてからグラスを渡した。執事でもあるまいし、毒見なんて……。いえ、毒の心配より薬の心配かしら? 媚薬のような薬を盛られたら、抵抗できない女を好きに出来ると思う貴族男性もいるはず。前回の夜会でかなり排除したけれど、漏れた害虫の心配ね。
目だけで通じ合ってしまい、ふふっと笑った。
「ありがとう、クラウス」
演じる必要はいらない。自然と笑顔になるし、腕を組んでいるのも嬉しい。
今日はジルヴィアに構ってあげられなかったから、明日は一日同じ部屋で過ごそうかしらね。婚約が決まった日でも、一人の女性の時間に母親の顔が覗く。口にしたら、クラウスは微笑んで肯定した。
「当然ですよ。どちらの顔もトリア様ですから」
「ありがとう」
今日はお礼ばかりだわ。でも少しだけ、女の顔で囁いてみた。
「嫉妬はないの?」
誰が誰に何を……すべて省いた言葉に、クラウスの目が細められた。瞳の色が暗くなって、ぞくりとする。こういう危険な一面を持っているから、この人が好きなのかも。私もたいがい、厄介な性質だわ。
「身を焦がすほどに……ご満足ですか? 簡単に煽ると後悔しますよ」
身が震えるほどの歓喜を覚える。このまま身を任せて一夜を明かしたいくらい、興奮した。そんなこと言えない? いいえ、すべてを使って……厄介なこの男を虜にしたいわ。私が囚われたくらい深く、暗く、溺れるほど冷たく。
「後悔、させて頂戴」
「……結婚式の予定を早めましょう」
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