【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

174.母と女と、どちらも満たされたい

 さすがに四組同時の結婚式は無理だ。お父様から逃げてきた叔父様に釘を刺された。それは、そうよね。婚約式でもこの騒ぎなのだから、結婚ともなれば……大混乱必至だわ。

 ここは順番通り年上から結婚するべき? でも男女で結婚適齢期が違うから、年齢で考えたら私が一番先なのよ。どうしようかしら?

 二日間の休みを堪能する私は、一日目をジルヴィアと過ごした。自分で寝返りを打てるようになり、手足をじたばた動かしている。時折大きな声を出すから、順調な成長ね。もう少ししたら這い始めて、周囲が大変になるでしょう。

 乳母のアンナの補佐を数人選んだ。もちろん、補佐の人事権限をアンナに預ける。彼女がジルヴィアの母親代わりとして育てているのに、私が横から成果だけ奪うのは違うわ。遠慮するアンナに「ジルヴィアに危害を加える者がいれば、すぐに首を切れるようによ」と伝えた。

 物理的な意味ではなく、比喩的な表現のほう。いつでも解雇できるよう権限を持った者が近くにいれば、きちんと務めるだろうから。そう言い聞かせて納得してもらった。

 一緒に過ごす時間が少ないのに、ジルヴィアは私が笑えば、にこっと笑顔を返す。可愛くて仕方ない娘に構い倒して一日が終わるなんて、贅沢だわ。

 翌日はクラウスと約束をしていた。彼は「休みになりませんね」と困ったような顔をする。だったら会うのをやめる? と聞けば、嫌だと首を横に振るの。そういう素直なところも気に入っていた。

「これ、おかしくない?」

「お綺麗ですし、平民の間で流行しているスカートです」

「そう」

 普段はスリットの入ったスカートを着るが、足が見えることはほぼない。それなのに、このスカートだと足が見えるのよ。魚の尾に似た感じで後ろが長い。布をふんだんに使っているからが多かった。前が短くて、ひざ下程度なの。

「本当にこれが流行しているの?」

「はい。元は収穫祭のダンス用衣装なので、踊りやすいよう前が短く、ターンをしたとき映えるよう後ろが長いのです」

 布をふんだんに使うのも、絹ではなく綿だから。普通のワンピースだと線が硬くなる。それを防ぐために、量を増やしているらしいわ。踊って翻っても、下着まで見えない……という別の理由もあると聞いた。エリーゼは不安を取り除く言葉を並べてくれるけど。

 上からドレス用のマントを羽織って終わり。髪も結わないから、平民服で中の宮を歩いていたら摘まみだされちゃう。マントは平民が着用しないため、服を隠しながら移動できるわ。本来は埃避けや雨避けなのだけれど、意外な使い方だった。

 クラウスは馬車で待つ予定なの。だって平民服で歩き回ったら、彼こそ掴まっちゃうわ。男性はマントで誤魔化すわけにいかないから、難しいわね。エリーゼと廊下を歩く間も、スカートの長さやマントの下が気になった。

 悪戯をしてバレないか心配しているときのような、ドキドキが楽しい。クラウスに恋をしてから、些細な日常が輝いて感じるの。初めての感情を持て余すけれど、嬉しくもあった。小説を読んでも実感できない現実が、ここにあるのだから。

「待たせたわ」

「いいえ。どうぞ」

 さっと馬車にエスコートされ、マントを踏まないよう気を付けて乗車する。いつもならスカートが膨らんで、マントを足元から避けてくれるのよ。踏む心配なんて、どのくらいぶりかしら。すべてが楽しいわ。合図を受けて馬車が走りだすと、クラウスがすぐに褒め始めた。

「トリア様は何を召されても素敵ですね。平民服を指定しておいておかしいでしょうが、あなた様の輝きが損なわれたらと心配しておりました。でもトリア様が袖を通せば、何でも最上級のドレスになります。この哀れな男に愛をお恵みください、我が姫」

「……ふふっ。随分と饒舌ね」

「馬車に乗るまで、このお姿を堪能できませんので」

 それはそうね。馬車に乗って初めてマントを外した。見ないで褒めるのは無理だわ。クラウスの束縛を感じる言葉が心地よくて、私も壊れているわねと笑みが深まった。

 今日は楽しませてね、クラウス。平民の祭りに参加するのは初めてで、これでも緊張しているのよ?
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