175 / 222
本編
174.母と女と、どちらも満たされたい
さすがに四組同時の結婚式は無理だ。お父様から逃げてきた叔父様に釘を刺された。それは、そうよね。婚約式でもこの騒ぎなのだから、結婚ともなれば……大混乱必至だわ。
ここは順番通り年上から結婚するべき? でも男女で結婚適齢期が違うから、年齢で考えたら私が一番先なのよ。どうしようかしら?
二日間の休みを堪能する私は、一日目をジルヴィアと過ごした。自分で寝返りを打てるようになり、手足をじたばた動かしている。時折大きな声を出すから、順調な成長ね。もう少ししたら這い始めて、周囲が大変になるでしょう。
乳母のアンナの補佐を数人選んだ。もちろん、補佐の人事権限をアンナに預ける。彼女がジルヴィアの母親代わりとして育てているのに、私が横から成果だけ奪うのは違うわ。遠慮するアンナに「ジルヴィアに危害を加える者がいれば、すぐに首を切れるようによ」と伝えた。
物理的な意味ではなく、比喩的な表現のほう。いつでも解雇できるよう権限を持った者が近くにいれば、きちんと務めるだろうから。そう言い聞かせて納得してもらった。
一緒に過ごす時間が少ないのに、ジルヴィアは私が笑えば、にこっと笑顔を返す。可愛くて仕方ない娘に構い倒して一日が終わるなんて、贅沢だわ。
翌日はクラウスと約束をしていた。彼は「休みになりませんね」と困ったような顔をする。だったら会うのをやめる? と聞けば、嫌だと首を横に振るの。そういう素直なところも気に入っていた。
「これ、おかしくない?」
「お綺麗ですし、平民の間で流行しているスカートです」
「そう」
普段はスリットの入ったスカートを着るが、足が見えることはほぼない。それなのに、このスカートだと足が見えるのよ。魚の尾に似た感じで後ろが長い。布をふんだんに使っているからひだが多かった。前が短くて、ひざ下程度なの。
「本当にこれが流行しているの?」
「はい。元は収穫祭のダンス用衣装なので、踊りやすいよう前が短く、ターンをしたとき映えるよう後ろが長いのです」
布をふんだんに使うのも、絹ではなく綿だから。普通のワンピースだと線が硬くなる。それを防ぐために、量を増やしているらしいわ。踊って翻っても、下着まで見えない……という別の理由もあると聞いた。エリーゼは不安を取り除く言葉を並べてくれるけど。
上からドレス用のマントを羽織って終わり。髪も結わないから、平民服で中の宮を歩いていたら摘まみだされちゃう。マントは平民が着用しないため、服を隠しながら移動できるわ。本来は埃避けや雨避けなのだけれど、意外な使い方だった。
クラウスは馬車で待つ予定なの。だって平民服で歩き回ったら、彼こそ掴まっちゃうわ。男性はマントで誤魔化すわけにいかないから、難しいわね。エリーゼと廊下を歩く間も、スカートの長さやマントの下が気になった。
悪戯をしてバレないか心配しているときのような、ドキドキが楽しい。クラウスに恋をしてから、些細な日常が輝いて感じるの。初めての感情を持て余すけれど、嬉しくもあった。小説を読んでも実感できない現実が、ここにあるのだから。
「待たせたわ」
「いいえ。どうぞ」
さっと馬車にエスコートされ、マントを踏まないよう気を付けて乗車する。いつもならスカートが膨らんで、マントを足元から避けてくれるのよ。踏む心配なんて、どのくらいぶりかしら。すべてが楽しいわ。合図を受けて馬車が走りだすと、クラウスがすぐに褒め始めた。
「トリア様は何を召されても素敵ですね。平民服を指定しておいておかしいでしょうが、あなた様の輝きが損なわれたらと心配しておりました。でもトリア様が袖を通せば、何でも最上級のドレスになります。この哀れな男に愛をお恵みください、我が姫」
「……ふふっ。随分と饒舌ね」
「馬車に乗るまで、このお姿を堪能できませんので」
それはそうね。馬車に乗って初めてマントを外した。見ないで褒めるのは無理だわ。クラウスの束縛を感じる言葉が心地よくて、私も壊れているわねと笑みが深まった。
今日は楽しませてね、クラウス。平民の祭りに参加するのは初めてで、これでも緊張しているのよ?
ここは順番通り年上から結婚するべき? でも男女で結婚適齢期が違うから、年齢で考えたら私が一番先なのよ。どうしようかしら?
二日間の休みを堪能する私は、一日目をジルヴィアと過ごした。自分で寝返りを打てるようになり、手足をじたばた動かしている。時折大きな声を出すから、順調な成長ね。もう少ししたら這い始めて、周囲が大変になるでしょう。
乳母のアンナの補佐を数人選んだ。もちろん、補佐の人事権限をアンナに預ける。彼女がジルヴィアの母親代わりとして育てているのに、私が横から成果だけ奪うのは違うわ。遠慮するアンナに「ジルヴィアに危害を加える者がいれば、すぐに首を切れるようによ」と伝えた。
物理的な意味ではなく、比喩的な表現のほう。いつでも解雇できるよう権限を持った者が近くにいれば、きちんと務めるだろうから。そう言い聞かせて納得してもらった。
一緒に過ごす時間が少ないのに、ジルヴィアは私が笑えば、にこっと笑顔を返す。可愛くて仕方ない娘に構い倒して一日が終わるなんて、贅沢だわ。
翌日はクラウスと約束をしていた。彼は「休みになりませんね」と困ったような顔をする。だったら会うのをやめる? と聞けば、嫌だと首を横に振るの。そういう素直なところも気に入っていた。
「これ、おかしくない?」
「お綺麗ですし、平民の間で流行しているスカートです」
「そう」
普段はスリットの入ったスカートを着るが、足が見えることはほぼない。それなのに、このスカートだと足が見えるのよ。魚の尾に似た感じで後ろが長い。布をふんだんに使っているからひだが多かった。前が短くて、ひざ下程度なの。
「本当にこれが流行しているの?」
「はい。元は収穫祭のダンス用衣装なので、踊りやすいよう前が短く、ターンをしたとき映えるよう後ろが長いのです」
布をふんだんに使うのも、絹ではなく綿だから。普通のワンピースだと線が硬くなる。それを防ぐために、量を増やしているらしいわ。踊って翻っても、下着まで見えない……という別の理由もあると聞いた。エリーゼは不安を取り除く言葉を並べてくれるけど。
上からドレス用のマントを羽織って終わり。髪も結わないから、平民服で中の宮を歩いていたら摘まみだされちゃう。マントは平民が着用しないため、服を隠しながら移動できるわ。本来は埃避けや雨避けなのだけれど、意外な使い方だった。
クラウスは馬車で待つ予定なの。だって平民服で歩き回ったら、彼こそ掴まっちゃうわ。男性はマントで誤魔化すわけにいかないから、難しいわね。エリーゼと廊下を歩く間も、スカートの長さやマントの下が気になった。
悪戯をしてバレないか心配しているときのような、ドキドキが楽しい。クラウスに恋をしてから、些細な日常が輝いて感じるの。初めての感情を持て余すけれど、嬉しくもあった。小説を読んでも実感できない現実が、ここにあるのだから。
「待たせたわ」
「いいえ。どうぞ」
さっと馬車にエスコートされ、マントを踏まないよう気を付けて乗車する。いつもならスカートが膨らんで、マントを足元から避けてくれるのよ。踏む心配なんて、どのくらいぶりかしら。すべてが楽しいわ。合図を受けて馬車が走りだすと、クラウスがすぐに褒め始めた。
「トリア様は何を召されても素敵ですね。平民服を指定しておいておかしいでしょうが、あなた様の輝きが損なわれたらと心配しておりました。でもトリア様が袖を通せば、何でも最上級のドレスになります。この哀れな男に愛をお恵みください、我が姫」
「……ふふっ。随分と饒舌ね」
「馬車に乗るまで、このお姿を堪能できませんので」
それはそうね。馬車に乗って初めてマントを外した。見ないで褒めるのは無理だわ。クラウスの束縛を感じる言葉が心地よくて、私も壊れているわねと笑みが深まった。
今日は楽しませてね、クラウス。平民の祭りに参加するのは初めてで、これでも緊張しているのよ?
あなたにおすすめの小説
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
公爵令嬢は結婚式当日に死んだ
白雲八鈴
恋愛
今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。
「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」
突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。
婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。
そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。
その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……
生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。
婚約者とその番という女性に
『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』
そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。
*タグ注意
*不快であれば閉じてください。
婚約破棄される前に、帰らせていただきます!
パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。
普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。