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本編
183.赤い血も青い血も関係ないわ
嗚咽はない。ただ静かに頬を流れる涙を、美しいと思った。そんな場面ではないのに、心に沁みてくる。あなたは当然の権利を行使したの、そう口にするのも似合わない。ただ沈黙だけが存在を許された。
「俺の手は汚れています」
「そうね」
クラウスが沈黙を破ったことにより、乾いて張り付いた喉をワインで潤す。否定する必要はないので、肯定がこぼれ出た。
「トリア様に相応しくない」
「それはどうかしら? 私が決めるわ」
じっと自分の手のひらを凝視するクラウスの右手を、私は左手を重ねて隠した。赤い血の幻想が見えるのでしょう? あなたを責めているのよね。罪人の処刑を命じたルヴィ兄様も、同じようなことを口にしたから。私はあの時と同じ言葉を選ぶ。
「どう? 私の手も赤いでしょう?」
重ねた左手でしっかり握ってから、手のひらを反す。文字通り、くるりと反転させて私の手のひらを見せた。驚いたような顔、ルヴィ兄様とは違う反応ね。
「……なぜ」
「皇族は生まれながらに血塗れよ。そういう星のもとに生まれるの。だから汚れなんて気にしないわ。いいのよ、赤く染まっていても……青い血が流れていても。私はクラウス・ローヴァインという男を選んだんですもの」
冷酷な貴族の証と呼ばれる青い血も、人の思いを含んだ赤い血も、関係ないの。私の手に触れるクラウスの指先が震えていた。私からは握らないわ、だから……どうすればいいか、自分で考えて頂戴。微笑んで首を傾げ、クラウスの判断を待つ。
「受け入れて……くださる、と?」
「逆よ、クラウス。あなたの濁っていない血に、私が混じっても平気? 一緒に濁って腐るかもしれなくてよ?」
「歓迎いたします、我が姫」
指先の震えが止まった。私の手を掴み、開いたままの左手のひらに唇を寄せる。手前で離すかと思ったのに、しっかりと押し当てた。柔らかくしっとりした唇は、きっと白ワインの香りがするでしょうね。
「口づける場所を間違えているわ」
ほら、と右手の人差し指が示す先……弧を描いた唇に彼が近づく。触れる寸前、小さく動いたけれど声はなかった。愛の言葉か、謝罪か、懺悔? どれでもいいわ。私達にぴったり。
軽く触れて、開いて誘えばおずおずと舌先が入り込む。しっかり絡めて啜り、身を引いた彼が目を見開いた。間を銀の糸が引いて、私は声を立てて笑う。
「奪ってしまったわね、ごめんなさい」
「っ、意地悪な方ですね」
「あら。意地悪な私は嫌い?」
「いえ……もっと欲しい」
素直ないい子には、ご褒美を。立ち上がってテーブルを回り、彼の膝の上に腰かけた。首に手を回して唇を奪う。私は奪われるより、奪うほうが向いている。クラウスはどうかしら? 奪われる立場でも我慢できて? くすくす笑う私に「もう酔ったのですか?」とクラウスが囁く。
「酔ったことにしましょうよ」
クラウスにもう親族はいない。だったら私と結婚して、二人から家族を作りましょう。私とあなた、最小単位の家族よ。ジルヴィアは皇女となり、私達の間には別の子も産まれるわ。お父様やガブリエラ様、お兄様達が親族となって、クラウスの世界は広がっていく。
失ったものがすべて、形を変えて戻ってくるから。今日は私だけで我慢しなさいね。首に回した腕を引き寄せ、もう一度彼の唇を味わった。
「休みますか?」
「だめよ。まだ赤ワインを飲んでいないわ。浴びるように飲んで、明日は一日寝ていましょう」
もちろん、あなたも一緒に。でも体を重ねないのに残酷な提案かしら?
「俺の手は汚れています」
「そうね」
クラウスが沈黙を破ったことにより、乾いて張り付いた喉をワインで潤す。否定する必要はないので、肯定がこぼれ出た。
「トリア様に相応しくない」
「それはどうかしら? 私が決めるわ」
じっと自分の手のひらを凝視するクラウスの右手を、私は左手を重ねて隠した。赤い血の幻想が見えるのでしょう? あなたを責めているのよね。罪人の処刑を命じたルヴィ兄様も、同じようなことを口にしたから。私はあの時と同じ言葉を選ぶ。
「どう? 私の手も赤いでしょう?」
重ねた左手でしっかり握ってから、手のひらを反す。文字通り、くるりと反転させて私の手のひらを見せた。驚いたような顔、ルヴィ兄様とは違う反応ね。
「……なぜ」
「皇族は生まれながらに血塗れよ。そういう星のもとに生まれるの。だから汚れなんて気にしないわ。いいのよ、赤く染まっていても……青い血が流れていても。私はクラウス・ローヴァインという男を選んだんですもの」
冷酷な貴族の証と呼ばれる青い血も、人の思いを含んだ赤い血も、関係ないの。私の手に触れるクラウスの指先が震えていた。私からは握らないわ、だから……どうすればいいか、自分で考えて頂戴。微笑んで首を傾げ、クラウスの判断を待つ。
「受け入れて……くださる、と?」
「逆よ、クラウス。あなたの濁っていない血に、私が混じっても平気? 一緒に濁って腐るかもしれなくてよ?」
「歓迎いたします、我が姫」
指先の震えが止まった。私の手を掴み、開いたままの左手のひらに唇を寄せる。手前で離すかと思ったのに、しっかりと押し当てた。柔らかくしっとりした唇は、きっと白ワインの香りがするでしょうね。
「口づける場所を間違えているわ」
ほら、と右手の人差し指が示す先……弧を描いた唇に彼が近づく。触れる寸前、小さく動いたけれど声はなかった。愛の言葉か、謝罪か、懺悔? どれでもいいわ。私達にぴったり。
軽く触れて、開いて誘えばおずおずと舌先が入り込む。しっかり絡めて啜り、身を引いた彼が目を見開いた。間を銀の糸が引いて、私は声を立てて笑う。
「奪ってしまったわね、ごめんなさい」
「っ、意地悪な方ですね」
「あら。意地悪な私は嫌い?」
「いえ……もっと欲しい」
素直ないい子には、ご褒美を。立ち上がってテーブルを回り、彼の膝の上に腰かけた。首に手を回して唇を奪う。私は奪われるより、奪うほうが向いている。クラウスはどうかしら? 奪われる立場でも我慢できて? くすくす笑う私に「もう酔ったのですか?」とクラウスが囁く。
「酔ったことにしましょうよ」
クラウスにもう親族はいない。だったら私と結婚して、二人から家族を作りましょう。私とあなた、最小単位の家族よ。ジルヴィアは皇女となり、私達の間には別の子も産まれるわ。お父様やガブリエラ様、お兄様達が親族となって、クラウスの世界は広がっていく。
失ったものがすべて、形を変えて戻ってくるから。今日は私だけで我慢しなさいね。首に回した腕を引き寄せ、もう一度彼の唇を味わった。
「休みますか?」
「だめよ。まだ赤ワインを飲んでいないわ。浴びるように飲んで、明日は一日寝ていましょう」
もちろん、あなたも一緒に。でも体を重ねないのに残酷な提案かしら?
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