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本編
188.幸せにするのは私よ
皇族の衣装を一点に絞り、豪華に仕上げる。この方法は、思わぬ波及効果を生んだ。結婚式や披露宴に参加する来賓や貴族も、私達に倣ったの。というのも、考えてみたら豪華な衣装は嵩張るうえ、値段も高い。
一度袖を通した服をもう一度着るのは、貴族ではない、だなんて馬鹿な表現を、恋愛小説でよく見かけるけれど……そんな贅沢が許されるはずがないの。毎日着替える服を新調していたら、どんな金持ちだって家を傾けてしまうわ。
だって、当主だけでなく夫人や子供達の分も含まれるのよ? 皇族だとしても無理でしょう。事実、私は気に入った服を何度も着るタイプよ。
それでも人前で、続けて同じドレスを着るのは忌避されてきた。見栄を張る生き物が貴族と考えれば、明らかに前日と同じ衣装を着用するのは憚られる。けれど、大量に持ってくれば荷物が増え、馬車や使用人も増やす必要が出た。
それだけ余分な費用が嵩むのよ。場合によっては遅れた振りをして、参加する行事を調整してくる可能性もあった。それでは本末転倒、呼んだ意味がないわ。
結婚式、お披露目、来賓との夜会。すべてに皇族が同じ衣装で参加すると表明したため、貴族達は「皇帝陛下がそうなさるなら」と右に倣った。お陰で持ってくる荷物が小さくなり、車列が短くなって使用人も減らせる。道中の経費も削減できたでしょう。
こういうのは、上がお手本を示さないとダメなのね。予想外の効果に苦笑いしてしまった。来賓にも同様の案内を通知してあったため、予定通り到着すると各地から伝令が入っている。
「トリア、これはどうだ?」
ガブリエラ様が、ビロードの箱を次々と開けていく。エリーゼ達も手伝うが、ご機嫌なガブリエラ様は取り出した首飾りを揺らして首を傾げた。
装飾品を前に考え込む。首飾りを派手にして鎖骨まで覆ったら、耳飾りは要らない。でも髪を結い上げるなら耳に何かないと寂しい。バランスが難しかった。いくつも並べて調整し、首飾りを少し抑える方向に落ち着く。
耳には小さな鈴蘭が揺れる。百合と迷って、鎖で揺れる鈴蘭を選んだの。毒がある花という部分も気に入っているわ。
「あと四日なのね」
「早いものだ。私が出会った頃のトリアは、こんなに小さくてな」
両手で人の頭ほどの大きさを示す。さすがにそんなに小さくなかったと思うわ。
「もっと大きかったのでは?」
「いや、赤子の頃はこんなものだ。そなたの前はフォルトだったゆえ、さらに小さく感じた」
フォルト兄様は側妃様の命に関わるほどの難産だったと聞く。要は大きすぎたの。エック兄様より二割は大きかったらしいわ。ぞっとするわね。ルヴィ兄様は標準サイズだったと言うけれど、逆子で……そちらも大変だったとか。
「小さくてつるんと生まれた。親孝行な娘だと感心したぞ」
私が覚えていない頃の話を、嬉しそうに笑顔で語るガブリエラ様。恥ずかしいから遮りたいのに、あまりに幸せそうに微笑むから……黙って聞いてしまう。
「片腕に抱けるほど小さかった子が、もう結婚する。前回はこんなにしみじみとしなかったな……まあ、すぐ帰ると言い置いて嫁いだのだから、感動も薄れる」
くくっと肩を震わせたガブリエラ様に、それもそうねと思い出した。アディソン王国へ嫁ぐときは、二、三年で帰ると決めていたの。すぐ戻るのに、あまり大仰に送り出されたら帰りづらいでしょう? だから前置きしたのだけれど、感動は……しないわね。現実的過ぎるわ。
「今度は戻りませんわ」
「当然だ。そなたを不幸にすれば、クラウスの首が飛ぶだけじゃ。私の愛娘ゆえ……必ず幸せにしてもらわねば困る」
「……私が彼を幸せにしますの」
クラウスが幸せになれば、彼を愛する私も幸せになる。笑顔で宣言し、今度はジルヴィアの装飾品選びを始めた。ガブリエラ様やエリーゼ、アンナまで加わって……真剣に悩む。だって口に入れないように工夫が必要だし、濡れた手で触るからオパールや真珠は使えない。尖った爪のあるデザインも難しいわ。
意見を出し合いながら慎重に選び、ようやく決まったのは……小粒サファイアの細いブレスレットだった。これならジルヴィアの首飾りに使えるわ。長すぎず、短すぎず。しゃぶっても大丈夫よ。
夕食の時間に食い込んで選んでいたため、お父様達に心配させてしまったわ。
一度袖を通した服をもう一度着るのは、貴族ではない、だなんて馬鹿な表現を、恋愛小説でよく見かけるけれど……そんな贅沢が許されるはずがないの。毎日着替える服を新調していたら、どんな金持ちだって家を傾けてしまうわ。
だって、当主だけでなく夫人や子供達の分も含まれるのよ? 皇族だとしても無理でしょう。事実、私は気に入った服を何度も着るタイプよ。
それでも人前で、続けて同じドレスを着るのは忌避されてきた。見栄を張る生き物が貴族と考えれば、明らかに前日と同じ衣装を着用するのは憚られる。けれど、大量に持ってくれば荷物が増え、馬車や使用人も増やす必要が出た。
それだけ余分な費用が嵩むのよ。場合によっては遅れた振りをして、参加する行事を調整してくる可能性もあった。それでは本末転倒、呼んだ意味がないわ。
結婚式、お披露目、来賓との夜会。すべてに皇族が同じ衣装で参加すると表明したため、貴族達は「皇帝陛下がそうなさるなら」と右に倣った。お陰で持ってくる荷物が小さくなり、車列が短くなって使用人も減らせる。道中の経費も削減できたでしょう。
こういうのは、上がお手本を示さないとダメなのね。予想外の効果に苦笑いしてしまった。来賓にも同様の案内を通知してあったため、予定通り到着すると各地から伝令が入っている。
「トリア、これはどうだ?」
ガブリエラ様が、ビロードの箱を次々と開けていく。エリーゼ達も手伝うが、ご機嫌なガブリエラ様は取り出した首飾りを揺らして首を傾げた。
装飾品を前に考え込む。首飾りを派手にして鎖骨まで覆ったら、耳飾りは要らない。でも髪を結い上げるなら耳に何かないと寂しい。バランスが難しかった。いくつも並べて調整し、首飾りを少し抑える方向に落ち着く。
耳には小さな鈴蘭が揺れる。百合と迷って、鎖で揺れる鈴蘭を選んだの。毒がある花という部分も気に入っているわ。
「あと四日なのね」
「早いものだ。私が出会った頃のトリアは、こんなに小さくてな」
両手で人の頭ほどの大きさを示す。さすがにそんなに小さくなかったと思うわ。
「もっと大きかったのでは?」
「いや、赤子の頃はこんなものだ。そなたの前はフォルトだったゆえ、さらに小さく感じた」
フォルト兄様は側妃様の命に関わるほどの難産だったと聞く。要は大きすぎたの。エック兄様より二割は大きかったらしいわ。ぞっとするわね。ルヴィ兄様は標準サイズだったと言うけれど、逆子で……そちらも大変だったとか。
「小さくてつるんと生まれた。親孝行な娘だと感心したぞ」
私が覚えていない頃の話を、嬉しそうに笑顔で語るガブリエラ様。恥ずかしいから遮りたいのに、あまりに幸せそうに微笑むから……黙って聞いてしまう。
「片腕に抱けるほど小さかった子が、もう結婚する。前回はこんなにしみじみとしなかったな……まあ、すぐ帰ると言い置いて嫁いだのだから、感動も薄れる」
くくっと肩を震わせたガブリエラ様に、それもそうねと思い出した。アディソン王国へ嫁ぐときは、二、三年で帰ると決めていたの。すぐ戻るのに、あまり大仰に送り出されたら帰りづらいでしょう? だから前置きしたのだけれど、感動は……しないわね。現実的過ぎるわ。
「今度は戻りませんわ」
「当然だ。そなたを不幸にすれば、クラウスの首が飛ぶだけじゃ。私の愛娘ゆえ……必ず幸せにしてもらわねば困る」
「……私が彼を幸せにしますの」
クラウスが幸せになれば、彼を愛する私も幸せになる。笑顔で宣言し、今度はジルヴィアの装飾品選びを始めた。ガブリエラ様やエリーゼ、アンナまで加わって……真剣に悩む。だって口に入れないように工夫が必要だし、濡れた手で触るからオパールや真珠は使えない。尖った爪のあるデザインも難しいわ。
意見を出し合いながら慎重に選び、ようやく決まったのは……小粒サファイアの細いブレスレットだった。これならジルヴィアの首飾りに使えるわ。長すぎず、短すぎず。しゃぶっても大丈夫よ。
夕食の時間に食い込んで選んでいたため、お父様達に心配させてしまったわ。
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