196 / 222
本編
195.私のものになりなさい!
揃った九人の大神官に見送られ、祝福を受けて婚礼を終える。お披露目は四日後なので、ドレスを汚さないように保管しないといけないわ。そう囁いたら、お任せくださいと抱き上げられた。
「鍛えているのね」
「トリア様を抱き上げるのに、ふらついたら恰好がつきません」
そんな理由ではないくせに。命を狙われるから、対抗するために腕を磨いた。万が一、護衛と引き離されても生き残れるだけの実力が必要だったはずよ。私もそうだったもの。運ばれて馬車に乗り、中でも膝の上にいた。下りる時も抱いたまま……は危険なので、やめてもらったわ。
「残念です」
「ふふっ、でも腰を痛めたらお預けよ?」
「……っ、それは……苦行ですね」
腰を痛めたら、夜は別の部屋で休むことになるわ。ぼかした部分を察したクラウスは、息を呑んだあとで妥協した。並んで歩き、公爵邸の使用人達の挨拶を受ける。新築かと思うほど直した屋敷は、美しい白い壁で私を迎えた。
執事コンラートも、今日付けをもって公爵邸へ職場が移る。アディソン王国のときは皇妹付きのままだったの。今回はきちんと異動の手続きを行ったわ。戻る気がないんだもの、当然よね。裾を持つエリーゼも同様だけれど、乳母のアンナは別なの。ジルヴィア付きに変更された。
新しい使用人の顔と名を覚えるのは、明日からにしましょう。今日の私はクラウスの相手で手一杯になりそうだから……。
「奥様、お着替えをなさいますか?」
尋ねるエリーゼ以外にも、宮殿から異動した侍女達がいる。公爵邸の使用人との交流の甲斐があって、すぐに準備が始まった。連携も問題なさそう。
通された部屋は、公爵家女主人となった私のために整えられていた。見知らぬ鏡台に、見覚えのある化粧品が並ぶ。クラウスと別れ、まずは身を清めないといけない。宝飾品を外してコンラートに預けた。彼が部屋を辞すのを待って、髪を解き服を脱ぐ。
婚礼衣装はお披露目でも使うため、丁寧にトルソーへ戻された。下着姿のまま、しばらく衣装を眺める。なぜかしらね、お母様に見て頂きたかったと……唐突にそう思ったの。亡くなられたのが早かったから、ガブリエラ様との記憶のほうが多いのに。一目見せたかった。
感傷を振り払うように首を振り、入浴する。洗った髪を乾かし、化粧を落とした肌に薄化粧を施した。手際のいい侍女達に任せ、軽食を摘まんだ。サラダとハムを挟んだパンに、果物……最後にお茶で喉を潤す。
私室の間に用意された夫婦の寝室、そこへ続く扉に手を掛けた。かすかに指が震えている。私、緊張しているの? 初めてでもないのに、おかしいわね。自分を笑って扉を開けた。
まだ明るい午後の日差しが差し込む部屋で、クラウスが待っている。私の後ろで、エリーゼが扉を閉めた。クラウスは少し困ったような顔で首を傾げる。
「カーテンを閉める前に、話をしませんか?」
「……ええ、そのシャンパンを頂きながら」
透き通ったハムがチーズを包み、オリーブが飾られた皿。鮮やかな魚とサラダの皿。どちらも手付かずにするのは、気が引けるわ。薄着の私に、クラウスはガウンを掛けた。
「目のやり場に困ってしまって」
「あら、いくら見てもいい立場を手に入れたのよ?」
くすくす笑って、シャンパンをグラスに注ぐ。互いに掲げて、触れる手前で止めた。互いに決まり文句の「幸運を」を口にして、ゆっくりと傾ける。一口、それからもう一口。あまり飲むと、このあとが大変かしら?
話は他愛もないことばかり。いくつか言葉を交わして、肌が色づく程度に酒精を帯びて……ベッドに転がり込んだ。じゃれるようにしな垂れかかった私を抱き上げ、軽々と運ぶから。手を離そうとした彼を引き寄せたの。焦ったクラウスの首に腕を回し、唇を重ねた。
まだ夕暮れに早いけれど……カーテンを引く間も惜しいわ。観念して、私のものになりなさい!
「鍛えているのね」
「トリア様を抱き上げるのに、ふらついたら恰好がつきません」
そんな理由ではないくせに。命を狙われるから、対抗するために腕を磨いた。万が一、護衛と引き離されても生き残れるだけの実力が必要だったはずよ。私もそうだったもの。運ばれて馬車に乗り、中でも膝の上にいた。下りる時も抱いたまま……は危険なので、やめてもらったわ。
「残念です」
「ふふっ、でも腰を痛めたらお預けよ?」
「……っ、それは……苦行ですね」
腰を痛めたら、夜は別の部屋で休むことになるわ。ぼかした部分を察したクラウスは、息を呑んだあとで妥協した。並んで歩き、公爵邸の使用人達の挨拶を受ける。新築かと思うほど直した屋敷は、美しい白い壁で私を迎えた。
執事コンラートも、今日付けをもって公爵邸へ職場が移る。アディソン王国のときは皇妹付きのままだったの。今回はきちんと異動の手続きを行ったわ。戻る気がないんだもの、当然よね。裾を持つエリーゼも同様だけれど、乳母のアンナは別なの。ジルヴィア付きに変更された。
新しい使用人の顔と名を覚えるのは、明日からにしましょう。今日の私はクラウスの相手で手一杯になりそうだから……。
「奥様、お着替えをなさいますか?」
尋ねるエリーゼ以外にも、宮殿から異動した侍女達がいる。公爵邸の使用人との交流の甲斐があって、すぐに準備が始まった。連携も問題なさそう。
通された部屋は、公爵家女主人となった私のために整えられていた。見知らぬ鏡台に、見覚えのある化粧品が並ぶ。クラウスと別れ、まずは身を清めないといけない。宝飾品を外してコンラートに預けた。彼が部屋を辞すのを待って、髪を解き服を脱ぐ。
婚礼衣装はお披露目でも使うため、丁寧にトルソーへ戻された。下着姿のまま、しばらく衣装を眺める。なぜかしらね、お母様に見て頂きたかったと……唐突にそう思ったの。亡くなられたのが早かったから、ガブリエラ様との記憶のほうが多いのに。一目見せたかった。
感傷を振り払うように首を振り、入浴する。洗った髪を乾かし、化粧を落とした肌に薄化粧を施した。手際のいい侍女達に任せ、軽食を摘まんだ。サラダとハムを挟んだパンに、果物……最後にお茶で喉を潤す。
私室の間に用意された夫婦の寝室、そこへ続く扉に手を掛けた。かすかに指が震えている。私、緊張しているの? 初めてでもないのに、おかしいわね。自分を笑って扉を開けた。
まだ明るい午後の日差しが差し込む部屋で、クラウスが待っている。私の後ろで、エリーゼが扉を閉めた。クラウスは少し困ったような顔で首を傾げる。
「カーテンを閉める前に、話をしませんか?」
「……ええ、そのシャンパンを頂きながら」
透き通ったハムがチーズを包み、オリーブが飾られた皿。鮮やかな魚とサラダの皿。どちらも手付かずにするのは、気が引けるわ。薄着の私に、クラウスはガウンを掛けた。
「目のやり場に困ってしまって」
「あら、いくら見てもいい立場を手に入れたのよ?」
くすくす笑って、シャンパンをグラスに注ぐ。互いに掲げて、触れる手前で止めた。互いに決まり文句の「幸運を」を口にして、ゆっくりと傾ける。一口、それからもう一口。あまり飲むと、このあとが大変かしら?
話は他愛もないことばかり。いくつか言葉を交わして、肌が色づく程度に酒精を帯びて……ベッドに転がり込んだ。じゃれるようにしな垂れかかった私を抱き上げ、軽々と運ぶから。手を離そうとした彼を引き寄せたの。焦ったクラウスの首に腕を回し、唇を重ねた。
まだ夕暮れに早いけれど……カーテンを引く間も惜しいわ。観念して、私のものになりなさい!
あなたにおすすめの小説
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。