206 / 222
本編
205.結婚したてのファーストダンスを
慎ましやかな装いで、二人の女性が微笑む。私の呟きに反応したのは、エック兄様だった。即座に私の視線を辿り、驚いた顔をする。いま、生きている側妃は二人だけ。私の実母は亡くなっているから、エック兄様を生んだ辺境伯家のご令嬢とフォルト兄様の母であるシュナイト王国の女性騎士だった方。
皇族席に並ばず、臣下の位置に立つ。それこそが、二人の気持ちを表していた。我が子の晴れ姿を正面から見られるけれど、自分の功績にする気はない。宰相と元帥まで上り詰めた息子達を誇りこそすれ、その権威で自らを飾ろうとしない。
ガブリエラ様の目は本当に確かだわ。ルヴィ兄様に引き継がれた人誑しの才能は、この二人の人生を巻き込むほどに眩しかった。まあ、私の母もあっさりと光に飛び込んだ口でしょう。その眩しさで己の羽が焦げ、飛べなくなると知っていても。なお魅力的に感じてしまった。
私達が声を掛けて目立つのはまずい。あとでお呼びして感謝とお礼を伝えることにしましょう。まずは顔を上げて、主賓の一人である役目を果たすこと。クラウスと組んだ手を引きよせ、ガブリエラ様を目で追う。あの方が呼んだのよね。
どんな気持ちだったのかしら。自らに二人目の子が授からないと判断し、有力な家の令嬢を選んで宛がう。国と夫のためにお膳立てをした夜、寂しさに枕を濡らす……いえ、想像できないわ。ガブリエラ様なら、ワインを瓶で直飲みするくらいの豪気さがある。
どんなに表面を取り繕っても、もやもやする気持ちは捨てきれなかったはず。だからこそ後宮を纏め、それぞれに子が授かるよう尽力したガブリエラ様の凄さに震える。
「トリア?」
「なんでもないわ」
毅然と顔を上げて、ルヴィ兄様の挨拶が終わるのを待った。エック兄様は時折視線を向けていたが、軍人らしく姿勢を正したフォルト兄様は動かない。挨拶が終わると、貴族が中央を空けた。この国では、主賓や客人がダンスをする風習がある。
まず皇族や大公、公爵が踊る。来賓の客人がいれば共に踊り、二曲目から他の貴族が加わっていく形だった。そのため公爵以上はもちろん、大使を任される貴族もダンスは必須項目だった。踊れなければ、この国で社交は出来ないとまで言われる。実際はそこまででもないのよ。
ルヴィ兄様がマルグリットの手を取って中央へ立つ。囲むようにエック兄様とコルネリア、フォルト兄様とアデリナ、私とクラウスが位置を決めた。少し離れてお父様とガブリエラ様、ライフアイゼン公爵夫妻などが取り囲む。他国から来た祝いの客人達も、思い思いにパートナーと腕を絡めた。
緩やかに曲が始まり、途中でテンポが変わる。けれど、最後はまたゆったりと終わるのだ。この曲は定番で、誰もが踊れる曲として幼い頃から習う。考えるより早く足が動き、パートナーと息を合わせて回る。タイミングは自由なので、踊る人により印象が変わった。
「クラウス、上手ね」
「靴の底が擦り切れるほど、練習してまいりました」
あなたのためです。そんなニュアンスの答えに、くすくすと笑ったら、くるりと回された。私だけ? そんな視線を受けて、クラウスが私の腰を掴んで持ち上げて回る。高さと派手さで目立ったけれど、花嫁の一人なのでご愛敬ね。
本来は踊るためのドレスではないから、少しだけ裾を短くしてきたの。直してくれたエリーゼのお陰で、裾を踏まないで済むわ。フィッシュテールの角度を少し弄っただけよ。アデリナもふわふわのドレスでくるくると回る。体幹がしっかりしたフォルト兄様とのダンスは、まるで剣舞のようだった。
真面目さが出てきっちり踊るエック兄様達と違い、ルヴィ兄様はマルグリットの周りを自分が回った。女性が回ることが多いだけで、別におかしくはないけれど……尻に敷かれる宣言みたいだわ。ある意味、当たりかも? 楽しく踊って、二曲目が始まったところで場を譲る。
「側妃様達が……」
いないわ。想像できたことなのに、少しがっかりしてしまった。
皇族席に並ばず、臣下の位置に立つ。それこそが、二人の気持ちを表していた。我が子の晴れ姿を正面から見られるけれど、自分の功績にする気はない。宰相と元帥まで上り詰めた息子達を誇りこそすれ、その権威で自らを飾ろうとしない。
ガブリエラ様の目は本当に確かだわ。ルヴィ兄様に引き継がれた人誑しの才能は、この二人の人生を巻き込むほどに眩しかった。まあ、私の母もあっさりと光に飛び込んだ口でしょう。その眩しさで己の羽が焦げ、飛べなくなると知っていても。なお魅力的に感じてしまった。
私達が声を掛けて目立つのはまずい。あとでお呼びして感謝とお礼を伝えることにしましょう。まずは顔を上げて、主賓の一人である役目を果たすこと。クラウスと組んだ手を引きよせ、ガブリエラ様を目で追う。あの方が呼んだのよね。
どんな気持ちだったのかしら。自らに二人目の子が授からないと判断し、有力な家の令嬢を選んで宛がう。国と夫のためにお膳立てをした夜、寂しさに枕を濡らす……いえ、想像できないわ。ガブリエラ様なら、ワインを瓶で直飲みするくらいの豪気さがある。
どんなに表面を取り繕っても、もやもやする気持ちは捨てきれなかったはず。だからこそ後宮を纏め、それぞれに子が授かるよう尽力したガブリエラ様の凄さに震える。
「トリア?」
「なんでもないわ」
毅然と顔を上げて、ルヴィ兄様の挨拶が終わるのを待った。エック兄様は時折視線を向けていたが、軍人らしく姿勢を正したフォルト兄様は動かない。挨拶が終わると、貴族が中央を空けた。この国では、主賓や客人がダンスをする風習がある。
まず皇族や大公、公爵が踊る。来賓の客人がいれば共に踊り、二曲目から他の貴族が加わっていく形だった。そのため公爵以上はもちろん、大使を任される貴族もダンスは必須項目だった。踊れなければ、この国で社交は出来ないとまで言われる。実際はそこまででもないのよ。
ルヴィ兄様がマルグリットの手を取って中央へ立つ。囲むようにエック兄様とコルネリア、フォルト兄様とアデリナ、私とクラウスが位置を決めた。少し離れてお父様とガブリエラ様、ライフアイゼン公爵夫妻などが取り囲む。他国から来た祝いの客人達も、思い思いにパートナーと腕を絡めた。
緩やかに曲が始まり、途中でテンポが変わる。けれど、最後はまたゆったりと終わるのだ。この曲は定番で、誰もが踊れる曲として幼い頃から習う。考えるより早く足が動き、パートナーと息を合わせて回る。タイミングは自由なので、踊る人により印象が変わった。
「クラウス、上手ね」
「靴の底が擦り切れるほど、練習してまいりました」
あなたのためです。そんなニュアンスの答えに、くすくすと笑ったら、くるりと回された。私だけ? そんな視線を受けて、クラウスが私の腰を掴んで持ち上げて回る。高さと派手さで目立ったけれど、花嫁の一人なのでご愛敬ね。
本来は踊るためのドレスではないから、少しだけ裾を短くしてきたの。直してくれたエリーゼのお陰で、裾を踏まないで済むわ。フィッシュテールの角度を少し弄っただけよ。アデリナもふわふわのドレスでくるくると回る。体幹がしっかりしたフォルト兄様とのダンスは、まるで剣舞のようだった。
真面目さが出てきっちり踊るエック兄様達と違い、ルヴィ兄様はマルグリットの周りを自分が回った。女性が回ることが多いだけで、別におかしくはないけれど……尻に敷かれる宣言みたいだわ。ある意味、当たりかも? 楽しく踊って、二曲目が始まったところで場を譲る。
「側妃様達が……」
いないわ。想像できたことなのに、少しがっかりしてしまった。
あなたにおすすめの小説
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした
佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。
その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。
長女ソフィア。
美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。
そして──もう一人。
妹、レーネ・アルヴィス。
社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。
姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。
だが彼女は知っている。
貴族社会では、
誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。
王立学園に入学したレーネは、
礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。
やがて──
軽んじていた者たちは気づく。
「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。
これは、
静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。
公爵令嬢の辿る道
ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。
家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。
それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。
これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。
※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。
追記
六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。