213 / 222
番外編
05.あたしの好きな宝もの ***アデリナ
イエンチュの一部族の娘、強い夫を求めて戦い……気づいたら誰も残らなかった。全員負かせてしまったため、夫になる男がいない。こうなったら国外に求めるしかあるまい。そう考えた。父は苦笑いして我が儘を許す。
外には帝国を筆頭に、多くの国がある。あたしに勝てる男がどこかにいるはず。そう告げたところ、弟が思わぬ情報を持ち込んだ。イエンチュ王国で最強と謳われた伝説の女傑が、帝国の皇妃になったと。ならば、その夫はさぞ強いに違いない。
目指す先が決まった。リヒター帝国で、最強の夫を見つける! ガブリエラ様に勝つ男がいたのなら、あたしを負かす男がいるだろう。愛用の槍を担いで、愛馬に飛び乗った。荷物は最小限、家族への挨拶もそこそこに馬を走らせる。
宿は面倒なので、食糧の調達以外で街には寄らない。街道沿いを淡々と走り、数日でリヒター帝国に入った。そこでガブリエラ様に負け、最強の夫を得て、愛らしい義妹に出会う。腕っぷしの強いあたしに似合わないから、家族にも隠してきた。可愛いものが好きで、愛らしい人形に憧れている。
夫フォルクハルトの妹、ヴィクトーリアは本当に綺麗だった。出会った瞬間、理想が息をして歩いていると思ったほどだ。さらりと柔らかな銀髪に、目の覚めるような宝石の青い瞳。白すぎる不健康な肌ではなく、日に焼けた美しい艶を保つ。だからこそ銀髪がより美しく見えた。
もし肌の真っ白な美女がいたら、黒髪などの色が濃い髪が似合うだろう。逆の組み合わせは、目に新しくより華やかに思えた。遠慮しながらも話しかける。貴族のお嬢様というのは、あたしのような武骨な女を怖がるらしい。ところが、トリアは違った。
触れてもいいと、あたしの手に触れる。恐怖も怯えもなく、普通に接してくれた。それは近くにいた侍女も同じで、おそらくトリアは普段から誰にでも優しく平等に接するのだ。彼女の態度が人形らしさを増長するようで、嬉しくなった。人形の話をしてしまったのは、そのせいもあるか。
久しぶりに夫と別行動だ。フォルトと結婚して、姉が二人と妹のトリアが増えた。憧れの女傑は義母となり、力は弱いが権力のある義父もいる。家族が増えたことで、あたしの役割も出来た。フォルトを守って戦場を駆け、国内の騎士候補を強くすること。
毎日剣を振るっても、槍の稽古をしても、誰も文句を言わない環境が楽しい。夫との手合わせは心躍るうえ、稀に勝てることもあった。成長が目に見えると、鍛錬にも力が入るものだな。
今日は義姉である皇妃マルグリットの護衛だ。子供達三人も一緒だと聞いた。トリアにそっくりなジルヴィア、絵のうまいレオンハルト、お洒落好きなゲアリンデだ。ジルヴィアはトリアを少女にしたようで、顔も性格も同じだった。あの子に会えるのが楽しみだ。
連絡を受けた場所に到着したが、まだ馬車は見えない。街道脇の木陰で愛馬から降りて、革袋の水を飲ませた。あたしも水を一口、今日は外出には最高の天気だ。晴れて眩しいこともなければ、雨の鬱陶しさもない。曇っていても、空は明るい灰色をしていた。
「今日は降らないな」
呟いたあたしの耳に、車輪の音が聞こえる。馬の蹄が重なり、言葉を交わす人の声。人数を図りながら、愛馬の背を叩いた。心得たように嘶く相棒に飛び乗り、街道へ走らせる。現れた一行は、マルグリット達だ。合流するなり、ジルヴィアが強請った。
「アデリナおば様、馬に乗せて」
可愛いお願いに、少しだけ迷ったが……遊牧民であったあたしが馬から落ちる心配はいらない。当然、前に座らせるお姫様を落とすこともない。下りて、彼女を押し上げた。鞍の前方に荷物を載せる部位があり、上手にそこへ座る。ジルヴィアの後ろに跨り、馬車の速度に合わせて歩かせた。
「私、アデリナおば様が大好きよ」
トリアと同じ言葉を口にする姪に、あたしは目を細めて「ありがとう」と返した。ああ、雨は降らないと思ったのに……湿気が多くて視界がぼやけるみたいだ。瞬きして散らしたあたしに、ジルヴィアは寄り掛かって信頼を示した。
あたしがジルヴィアを守る。フォルトとともに、新たな女帝の未来を切り開こう。心からそう思い、曇り空を仰いだ。
********************
宣伝です!
めりぃくりすまぁす° ✧ (*´ `*) ✧ °
『魔王様、溺愛しすぎです!』https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/719255198
コミカライズ決定です! 詳細は許可が出てから改めて発表しますので、しばらくお待ちください(*´꒳`*)
外には帝国を筆頭に、多くの国がある。あたしに勝てる男がどこかにいるはず。そう告げたところ、弟が思わぬ情報を持ち込んだ。イエンチュ王国で最強と謳われた伝説の女傑が、帝国の皇妃になったと。ならば、その夫はさぞ強いに違いない。
目指す先が決まった。リヒター帝国で、最強の夫を見つける! ガブリエラ様に勝つ男がいたのなら、あたしを負かす男がいるだろう。愛用の槍を担いで、愛馬に飛び乗った。荷物は最小限、家族への挨拶もそこそこに馬を走らせる。
宿は面倒なので、食糧の調達以外で街には寄らない。街道沿いを淡々と走り、数日でリヒター帝国に入った。そこでガブリエラ様に負け、最強の夫を得て、愛らしい義妹に出会う。腕っぷしの強いあたしに似合わないから、家族にも隠してきた。可愛いものが好きで、愛らしい人形に憧れている。
夫フォルクハルトの妹、ヴィクトーリアは本当に綺麗だった。出会った瞬間、理想が息をして歩いていると思ったほどだ。さらりと柔らかな銀髪に、目の覚めるような宝石の青い瞳。白すぎる不健康な肌ではなく、日に焼けた美しい艶を保つ。だからこそ銀髪がより美しく見えた。
もし肌の真っ白な美女がいたら、黒髪などの色が濃い髪が似合うだろう。逆の組み合わせは、目に新しくより華やかに思えた。遠慮しながらも話しかける。貴族のお嬢様というのは、あたしのような武骨な女を怖がるらしい。ところが、トリアは違った。
触れてもいいと、あたしの手に触れる。恐怖も怯えもなく、普通に接してくれた。それは近くにいた侍女も同じで、おそらくトリアは普段から誰にでも優しく平等に接するのだ。彼女の態度が人形らしさを増長するようで、嬉しくなった。人形の話をしてしまったのは、そのせいもあるか。
久しぶりに夫と別行動だ。フォルトと結婚して、姉が二人と妹のトリアが増えた。憧れの女傑は義母となり、力は弱いが権力のある義父もいる。家族が増えたことで、あたしの役割も出来た。フォルトを守って戦場を駆け、国内の騎士候補を強くすること。
毎日剣を振るっても、槍の稽古をしても、誰も文句を言わない環境が楽しい。夫との手合わせは心躍るうえ、稀に勝てることもあった。成長が目に見えると、鍛錬にも力が入るものだな。
今日は義姉である皇妃マルグリットの護衛だ。子供達三人も一緒だと聞いた。トリアにそっくりなジルヴィア、絵のうまいレオンハルト、お洒落好きなゲアリンデだ。ジルヴィアはトリアを少女にしたようで、顔も性格も同じだった。あの子に会えるのが楽しみだ。
連絡を受けた場所に到着したが、まだ馬車は見えない。街道脇の木陰で愛馬から降りて、革袋の水を飲ませた。あたしも水を一口、今日は外出には最高の天気だ。晴れて眩しいこともなければ、雨の鬱陶しさもない。曇っていても、空は明るい灰色をしていた。
「今日は降らないな」
呟いたあたしの耳に、車輪の音が聞こえる。馬の蹄が重なり、言葉を交わす人の声。人数を図りながら、愛馬の背を叩いた。心得たように嘶く相棒に飛び乗り、街道へ走らせる。現れた一行は、マルグリット達だ。合流するなり、ジルヴィアが強請った。
「アデリナおば様、馬に乗せて」
可愛いお願いに、少しだけ迷ったが……遊牧民であったあたしが馬から落ちる心配はいらない。当然、前に座らせるお姫様を落とすこともない。下りて、彼女を押し上げた。鞍の前方に荷物を載せる部位があり、上手にそこへ座る。ジルヴィアの後ろに跨り、馬車の速度に合わせて歩かせた。
「私、アデリナおば様が大好きよ」
トリアと同じ言葉を口にする姪に、あたしは目を細めて「ありがとう」と返した。ああ、雨は降らないと思ったのに……湿気が多くて視界がぼやけるみたいだ。瞬きして散らしたあたしに、ジルヴィアは寄り掛かって信頼を示した。
あたしがジルヴィアを守る。フォルトとともに、新たな女帝の未来を切り開こう。心からそう思い、曇り空を仰いだ。
********************
宣伝です!
めりぃくりすまぁす° ✧ (*´ `*) ✧ °
『魔王様、溺愛しすぎです!』https://www.alphapolis.co.jp/novel/470462601/719255198
コミカライズ決定です! 詳細は許可が出てから改めて発表しますので、しばらくお待ちください(*´꒳`*)
あなたにおすすめの小説
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
白い結婚のまま、旦那様は薔薇のような美人に夢中になりました
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢リディアは、美貌で有名な侯爵レオンハルトに嫁いだ。
けれど結婚して二年、夫婦は一度も結ばれないまま――白い結婚だった。
それでも旦那様は優しかった。
冷たいわけではない。気づかいの言葉も、穏やかな笑顔もくれる。
だからリディアは、愛されてはいなくても、いつか少しは夫婦になれるのではないかと信じていた。
そんなある日、彼女は知ってしまう。
旦那様が薔薇の君と呼ばれる絶世の美女に心を奪われていることを。
彼が触れなかったのは私にだけだったのだと。
都合のいい奥方として、役に立っていたと悟る
静かに離縁を決意したリディアは、実家へ戻ったあと、女子学院で働き始める。
すると侯爵夫人時代には当たり前だった実務のすべてが、外では驚くほど必要とされていた。
感謝され、認められ、自分の足で立ち始めた彼女は、少しずつ見違えるほど美しくなっていく
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
婚約破棄? ありがとうございます。やっと本当の人生が始まります
たくわん
恋愛
婚約破棄された令嬢がすべきことといえば、泣くか、喚くか、復讐を誓うか——らしい。
リーナ・フォスター公爵令嬢がしたことは、荷造りだった。
「冷たくて人を愛せない」と王太子に切り捨てられた夜、リーナは一度も振り返らずに王城を出た。向かった先は辺境の荒れ地。目的は薬草の栽培と薬品事業の立ち上げ。前世の記憶から温めてきた、誰にも言えなかった計画の実行だ。
リーナはそこで不器用だが誠実な騎士ヴァルターと出会う。一方、残された王太子とその新しい婚約者は、少しずつ、静かに、取り返しのつかない方向へと歩んでいたーー。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。