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本編
24.返り咲き前のひと休み
大神官に上り詰めた叔父様が神殿から出てくるのは珍しい。そのため、ルヴィ兄様は大喜びで、晩餐の支度を手配した。お父様やガブリエラ様も招待し、家族だけで楽しむ予定だ。
イングリットを抱き上げ、彼女の頭を撫でる。かろうじて銀髪だとわかるが、まだ髪は少なかった。小さな指で私の服の飾りを掴む。胸元から続くレース飾りが気に入ったみたい。慌てるアンナに首を横へ振った。大丈夫よ、そう示して軽く揺らす。
小さな声をあげながら、娘は大きな目を瞬いた。晩餐の後で顔を見たいと、お父様達から申し出があった。断る理由はない。祖父母ですもの。アンナに事情を伝え、食後の顔合わせを伝えた。豪華に着飾るべきか迷う彼女に、いいえと否定する。
「豪華でなくていいわ。祖父母が孫に会うだけだもの。いつも通りよ」
いつも清潔なベッドや服を保ち、おしめもマメに替えている。何も問題ないわ。お礼と一緒にアンナやエリーゼを褒めた。献身的に面倒を見てくれて、本当に助かっているの。感動するアンナに任せ、晩餐用の服をエリーゼと選ぶ。
皇帝陛下の晩餐会となれば、格調高い装いが必要だった。ただ、今回は親族の食事会に近い。いろいろと考えて、装飾品を控えめにした。代わりにドレスは一級正装で格式を保つ。
私室の壁際に積まれた箱は、開封が間に合わない。お兄様達のプレゼントに加え、鼻の利く貴族からの贈り物だった。持ち帰った衣服は、私が婚姻前に仕立てたもの。途中で追加で仕立てたものを足しても、クローゼットを埋められない。
皇族の紋章が入ったものから開封し、贈り主不明の箱は騎士達が別室で開封した。現時点で危険はないけれど……今後も同じとは限らないわ。
「中の宮の東棟にある客間へ運んで頂戴。開封作業は任せるわ」
執事コンラートに命じる。彼ならば宝飾品にも詳しいので、鑑別して分類し、贈り主のリストを仕上げるだろう。宝飾品は肌に触れることが多いため、毒を仕込まれやすい。その点も心得ている男だから、安心して任せることができた。
「イングリット皇女殿下への贈り物はいかがしましょうか」
「そう、ね……手をつけずに部屋を分けておいて」
荷物の仕分けをさせていい人達ではない。でも、孫への贈り物となれば、喜んで協力するはずよ。お父様とガブリエラ様に任せるつもりで、別室へ運ばせた。
「お嬢様、お支度を」
コンラートに促され、身を清める。髪を乾かして垂らした。リヒター帝国では、未婚女性は髪を結わない。アディソン王国でも慣習を守り、床を重ねた翌朝から髪を結わせた。
今の私は未婚の女性皇族であり、皇帝の養女であるイングリットの母親よ。銀の髪に絡めるように、上から真珠飾りを垂らした。銀鎖に真珠を繋げた飾りが、きらきらと光を弾く。褐色の肌に艶を出す香油を塗り、丁寧に化粧を施した。
青い瞳を強調するように、目元に紫を入れる。ピンクや白の雲母を散らし、唇に真っ赤な紅を差した。鏡に映るのはヴィクトーリア・ヤスミーン・リヒテンシュタイン――誇り高きリヒター帝国皇妹だった。
「いってくるわ」
体にぴたりと沿うドレスは、コルセットを使わない。薄絹にコルセットが浮き出てしまうからだ。細い腰とまろい臀部、豊かな胸元……子を産んでも衰えぬ美貌とスタイルは自慢できる。私が社交界へ返り咲き、艶やかに衆目を集めるために必要な武器だった。
「お姫様、迎えに来たぜ」
フォルト兄様は、ノックもなしに扉を開けて待つ。差し出された手を取りながら、笑顔でちくり。
「ガブリエラ様に叱られないといいわね、フォルト兄様」
「うわっ……気をつける、じゃなくて気をつけます」
やればできるのにサボる末兄は、筋肉質でゴツゴツした体でゆったりと一礼して見せた。最後に歯を見せてにやっとしなければ、合格をあげられたのにね。
イングリットを抱き上げ、彼女の頭を撫でる。かろうじて銀髪だとわかるが、まだ髪は少なかった。小さな指で私の服の飾りを掴む。胸元から続くレース飾りが気に入ったみたい。慌てるアンナに首を横へ振った。大丈夫よ、そう示して軽く揺らす。
小さな声をあげながら、娘は大きな目を瞬いた。晩餐の後で顔を見たいと、お父様達から申し出があった。断る理由はない。祖父母ですもの。アンナに事情を伝え、食後の顔合わせを伝えた。豪華に着飾るべきか迷う彼女に、いいえと否定する。
「豪華でなくていいわ。祖父母が孫に会うだけだもの。いつも通りよ」
いつも清潔なベッドや服を保ち、おしめもマメに替えている。何も問題ないわ。お礼と一緒にアンナやエリーゼを褒めた。献身的に面倒を見てくれて、本当に助かっているの。感動するアンナに任せ、晩餐用の服をエリーゼと選ぶ。
皇帝陛下の晩餐会となれば、格調高い装いが必要だった。ただ、今回は親族の食事会に近い。いろいろと考えて、装飾品を控えめにした。代わりにドレスは一級正装で格式を保つ。
私室の壁際に積まれた箱は、開封が間に合わない。お兄様達のプレゼントに加え、鼻の利く貴族からの贈り物だった。持ち帰った衣服は、私が婚姻前に仕立てたもの。途中で追加で仕立てたものを足しても、クローゼットを埋められない。
皇族の紋章が入ったものから開封し、贈り主不明の箱は騎士達が別室で開封した。現時点で危険はないけれど……今後も同じとは限らないわ。
「中の宮の東棟にある客間へ運んで頂戴。開封作業は任せるわ」
執事コンラートに命じる。彼ならば宝飾品にも詳しいので、鑑別して分類し、贈り主のリストを仕上げるだろう。宝飾品は肌に触れることが多いため、毒を仕込まれやすい。その点も心得ている男だから、安心して任せることができた。
「イングリット皇女殿下への贈り物はいかがしましょうか」
「そう、ね……手をつけずに部屋を分けておいて」
荷物の仕分けをさせていい人達ではない。でも、孫への贈り物となれば、喜んで協力するはずよ。お父様とガブリエラ様に任せるつもりで、別室へ運ばせた。
「お嬢様、お支度を」
コンラートに促され、身を清める。髪を乾かして垂らした。リヒター帝国では、未婚女性は髪を結わない。アディソン王国でも慣習を守り、床を重ねた翌朝から髪を結わせた。
今の私は未婚の女性皇族であり、皇帝の養女であるイングリットの母親よ。銀の髪に絡めるように、上から真珠飾りを垂らした。銀鎖に真珠を繋げた飾りが、きらきらと光を弾く。褐色の肌に艶を出す香油を塗り、丁寧に化粧を施した。
青い瞳を強調するように、目元に紫を入れる。ピンクや白の雲母を散らし、唇に真っ赤な紅を差した。鏡に映るのはヴィクトーリア・ヤスミーン・リヒテンシュタイン――誇り高きリヒター帝国皇妹だった。
「いってくるわ」
体にぴたりと沿うドレスは、コルセットを使わない。薄絹にコルセットが浮き出てしまうからだ。細い腰とまろい臀部、豊かな胸元……子を産んでも衰えぬ美貌とスタイルは自慢できる。私が社交界へ返り咲き、艶やかに衆目を集めるために必要な武器だった。
「お姫様、迎えに来たぜ」
フォルト兄様は、ノックもなしに扉を開けて待つ。差し出された手を取りながら、笑顔でちくり。
「ガブリエラ様に叱られないといいわね、フォルト兄様」
「うわっ……気をつける、じゃなくて気をつけます」
やればできるのにサボる末兄は、筋肉質でゴツゴツした体でゆったりと一礼して見せた。最後に歯を見せてにやっとしなければ、合格をあげられたのにね。
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