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本編
25.晩餐会に入り込んだ悪意
ルヴィ兄様とエック兄様には、婚約者がいる。愛情の有無は別として、異母妹のエスコートは余計な憶測を生むわ。家族同士の晩餐会であっても、使用人がいる皇宮の出来事は噂になる。通常なら咎める状況だけれど、今回は利用するつもりだった。
フォルト兄様と腕を組み、晩餐の準備をした部屋の前で立ち止まる。迎えに出た二人の兄に微笑みかけ、彼らと両腕を組んで中に入った。使用人だけでなく、通りかかった騎士や文官にも見せつける。フォルト兄様が扉を閉めた。
「どのくらいかかるかしら」
「すぐでしょうね」
「口が堅い連中もいたが?」
エック兄様の返事に、ルヴィ兄様が被せる。すでに部屋で待つお父様は「面倒だな」と苦笑いした。「さっさと広げて火をつけろ」と過激な発言をするのは、ガブリエラ様だ。
「ガブリエラ様、じっくりと料理しなくては、美味しく頂けないでしょう?」
おほほと笑い、向かいに腰かけた。左側にエック兄様が座ると、フォルト兄様は顔を引きつらせた。空いている席は、ガブリエラ様の隣だけ。唸ったり、エック兄様を睨んだり、フォルト兄様も最後は諦めて座った。
「フォルトはまた……筋肉が大きくなったのではないか?」
「わかりますか? さすがです。実は鍛錬の方法を変えまして……」
鍛錬や筋肉の話になると饒舌なフォルト兄様に、ガブリエラ様は頷きながら先を促す。食事中は仕事の話をしないのが、私達家族のルールよ。ワインで唇を湿らせ、前菜から味わう。サラダやスープを経て、ワイングラスが交換された。
「ところで、吾子にはいつ会えるのだ?」
「イングリットですね。食後にお会いできるよう、手配いたしました」
せっかちなお父様に応じれば、満足そうに頷いた。運ばれた魚を半身だけ食べ、口直しをしてから、再びワイングラスが変わった。乳母がいるので授乳の心配はない。迷ったがワインは断った。葡萄の果汁をもらい、口をつける。
「このワイン、酸っぱいな」
ぼそっと呟いたのは、最初に口をつけたフォルト兄様だ。ぴたりと手が止まり、全員が赤ワインに視線を注ぐ。目配せで誰がいくか、押しつけ合う様子に溜め息を吐いた。なぜ自分達で確認しようとするの?
「呼んで確認させればいいではありませんか」
毒が入っているなら、この場で誰が飲んでも事件よ。フォルト兄様は毒が効きにくい。民族特有の体質で、正直羨ましいわ。効果がなくても味の変化は感じ取れるため、フォルト兄様が最初に口をつけることが多かった。
「そうだった」
ルヴィ兄様が苦笑いし、毒見の担当官を呼ぶ。彼は緊張した面持ちで、赤ワインのグラスを受け取った。口をつけ、一口……すぐに飲み込まず確かめ、用意された壺へ吐き出す。
「毒です、痺れ薬と……なにか……」
そこで倒れる。皇族として生まれた私達は、幼い頃から毒に体を慣らしてきた。毒見として仕える一族の者も同様だ。そんな彼に、即刻現れた症状に眉根を寄せた。相当な量を入れたのね。
「フォルト兄様?」
「ん……ちょっと腹が痛い」
やや顔色の青いフォルト兄様は、口元を押さえて呻く。珍しい光景に、家族が騒然となった。
「え?」
「致死量じゃないか?」
上の兄二人が顔を見合わせる。不吉なこと仰らないで。
「落ち着け、まずは毒見役の心配からだ」
「マインラート! そこは嘘でも、息子の心配をしろ」
お父様達も混乱していた。全員対応が間違っているわ。
「フォルト兄様に吐かせないと!」
「……待て、もしかして」
椅子から立ち上がり、ふらつきながらも逃げる兄を追う。腕を掴めば、熱があった。すぐに対応が必要ね。足を引っ掛けて転ばせ、受け身を取ったフォルト兄様の腹を……踏もうとして靴に気づく。ヒールが刺さっちゃうわ。
下からフォルト兄様の手が伸びて、靴を脱がせた。その直後、転がって横へ逃げようとする。でも遅いわ。
「ああ、もう……脇腹に入っちゃったじゃない」
大人しくしないからよ。叱りながら、もう一回踏んでおいた。ちゃんと毒を吐いたかしら。追加しようとしたら、エック兄様に止められたわ。もう吐いていたの?
「恐ろしくも頼もしい娘だ」
ガブリエラ様の褒め言葉が、散々な状態の部屋に響いた。
フォルト兄様と腕を組み、晩餐の準備をした部屋の前で立ち止まる。迎えに出た二人の兄に微笑みかけ、彼らと両腕を組んで中に入った。使用人だけでなく、通りかかった騎士や文官にも見せつける。フォルト兄様が扉を閉めた。
「どのくらいかかるかしら」
「すぐでしょうね」
「口が堅い連中もいたが?」
エック兄様の返事に、ルヴィ兄様が被せる。すでに部屋で待つお父様は「面倒だな」と苦笑いした。「さっさと広げて火をつけろ」と過激な発言をするのは、ガブリエラ様だ。
「ガブリエラ様、じっくりと料理しなくては、美味しく頂けないでしょう?」
おほほと笑い、向かいに腰かけた。左側にエック兄様が座ると、フォルト兄様は顔を引きつらせた。空いている席は、ガブリエラ様の隣だけ。唸ったり、エック兄様を睨んだり、フォルト兄様も最後は諦めて座った。
「フォルトはまた……筋肉が大きくなったのではないか?」
「わかりますか? さすがです。実は鍛錬の方法を変えまして……」
鍛錬や筋肉の話になると饒舌なフォルト兄様に、ガブリエラ様は頷きながら先を促す。食事中は仕事の話をしないのが、私達家族のルールよ。ワインで唇を湿らせ、前菜から味わう。サラダやスープを経て、ワイングラスが交換された。
「ところで、吾子にはいつ会えるのだ?」
「イングリットですね。食後にお会いできるよう、手配いたしました」
せっかちなお父様に応じれば、満足そうに頷いた。運ばれた魚を半身だけ食べ、口直しをしてから、再びワイングラスが変わった。乳母がいるので授乳の心配はない。迷ったがワインは断った。葡萄の果汁をもらい、口をつける。
「このワイン、酸っぱいな」
ぼそっと呟いたのは、最初に口をつけたフォルト兄様だ。ぴたりと手が止まり、全員が赤ワインに視線を注ぐ。目配せで誰がいくか、押しつけ合う様子に溜め息を吐いた。なぜ自分達で確認しようとするの?
「呼んで確認させればいいではありませんか」
毒が入っているなら、この場で誰が飲んでも事件よ。フォルト兄様は毒が効きにくい。民族特有の体質で、正直羨ましいわ。効果がなくても味の変化は感じ取れるため、フォルト兄様が最初に口をつけることが多かった。
「そうだった」
ルヴィ兄様が苦笑いし、毒見の担当官を呼ぶ。彼は緊張した面持ちで、赤ワインのグラスを受け取った。口をつけ、一口……すぐに飲み込まず確かめ、用意された壺へ吐き出す。
「毒です、痺れ薬と……なにか……」
そこで倒れる。皇族として生まれた私達は、幼い頃から毒に体を慣らしてきた。毒見として仕える一族の者も同様だ。そんな彼に、即刻現れた症状に眉根を寄せた。相当な量を入れたのね。
「フォルト兄様?」
「ん……ちょっと腹が痛い」
やや顔色の青いフォルト兄様は、口元を押さえて呻く。珍しい光景に、家族が騒然となった。
「え?」
「致死量じゃないか?」
上の兄二人が顔を見合わせる。不吉なこと仰らないで。
「落ち着け、まずは毒見役の心配からだ」
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「フォルト兄様に吐かせないと!」
「……待て、もしかして」
椅子から立ち上がり、ふらつきながらも逃げる兄を追う。腕を掴めば、熱があった。すぐに対応が必要ね。足を引っ掛けて転ばせ、受け身を取ったフォルト兄様の腹を……踏もうとして靴に気づく。ヒールが刺さっちゃうわ。
下からフォルト兄様の手が伸びて、靴を脱がせた。その直後、転がって横へ逃げようとする。でも遅いわ。
「ああ、もう……脇腹に入っちゃったじゃない」
大人しくしないからよ。叱りながら、もう一回踏んでおいた。ちゃんと毒を吐いたかしら。追加しようとしたら、エック兄様に止められたわ。もう吐いていたの?
「恐ろしくも頼もしい娘だ」
ガブリエラ様の褒め言葉が、散々な状態の部屋に響いた。
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