27 / 222
本編
26.解毒薬は口に苦し
フォルト兄様はすぐに診察を受け、解毒薬を口に入れられる。ぐぉおお! すごい声で転がり、ソファーから落ちた姿を見て顔を引き攣らせた。あれ、すごく苦いと思うわ。
飲まずに済んだことにほっとする兄達と顔を見合わせ、大きく息を吸い込んだ。
「きゃぁああ! お兄様ぁ!」
通る声で叫ぶ。それからテーブルの上のカトラリーを落とし、わざと外へ音を聞かせた。これで勘違いして動いてくれるかしら。この部屋にいる給仕の侍従達は、しばらく拘束させてもらう予定よ。それで、さらに噂を煽るの。
「エック兄様、お願いね」
小声で頼み、部屋にいた侍従達は離宮へ向かう。奥の宮にある離宮は、名前と違い同じ建物内にあった。かつて後宮だった頃、他国から略奪した姫君を閉じ込めたとか。なんとも酷い秘話がある曰くつきだった。姫君を監禁する宮だからか、繊細な彫刻が施された造りのいい場所だ。
ご先祖様のやらかしが事実だと知らしめるように、出入り口が一つしかなかった。誰かを監禁するには最適ね。豪華な食事と綺麗な部屋を与え、臨時報酬も支払うから、ゆっくりしていて。その間に引っかかる獲物を釣らなくては。
「私も手伝おう……フォルト! しっかりしろぉ!」
ぼそっと呟いたガブリエラ様が、予備動作なく叫んだ。その声は私より響いたのではないかしら。ばたばたと廊下の足音が聞こえ、顔を見合わせる。扉や壁が厚いから、あのくらい叫ばないとダメなのね。
「ルヴィ兄様、影は動かした?」
「もちろんだ。すでに半数が追跡に入っている」
「あら、そんなに……」
思ったより間諜が多いようだ。皇族のプライベートな晩餐会の詳細を知りたい方が、こんなにいるなんて。次は招待してあげましょう。
「では……孫を見にいくか」
「お父様、さすがにまずいですわ。後でこっそりと連れて行きます」
フォルト兄様に毒が盛られ、ガブリエラ様や私が悲鳴をあげる事態なのよ。のんびりとお父様が孫を見に行ったら、嘘がバレてしまう。がっかりした様子で肩を落としたお父様だが、すぐに拳を握って復活した。
「毒を使った馬鹿を、八つ裂きにしてくれる!」
「私の邪魔をなさるなら、イングリットには会わせませんよ」
「……なんでもない」
お父様は本当に頭に血が昇りやすいんですから。顔立ちは似ていても、エック兄様に引き継がれなくてよかったわ。大人しくなったお父様に、肩を叩いて大笑いするガブリエラ様。この夫婦がうまくいく秘訣は、性格の違いにあるのだと思う。
「しかし……皇帝たる私がいる場所で、父上や母上もおられるというのに毒、だと? 愚かなことだ」
「まったくです。随分と舐められていますよ、兄上」
ルヴィ兄様の低い怒りの声に、笑みのないエック兄様が同意する。このタイミングで動けるなんて、どう考えても国内貴族の仕業だもの。
「なあ、俺はもう起きてもいいか?」
「もう少し、毒にやられたフリをしてらして。フォルト兄様」
すっかり毒を中和して元気なフォルト兄様は、不満そうな顔で「わかった」といい子の返事を寄越した。先ほどはまずい解毒薬を飲んでいましたし……屈んで頭を撫でれば嬉しそう。兄というより、弟みたいね。
飲まずに済んだことにほっとする兄達と顔を見合わせ、大きく息を吸い込んだ。
「きゃぁああ! お兄様ぁ!」
通る声で叫ぶ。それからテーブルの上のカトラリーを落とし、わざと外へ音を聞かせた。これで勘違いして動いてくれるかしら。この部屋にいる給仕の侍従達は、しばらく拘束させてもらう予定よ。それで、さらに噂を煽るの。
「エック兄様、お願いね」
小声で頼み、部屋にいた侍従達は離宮へ向かう。奥の宮にある離宮は、名前と違い同じ建物内にあった。かつて後宮だった頃、他国から略奪した姫君を閉じ込めたとか。なんとも酷い秘話がある曰くつきだった。姫君を監禁する宮だからか、繊細な彫刻が施された造りのいい場所だ。
ご先祖様のやらかしが事実だと知らしめるように、出入り口が一つしかなかった。誰かを監禁するには最適ね。豪華な食事と綺麗な部屋を与え、臨時報酬も支払うから、ゆっくりしていて。その間に引っかかる獲物を釣らなくては。
「私も手伝おう……フォルト! しっかりしろぉ!」
ぼそっと呟いたガブリエラ様が、予備動作なく叫んだ。その声は私より響いたのではないかしら。ばたばたと廊下の足音が聞こえ、顔を見合わせる。扉や壁が厚いから、あのくらい叫ばないとダメなのね。
「ルヴィ兄様、影は動かした?」
「もちろんだ。すでに半数が追跡に入っている」
「あら、そんなに……」
思ったより間諜が多いようだ。皇族のプライベートな晩餐会の詳細を知りたい方が、こんなにいるなんて。次は招待してあげましょう。
「では……孫を見にいくか」
「お父様、さすがにまずいですわ。後でこっそりと連れて行きます」
フォルト兄様に毒が盛られ、ガブリエラ様や私が悲鳴をあげる事態なのよ。のんびりとお父様が孫を見に行ったら、嘘がバレてしまう。がっかりした様子で肩を落としたお父様だが、すぐに拳を握って復活した。
「毒を使った馬鹿を、八つ裂きにしてくれる!」
「私の邪魔をなさるなら、イングリットには会わせませんよ」
「……なんでもない」
お父様は本当に頭に血が昇りやすいんですから。顔立ちは似ていても、エック兄様に引き継がれなくてよかったわ。大人しくなったお父様に、肩を叩いて大笑いするガブリエラ様。この夫婦がうまくいく秘訣は、性格の違いにあるのだと思う。
「しかし……皇帝たる私がいる場所で、父上や母上もおられるというのに毒、だと? 愚かなことだ」
「まったくです。随分と舐められていますよ、兄上」
ルヴィ兄様の低い怒りの声に、笑みのないエック兄様が同意する。このタイミングで動けるなんて、どう考えても国内貴族の仕業だもの。
「なあ、俺はもう起きてもいいか?」
「もう少し、毒にやられたフリをしてらして。フォルト兄様」
すっかり毒を中和して元気なフォルト兄様は、不満そうな顔で「わかった」といい子の返事を寄越した。先ほどはまずい解毒薬を飲んでいましたし……屈んで頭を撫でれば嬉しそう。兄というより、弟みたいね。
あなたにおすすめの小説
ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ
ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。
スピーナ子爵家の次女。
どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。
ウィオラはいつも『じゃない方』
認められない、
選ばれない…
そんなウィオラは――
中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。
よろしくお願いします。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜
まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。
愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。
夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。
でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。
「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」
幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。
ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。
夫が全てを失うのはこれからの話。
私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました
ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。
けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。
やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。
――もう、この結婚には見切りをつけよう。
夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。
身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。
一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。
幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜
恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」
不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。
結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、
「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。
元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。
独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場!
無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。
記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける!
※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。
苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる
物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。