【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
33 / 222
本編

32.犯人しか知らない秘密でしょう

「珍しい席順ですな」

 ノイベルト公爵が不満そうに呟く。適当な答えではぐらかしながら、彼の苛立ちを煽る単語を選んだ。皇帝だから、特別な方だから、などの言葉にいちいち反応している。

 皇帝であるルヴィ兄様が着座したのを合図に、食前酒から。通常は白ワインを果汁で割ることが多いけれど、赤ワインを用意させた。これはライフアイゼン公爵家への合図よ。

「お招きいただき、ありがとうございます。妻ともども、楽しみにしておりましたが……何かご不幸でも?」

 口火を切ったライフアイゼン公爵家は、完全に白だった。事前情報は何も漏れていないし、赤ワインでの合図にきちんと対応している。皇帝の影を使った調査にも、引っ掛からなかった。さすがは忠臣と名高い一族ね。

 ライフアイゼン公爵は、ゆったりとした口調に心配を滲ませる。何も知らないが、そのヴェールはどうしたのか、問う響きだった。四つの公爵家の筆頭でありながら、末席を与えられた意味も理解している様子。落ち着いた対応には、皇族への信頼が窺える。

「おお、が盛られたと聞きました。欠席なされたエーデルシュタイン大公閣下の身は、我々も案じております」

 善人のような顔をして、ノイベルト公爵が話に乗ってくる。妻も同様だった。

「ええ、夫から聞いて心配しておりました。容体をお伺いしても構いませんか」

 親族だから心配、そんな口調を裏切るように目は輝いていた。現在、ノイベルト公爵の皇位継承権は八位よ。期待しても、皇妃の座がノイベルト公爵夫人に回ってくる機会はない。そんなことも理解できないだなんて。

 予定通り私は無言を貫く。ガブリエラ様はさらに俯いた。笑って肩が震えているわ。でも相手は自分達に都合よく解釈した。泣いているのだろうと。

 あのガブリエラ様よ? 泣くとは思えないわ。フォルト兄様を蹴飛ばして、さっさと生き返れと叫ぶタイプなのに。

 運ばれた前菜はエビと青菜、白身魚が中心のカルパッチョだ。希望を聞いて、侍従達が香辛料をかけた。胡椒なのだけれど、皿の上で砕くの。大粒なら続行、小粒なら中止を意味する。かなり大きな粒が落ちた。

「もっと細かくしてくれ」

 意外な要望を出したのは、ギーレン公爵だった。合図を知らないはずだけど、もしかして情報を掴んでいるの? そっと扇を動かせば、エック兄様が応じた。

「エーデルシュタイン大公は欠席の連絡がありましたよ。毒殺など、デマですね。それより、我らが姫君の帰還を祝いましょう」

 話を逸らした。そう感じたのか、ノイベルト公爵は食いついた。何とかしてフォルト兄様の情報を聞き出そうと、言葉を変えながら探りを入れる。ルーベンス公爵家は無言を貫いた。状況が掴めてきたわ。

 動いた叛逆者はノイベルト公爵、ギーレン公爵よ。ルーベンス公爵家は、これ以上の失態を避けるため静観ね。公爵令嬢がやらかした後、社交界で肩身の狭い思いをしたから。どちらにも加わらない中立を選んだ。

 こちらの味方であるライフアイゼン公爵は、ぺろりと前菜を平らげて食前酒も飲み干した。二心なし、万が一毒を盛られても従うと意思表示する。大したご老人だわ。

 年代で分けるなら、ライフアイゼン公爵は祖父に近い。叔父ウルリヒと同年代がノイベルト公爵やルーベンス公爵。代替わりして兄より年上なのがギーレン公爵だった。

 のらりくらりと話を逸らしながら、エック兄様が応対する。お父様は厳格な表情を保っているけれど、笑いを堪えているのね。時々、口元がぴくりと動いた。気持ちはわかるわ。彼らは話すたびに自白するんだもの。

 あの事件直後、緘口令が敷かれた。もちろん間諜がいるのは承知だけれど、フォルト兄様は刺されて倒れたことになっている。情報操作により、ルヴィ兄様を賊から庇った話にすり替えたのよ。そのために関わった侍女や侍従、毒見役まで離宮に入れた。

 ワインに致死量の毒なんて話、どこで仕入れてきたのかしらね。犯人しか知らない秘密を、ぺらぺら話す頭と口の軽さに感心するわ。

「お兄様のこと、そんなに気になりますの?」

 これから驚く姿を想像したら、笑い出しそう。震える声を絞り出したように振る舞い、微かに小首を傾けた。
感想 146

あなたにおすすめの小説

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。