【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
39 / 222
本編

38.最悪の連鎖 ***SIDEデーンズ国王

 リヒター帝国は邪魔だ。あの国がある限り、王国はすべて格下になる。世界を制したリヒンテンシュタット帝国から別れ、最初に国を興したのがデーンズ王国だ。我らにこそ、大陸制覇の権利がある。

 リヒター帝国の領土は、かつての大帝国の二割ほどしかなかった。正面から戦うには、デーンズ王国の位置が悪い。大きく裂けた大地のため、北側へ回り込む必要があった。凍てつく北の大地を抜けるには、短い夏を利用するしかない。その先には山脈もあった。

 攻め込んでしまえば、翌年まで戻れぬ。だが、海と北の寒さがあるから、デーンズ王国は潰されずに大きくなれた。小さな領地をいくつも潰し、統合された国だ。一つに纏めた先祖の苦労が偲ばれる。

 いまだに大陸の中央に構えるリヒター帝国と、正面から戦う道は諦めた。代わりに搦め手を思いつく。海を挟んで交流のあるアディソン王国、彼の国を利用しよう。リヒター帝国と我が国の間に位置し、ちょうど代替わりしたばかり。

 自尊心は高いが経験と能力に欠けるアディソン王を煽てて、その気にさせた。リヒター帝国の領地が手に入ると……囁きに舞い上がった愚王は、帝国の姫を奪う。婚姻という形をとり、人質にするためだ。

 可愛がられ、才気に溢れた皇妹が嫁げば、アディソン王国と戦えまい。その間に戦力を移動させ、アディソン王国を踏み台にして攻め込む予定だった。

 なのに、あの阿呆が! 何をとち狂ったのか。婚姻届を出さなかった。手違いではなく、故意に! まだ兵を動かし始めたばかりで、帝国と戦う準備はできていない。にも関わらず、帝国の姫に逃げられる始末。泣きついてきたアディソン王の書状を、腹立ち紛れに破り捨てた。

「っ! あの愚物がっ、この程度の足止めもできぬのか」

 我が国の将軍であったなら、首を刎ねているところだ。そこへ、情報が舞い込む。神殿に入った貴族家の子弟らによれば、姫は元帥に守られ帰国した。その娘は皇帝の養女になった、と。

 ブリュート王国陥落の知らせが遅れて届き、頭を掻き毟る。なぜ、このような事態になった! どうして言われた通りにできないのか。我の作戦通りに動けば、まだ姫を留めておけた。人質として盾にして、帝国の抵抗を削ぐこともできたというのに!!

 大丈夫だ、まだアディソン王国が使える。あの国にすべての責任を押し付け、撤退しよう。一度引いて、改めて攻め込む算段をすればいい。山脈と氷の大地が我が国を守る。さらにアルホフ王国が、その間を塞いでいた。海はこれから荒れる季節に入り、船も使えない。

 半年は安泰か。帝国を潰す計画は、また練り直すとしよう。

「ご報告申し上げます」

 駆け込んだ伝令は、耳を疑う情報を持ち込んだ。神殿が動く? 調査という名目で、各国の神官が選別されるだと!? くそっ、貴重な情報源が絶たれるではないか!

 アディソン王国が指示通りに動いておれば、ブリュート王国が持ちこたえていたら。こんな事態にはならなかった。腹立たしさに、テーブルに用意されたグラスを床に叩きつけた。鋭く割れた破片が、我を責めているように思えて、怒りに任せて踏みつけた。
感想 146

あなたにおすすめの小説

ベールを上げた新郎は『君じゃない』と叫んだ

ハートリオ
恋愛
結婚式で新郎に『君じゃない』と叫ばれたのはウィオラ。 スピーナ子爵家の次女。 どうやら新郎が結婚する積りだったのは姉のリリウム。 ウィオラはいつも『じゃない方』 認められない、 選ばれない… そんなウィオラは―― 中世ヨーロッパ風異世界でのお話です。 よろしくお願いします。

【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです

唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。 すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。 「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて―― 一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。 今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。

「離縁状の印が乾く前に、王太子殿下から花束が届きました」〜五年間「置物」と呼ばれた侯爵夫人、夫が青ざめるのは王家との縁が切れてからでした〜

まさき
恋愛
侯爵夫人として過ごした五年間、夫に名前を呼ばれたことが一度もなかった。 愛人を夜会に連れてきた翌朝、私は離縁状を置いて屋敷を出た。 夫は「すぐ戻る」と思っていたらしい。 でも届いたのは、王太子殿下からの白薔薇だった。 「五年、待ちすぎました。今度こそ私の隣に」 幼馴染の殿下は、いつも私を「アメリア」と呼んでくれた。 ただそれだけで、五年分の何かが、ほどけていった。 夫が全てを失うのはこれからの話。 私が本当の笑顔を取り戻すのも、これからの話。

私の弟なのに

あんど もあ
ファンタジー
パン屋の娘マリーゼの恋人は、自警団のリートさん。だけど、リートには超ブラコンの姉ミラがいる。ミラの妨害はエスカレートしてきて……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ

ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」 ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。 「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」 何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。 都合のいい女は本日で卒業。 今後は、余暇を楽しむとしましょう。 吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

ゆぷしろん
恋愛
公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。

【完結】私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。