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13章 姫様はおままごとに夢中

149. 豚さん入りお味噌汁、という名の苦行

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 対外的に肩書きが『魔王陛下のお妃候補、リリス姫』に大幅グレードアップしたお嬢様は、本日もご機嫌で玩具を並べていた。

 豪華な絨毯が敷かれた魔王の私室に、お茶碗やらミニフライパンが並んでいる。謁見をひとつ終わらせたルシファーが大急ぎで戻ってきた。翻るマントを侍従のベリアルに渡し、床の上にお座りしているリリスの前に正座する。

 大きな円形のシートが敷かれた場所は、リリス曰くの聖域おうちだった。

「ただいま、奥さん」

「おかえりなさい、あなた」

 リリスの後ろで子守り兼護衛係のヤンが、なぜか首輪につながれている。大型犬サイズまで縮んだ彼は、複雑そうな顔をしながら床に伏せた。円形のシートは家を示す設定なので、ペット扱いのヤンは円の外側で待機だ。

「きょうはお味噌汁を豚さんにしたのよ」

 料理の内容がよく分からないが、豚肉入り設定のお椀を渡される。床に正座して受け取る魔王の背に、純白の髪が流れて絨毯へ広がっていた。礼儀正しく受け取る椀の中は、どうやら侍女のアデーレが用意したと思われる紅茶が揺れる。

「いただきます」

「あなた、唐辛子忘れてますよ」

 どこで口調を覚えてきたのか、誰かの話し方を丸覚えしたリリスが無造作に手に取った小さな瓶を上で振る。白い粉が入ったが、これは何だろう……。気になるが飲まないとリリスが拗ねてしまうため、ルシファーは疑問を内側にとどめて微笑んだ。

「気の利く奥さんがいて幸せだな。ではいただきます」

 飲み始めて気付く。何か中に沈んでいないか? やたら甘い紅茶を半分ほど飲んだところで中を覗くと、茶菓子のクッキーが沈んでいた。

「お箸をつかってちょーだい。あなた」

「ありがとう、奥さん」

 沈んでいるクッキーが、お味噌汁の具の役目を与えられた豚さんらしい。事情を察したルシファーは、渡された箸でクッキーを口の中に放り込んだ。ぬるい紅茶に浸されたクッキーは柔らかく、なんとも複雑な味がする。

「美味しかったです、奥さん」

 いわゆる『おままごと遊び』なのだが、リリスは妙にリアリティを求めた。誰の影響か知らないが、細かいルールが沢山ある。そしてルールを無視されると、泣いて怒るのだ。やっとイヤイヤ期を脱してきたと思ったら、可愛らしい趣味に興じていた。

 おままごと中に互いの名を呼んではならない。このルールに従い、ルシファーはリリスを「奥さん」と呼ぶ。ヤンには「お母さん」と呼ばせるのだ。ペットなのか子供役か、ちょっと混じっている。

 リリスはルシファーを「あなた」と呼称した。素直に嬉しいため、リリスのおままごとに付き合う回数の増える魔王様である。

 次のルールは、出されたものを残さない。つまりジャムつきクッキー入り温い紅茶を、お味噌汁と言われて出されたら、お味噌汁として飲まなければならなかった。昨夜はココアに山盛りの砂糖と納豆を入れた『ビーフシチュー』を飲んだ。

 基本的に毒物は効きにくい体質なので、大抵のものは食べられる。死にはしないが、味覚障害というわけでもないため意外と苦痛だった。

 笑顔のまま、リリスの言う『豚さん入り味噌汁』を乗り切ったルシファーに次の試練が訪れる。

「きょうはヤンが悪い子でしたのよ。あなた、お仕置きしてくださいな」

 余計なことを教えたり、この口調の原因が誰なのか気になる。しかしとりあえず、目の前の『お仕置き』とやらをクリアしなくてはならない。視線を向けると、ヤンが必死に首を横に振っていた。
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