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14章 飛び散るあれこれ、料理は爆発だ!
159. 味わう用と保存用はある。眺める用は諦めるか
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完成したプリンは8つ――魔王陛下の悩みは深い。
分量がバランス悪いのは問題外だが、美しく出来た3つを睨みつける。もちろん、リリスは最上級の出来を食べるとしてだ。残るプリンの行き先が悩みの種だった。
リリス、自分、手伝ってくれたアデーレ、いつも護衛をしているヤン、側近のオカン……アスタロト。ここまでは仕方ない。彼女と仲のいいルキフェルとベルちゃん(笑)も諦めるしかないか。ベルゼに分ける必要があるか? いや、ない!
自分の中で結論を出した。なぜ1つ残さなければならないか……当然保存用である。可能なら保存用、眺める用、味わう用と3つ欲しかったが、今回は眺める用は諦めるしかなさそうだった。何しろ2つも爆発し、うち1つは何かのヒナが生まれたのだから。
「うん、これで足りるな」
指折り数えたルシファーが満足そうに頷く。リリスはまだ文字が書けないため、代理でルシファーが名前を書いたタグを用意した。ベルゼビュートの名はない。代わりに保存用札を作って、出来のいいプリンへつけておいた。
「皆に配りに行こうか」
優秀な頭は、城内に勤める面々のほぼすべての出勤スケジュールを記憶している。そのくせ肝心な部分でポカをやらかす魔王は、ベルゼビュート欠勤日を思い浮かべた。大丈夫、今日は彼女は出勤じゃない。
鼻歌でご機嫌なリリスだが、そろそろ音がズレていると教えるべきだろうか。いや、これはこれで可愛いからこのままにしよう。うん、リリスが歌うならこれが正しい。
最高権力者の溺愛による奇妙な納得から、童謡のメロディーが一部変更されそうな魔族の音楽事情だった。
「パパ、一番上手なのあげる」
すごく悩んだ末にリリスが差し出したプリンは、問題ないできばえだ。量も8分目でカラメルも均一にかかっている。ヒナ騒動でカラメル関係はアデーレが仕上げたのだが、そこは問題ないだろう。メイン部分をリリスが作ったことが重要なのだ。
「ありがとう。すごく美味しそうだ。皆に配ったら、リリスと一緒に食べたいな。今日はお庭でおやつにしようか。そうしたらヤンやアデーレも一緒だ」
「うん!」
魔王城にはルシファーもよく理解できていない決まり事がいくつかある。その中に、侍従や侍女は魔王と一緒に食卓を囲むべからず……という項目があった。そのため、庭に出ないとアデーレは一緒に食事を出来ないのだ。
いつ誰が作ったルールか知らないが、過去に何か事件があったのかも知れない。侍女が毒を盛ったとか、逆にルシファーは平気だったのに隣で食べた侍従が毒に当たったとか……ん? そう考えると心当たりがある。しかも両方ともだ。
意外と殺伐とした幼少期だったにも関わらず、『忘却』という最強の魔法を利用するルシファーは、都合の悪いことや役に立たないことから忘れていく。そして『不真面目』や『いい加減』というフィルターを経て、ほとんどの事象は脳裏から消えていた。
「パパのお膝の上で食べて、ヤンの上に寝転がるの!」
機嫌よく告げるリリスから受け取ったプリンを、まずは氷の結界で包む。続いて時を遮断する複雑な魔法陣を作って囲み、最後に衝撃や魔法から守るための障壁を作った。ほぼ完璧である。僅かな時間で考えたにしては最強の布陣だろう。
満足げにプリンをしまい、残るプリンも収納魔法に入れようとしたが……ここで問題が起きた。
「やだ、リリスが自分で持っていくんだもん」
「うーん、冷やしながら持っていく方が美味しいぞ」
なんとか説得を成功させたいルシファーとしては、ここで妥協はできない。なぜなら8つすべて収納して1つずつ出すことで、数を誤魔化してベルゼの分を保存用に確保するつもりだったから。
「氷入れたら重くなるから、な?」
そこらへんは魔法で何とでもなるだろう! と心で突っ込みをいれるアデーレとイフリートだが、魔王の黒い笑顔に何も言えずに口を噤んだ。いま余計な発言をしたら、間違いなく魔物の餌にされる未来が待っている。誰でも命は惜しかった。
分量がバランス悪いのは問題外だが、美しく出来た3つを睨みつける。もちろん、リリスは最上級の出来を食べるとしてだ。残るプリンの行き先が悩みの種だった。
リリス、自分、手伝ってくれたアデーレ、いつも護衛をしているヤン、側近のオカン……アスタロト。ここまでは仕方ない。彼女と仲のいいルキフェルとベルちゃん(笑)も諦めるしかないか。ベルゼに分ける必要があるか? いや、ない!
自分の中で結論を出した。なぜ1つ残さなければならないか……当然保存用である。可能なら保存用、眺める用、味わう用と3つ欲しかったが、今回は眺める用は諦めるしかなさそうだった。何しろ2つも爆発し、うち1つは何かのヒナが生まれたのだから。
「うん、これで足りるな」
指折り数えたルシファーが満足そうに頷く。リリスはまだ文字が書けないため、代理でルシファーが名前を書いたタグを用意した。ベルゼビュートの名はない。代わりに保存用札を作って、出来のいいプリンへつけておいた。
「皆に配りに行こうか」
優秀な頭は、城内に勤める面々のほぼすべての出勤スケジュールを記憶している。そのくせ肝心な部分でポカをやらかす魔王は、ベルゼビュート欠勤日を思い浮かべた。大丈夫、今日は彼女は出勤じゃない。
鼻歌でご機嫌なリリスだが、そろそろ音がズレていると教えるべきだろうか。いや、これはこれで可愛いからこのままにしよう。うん、リリスが歌うならこれが正しい。
最高権力者の溺愛による奇妙な納得から、童謡のメロディーが一部変更されそうな魔族の音楽事情だった。
「パパ、一番上手なのあげる」
すごく悩んだ末にリリスが差し出したプリンは、問題ないできばえだ。量も8分目でカラメルも均一にかかっている。ヒナ騒動でカラメル関係はアデーレが仕上げたのだが、そこは問題ないだろう。メイン部分をリリスが作ったことが重要なのだ。
「ありがとう。すごく美味しそうだ。皆に配ったら、リリスと一緒に食べたいな。今日はお庭でおやつにしようか。そうしたらヤンやアデーレも一緒だ」
「うん!」
魔王城にはルシファーもよく理解できていない決まり事がいくつかある。その中に、侍従や侍女は魔王と一緒に食卓を囲むべからず……という項目があった。そのため、庭に出ないとアデーレは一緒に食事を出来ないのだ。
いつ誰が作ったルールか知らないが、過去に何か事件があったのかも知れない。侍女が毒を盛ったとか、逆にルシファーは平気だったのに隣で食べた侍従が毒に当たったとか……ん? そう考えると心当たりがある。しかも両方ともだ。
意外と殺伐とした幼少期だったにも関わらず、『忘却』という最強の魔法を利用するルシファーは、都合の悪いことや役に立たないことから忘れていく。そして『不真面目』や『いい加減』というフィルターを経て、ほとんどの事象は脳裏から消えていた。
「パパのお膝の上で食べて、ヤンの上に寝転がるの!」
機嫌よく告げるリリスから受け取ったプリンを、まずは氷の結界で包む。続いて時を遮断する複雑な魔法陣を作って囲み、最後に衝撃や魔法から守るための障壁を作った。ほぼ完璧である。僅かな時間で考えたにしては最強の布陣だろう。
満足げにプリンをしまい、残るプリンも収納魔法に入れようとしたが……ここで問題が起きた。
「やだ、リリスが自分で持っていくんだもん」
「うーん、冷やしながら持っていく方が美味しいぞ」
なんとか説得を成功させたいルシファーとしては、ここで妥協はできない。なぜなら8つすべて収納して1つずつ出すことで、数を誤魔化してベルゼの分を保存用に確保するつもりだったから。
「氷入れたら重くなるから、な?」
そこらへんは魔法で何とでもなるだろう! と心で突っ込みをいれるアデーレとイフリートだが、魔王の黒い笑顔に何も言えずに口を噤んだ。いま余計な発言をしたら、間違いなく魔物の餌にされる未来が待っている。誰でも命は惜しかった。
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