【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!

文字の大きさ
444 / 1,397
33章 人族の勢力バランスなんて知らん

441. 献上される獲物の品評会

しおりを挟む
※残酷表現があります。
***************************************







 ルキフェルが城門で魔法陣の爆発に悩んでいる頃、アスタロトは王族の指を切り落としていた。

「ぐぎゃぁあああ!」

「静かにしてください。まだ2本目ですよ」

 笑顔のまま、長くした爪で傷口を抉る。太った国王の膝の上にぽとりと落ちた指は、青紫に変色していた。指を折ってから切り落とすため、落ちた指は内出血で酷い色だ。それを拾って見せつけるように燃やした。

 怯える王太子と宰相を前に、さらに国王の指へ長い爪を近づける。次はどの指にしようか。あと8本も残っているし、足にも指はある。手足や胴体も含めたら十分楽しめるだろう。

「や、めろ! 何が聞きたいっ!?」

 切り刻まれる親の姿に、次は自分の番だと悟った王太子の保身の声に、アスタロトは笑顔のまま首をかしげた。さらりと金髪が流れる。見た目だけなら極上なのだが、消えない笑みと返り血塗れの指先が彼の残虐性を強調していた。

「聞きたいこと、ですか? 聖女は回収しましたし、異世界からの召喚方法も、召喚魔法陣の場所も、すでに配下の者が探り当てました。あなた方に価値はありません」

 情報はぜんぶ手元に揃っていると明かし、再び国王に向き直った。事実、参加した吸血種族とベルゼビュートの精霊が召喚魔法陣を発見している。双方とも隠された物を探すのが得意な種族だ。

 相変わらず窓のない地下室を選ぶあたり、学習能力のない人族に呆れてもいた。毎回同じような場所に隠していたら、隠し場所にならない。餌を隠す魔物ですらもっと賢いだろう。

「我が主に逆らう愚か者を殺すときが、一番楽しいですね。出来るだけ長く、この感覚を味わいたいと思っていますよ」

 ルキフェルには情報を得るためと説明したが、その直後にもたらされた同族からの報告で彼らの価値はゼロになった。もう面倒な手順を経ることなく、自由に処分して構わない。もちろん生かして帰す選択肢はなかった。

「手足を落とすと、あなた方はすぐ死ぬでしょう? ですから望み通り、多少なりと長生きさせてさしあげます」

 満面の笑みでアスタロトが魔法陣を床に刻む。

 外へ逃がさないための檻ではない。治癒力を上げる魔法陣の問題は、治癒を目的としていないことにあった。長く遊ぶために対象をもの、つまり当事者にしたらのろいに近い魔法陣なのだ。

 大量に出血しても補われ、傷は次々と治癒していく。消えた痛みをまた一から味わうための魔法陣は、ベールが考案してアスタロトが改良した傑作品だった。

「我が眷属とも遊んでいただきましょう」

 コウモリが数匹舞い降りて、ふわりと人型を取る。吸血種特有の鮮やかな赤いピアスを飾った彼と彼女らは、獲物を前に笑みを浮かべた。







「吐き気が……うっ」

 魔獣が得意げに持ち帰った獲物が、貴族らしき人間だった。勇者アベルは呻いて口元を押さえる。聖女は少し前に気絶していた。ある意味、もっとも有効な逃げだ。

 フェンリルを頂点とする魔獣達は、敬愛する魔王陛下や魔王妃に獲物を献上する習わしがあった。立派な獲物を献上することで、魔獣内での地位が変わる。そのため返り血を浴びながら追いかけまわした獲物を次々と並べた。石畳は狩られた大量の人間が転がり、流れた血が地を赤く染める。

 何度も得物を献上されたリリスは慣れており、魔獣達の獲物をぐるりと見回した。

「パパ、あの子! 一番立派なのもってきた」

 リリスが指さしたのは黒い毛並みの魔熊だった。やや大きめの身体を誇るように立ち上がって吠える。得意げな様子に目を細め、ルシファーは魔熊に近づいた。でっぷりと太った獲物は大量の宝飾品を纏っており、確かに見栄えがする。

「よくやった。我が妃がそなたの獲物を選んだゆえ、此度の献上品はこれを一番とする」

 儀式に似たやり取りの後、選ばれなかった獲物は彼らの餌になる。ちなみに選ばれた獲物も、ルシファー達は食べないので下賜かしする名目で魔熊に与えられるのだ。宝飾品類は魔獣にとって価値がないので、纏めて回収された。

「解散」

 セーレの号令で魔獣は再び街に散っていく。美味しくはないが、人族は魔族の食料と認識されていた。そのため腹が満ちるまで狩るのだろう。生存競争を止める気がないルシファーは、血塗れの宝飾品を魔王城の倉庫へ転送する。

「……アスタロトとベールが来たのか」

 魔力を感知して眉をひそめた。突然現れたが、珍しくこちらに顔を見せずに遊んでいるらしい。呼びつける必要もないので、ルシファーは「まあいいか」と呟いた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...