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91章 天才恋愛作家現る?
1244. 準備の合間の息抜き
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賞品は記念品となり、最終的にコインという個性の欠片もない品物に決まった。記念用のコインだが、実際に金として利用も可能で、実用性はある。このアイディアを聞くなり、イザヤとアンナは顔を見合わせた。
「それって商品券よね?」
「記念硬貨の方が近いか」
日本で10万円の記念金貨が発行された記憶を辿るイザヤに、アンナも頷いた。今回は人数も多いので、高額にしなかったという魔王の言葉に頷く。人数が数千人になり、参加賞を用意してもらえただけ有難い。
「イザヤは功労者として特別賞があるらしいぞ。何でもエルフの作った酒やドワーフが掘り当てた宝石、あとは何だったか」
「大公それぞれに何かくれるんじゃなかった?」
「まあいい、ちなみにオレとリリスからは育児用品をセットにしておいた」
リリスも曖昧に話を聞いたらしく、漠然としている。貰えるものが多いのは構わないと、アンナは笑顔で頷いた。自宅である屋敷に直接転送してくれると言われ、居間より子供部屋にする予定の空き部屋の方がいいかと検討する。
「新作は間に合いそうか?」
いろいろと呼び出してしまったため、執筆の時間を邪魔したのではないかと気遣う魔王へ、イザヤは穏やかに返した。
「もう書き上げていますし、印刷工程に入る頃です。十分間に合います」
驚いた顔のルシファーの横で、リリスが手を叩いて喜んだ。
「新作、予約してるのよ」
「ご購入ありがとうございます」
大公女達と一緒に読む予定らしい。それぞれに購入しないのか尋ねたところ、素晴らしい小説ばかりだからたくさんの人に読んでもらえるよう、1冊の予約に留めたとか。増版されてから手元に揃えるという。その気遣いにルシファーは大いに感心した。
欲しいからと何でも購入できる立場のリリスが、人を気遣って我慢することを覚えた。うるうると目を潤ませて感動するルシファーの横で、大公女達は複雑そうな顔だった。
実際のところ、リリスが購入して大公女達に貸す約束なのだ。本は高額な嗜好品で、なかなか手元に揃える資金がない。レライエも婚約者アムドゥスキアスに強請れば入手できるが、そこは我慢した。まだ婚約者なのに、未来の結納金を先食いするのはプライドが許さない。
久しぶりの温室でのお茶会は日本人を招いたが、アベルは仕事で参加を断念した。連れてきた双子はおくるみごとヤンの毛皮に埋もれている。狼であるフェンリルは多産系なので、我が子を含め群れでの子育て経験が豊富だった。泣きそうになると揺すっていたが、今はじっと温めている。
「よく寝ていますね」
アンナはほっとした様子だが、表情に少し疲れが見える。保育園はまだ早いが、双子なので片方ずつ預かってもらえるよう交渉するべきか。前例を作れば、今後別の種族や母親の手助けになるな。あれこれと考えついた策をメモするルシファーの横で、リリスはアデーレに何かをお願いした。
温室の薔薇が咲き誇る中、アンナは安心したのと疲れからうとうとと舟を漕ぐ。イザヤが肩を貸して支える姿に、大公女達はうっとり両手を合わせた。先日の恋愛小説の最後で似たようなシーンがあったのだ。作家本人による実演とくれば、妄想も捗る一方だ。
時々ルーサルカかルーシアがお茶を足し、シトリーが菓子を追加する。穏やかな声でのんびりした会話が行われ、外の日差しが傾いてきた。
「そろそろ起こさなくては」
帰る準備をとイザヤが動きかけたのを、ルシファーが留める。大人しく従ったイザヤに「転移で送っていくから寝かせてやれ」と笑った。子育ての支援が足りなくてすまないと気遣うルシファー。リリスはアデーレから受け取った紙袋を差し出す。
「これ、数日分のおかずが入ってるの。パンとサラダだけ足して食べてね」
気が利くと喜ぶルシファーの膝に座り直し、リリスは頬を緩めた。
「それって商品券よね?」
「記念硬貨の方が近いか」
日本で10万円の記念金貨が発行された記憶を辿るイザヤに、アンナも頷いた。今回は人数も多いので、高額にしなかったという魔王の言葉に頷く。人数が数千人になり、参加賞を用意してもらえただけ有難い。
「イザヤは功労者として特別賞があるらしいぞ。何でもエルフの作った酒やドワーフが掘り当てた宝石、あとは何だったか」
「大公それぞれに何かくれるんじゃなかった?」
「まあいい、ちなみにオレとリリスからは育児用品をセットにしておいた」
リリスも曖昧に話を聞いたらしく、漠然としている。貰えるものが多いのは構わないと、アンナは笑顔で頷いた。自宅である屋敷に直接転送してくれると言われ、居間より子供部屋にする予定の空き部屋の方がいいかと検討する。
「新作は間に合いそうか?」
いろいろと呼び出してしまったため、執筆の時間を邪魔したのではないかと気遣う魔王へ、イザヤは穏やかに返した。
「もう書き上げていますし、印刷工程に入る頃です。十分間に合います」
驚いた顔のルシファーの横で、リリスが手を叩いて喜んだ。
「新作、予約してるのよ」
「ご購入ありがとうございます」
大公女達と一緒に読む予定らしい。それぞれに購入しないのか尋ねたところ、素晴らしい小説ばかりだからたくさんの人に読んでもらえるよう、1冊の予約に留めたとか。増版されてから手元に揃えるという。その気遣いにルシファーは大いに感心した。
欲しいからと何でも購入できる立場のリリスが、人を気遣って我慢することを覚えた。うるうると目を潤ませて感動するルシファーの横で、大公女達は複雑そうな顔だった。
実際のところ、リリスが購入して大公女達に貸す約束なのだ。本は高額な嗜好品で、なかなか手元に揃える資金がない。レライエも婚約者アムドゥスキアスに強請れば入手できるが、そこは我慢した。まだ婚約者なのに、未来の結納金を先食いするのはプライドが許さない。
久しぶりの温室でのお茶会は日本人を招いたが、アベルは仕事で参加を断念した。連れてきた双子はおくるみごとヤンの毛皮に埋もれている。狼であるフェンリルは多産系なので、我が子を含め群れでの子育て経験が豊富だった。泣きそうになると揺すっていたが、今はじっと温めている。
「よく寝ていますね」
アンナはほっとした様子だが、表情に少し疲れが見える。保育園はまだ早いが、双子なので片方ずつ預かってもらえるよう交渉するべきか。前例を作れば、今後別の種族や母親の手助けになるな。あれこれと考えついた策をメモするルシファーの横で、リリスはアデーレに何かをお願いした。
温室の薔薇が咲き誇る中、アンナは安心したのと疲れからうとうとと舟を漕ぐ。イザヤが肩を貸して支える姿に、大公女達はうっとり両手を合わせた。先日の恋愛小説の最後で似たようなシーンがあったのだ。作家本人による実演とくれば、妄想も捗る一方だ。
時々ルーサルカかルーシアがお茶を足し、シトリーが菓子を追加する。穏やかな声でのんびりした会話が行われ、外の日差しが傾いてきた。
「そろそろ起こさなくては」
帰る準備をとイザヤが動きかけたのを、ルシファーが留める。大人しく従ったイザヤに「転移で送っていくから寝かせてやれ」と笑った。子育ての支援が足りなくてすまないと気遣うルシファー。リリスはアデーレから受け取った紙袋を差し出す。
「これ、数日分のおかずが入ってるの。パンとサラダだけ足して食べてね」
気が利くと喜ぶルシファーの膝に座り直し、リリスは頬を緩めた。
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