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98章 とんとん拍子に準備は進む
1340. 結婚式前の思わぬ経済効果
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順調に準備は進んでいく。必要とされる決め事や準備する物リストは、すでにベールが作っていた。この点で、さすがはベールと褒め称えるしかない。
ずっと独身を通してきた魔王の結婚式、晴れの舞台を見にいくとなれば……民も大いに盛り上がった。百年分単位の貯蓄が様々な品物に消費される。空前絶後の大消費となった。
「これはすごいな」
「意外と貯蓄してたわね」
報告書のグラフは、金額の桁を切り落として表示された。それほどの金銭が動いたことに感心するルシファーに、報告書をまとめたベルゼビュートが肩を竦める。数字となれば、休暇を切り上げたベルゼビュートの出番だ。計算して統計を出した報告書に署名をもらいながら、彼女はひとつの金額を指差した。
「ここだけ突出してるの」
剣を扱うために短く切り揃えた爪が示したのは、一見すると無関係な本の売上だった。
「本? また小説でも出たのか」
「あら。ご存じでしたの? トリィの新刊が、まるで陛下とリリス様のようだと人気なんですわ」
話しながら、ひょいっと空中から本を取り出す。表紙は重厚な紺色で、銀箔の絵と文字が並んでいた。イラストはイメージなのか、人影のみだ。それがまたルシファーやリリスを思い起こさせる。翼を背に負う髪の長い長身の青年に、ふんわりしたドレスで髪をツインテールにした少女。手を取り合い愛を誓うシーンのようだ。
「よく描けている」
表紙に凝ったのかと手で撫でるルシファーだが、ふと気づいて眉を寄せた。そういえば、10日程前にリリスが夢中になって本を読んでいた。カバーがしてあり表紙は見えなかったが、もしかしたら? 熱烈なファンであるリリスが新刊を見逃すはずはない。
「なるほど。リリスが徹夜して読んだのは、これか」
何度もダメだと叱ったのに、結局夜通し夢中になって読み耽った。翌日どうしても起きていられなくて、ダンスレッスンを休んで昼寝をさせたのだ。あれはこの小説が原因だったらしい。
苦笑いしたルシファーへ、ベルゼビュートが本を差し出した。
「これ、差し上げますわ。読んでみてくださいませ」
「ありがとう、目を通そう」
「それで本への消費額が跳ね上がり、その後で今度は服や装飾品へ流れました。ここら辺がそうですわね。あとは意外なものが売れています」
ぺらりと報告書をめくり、ベルゼビュートが文字の上に指を滑らせる。ぴたりと止まったのは、金額としては突出していない。他の消費が上がったので目立ちにくいが、普段購入する額とは桁違いだった。
「……化粧紙?」
「プレゼントでも流行ったんでしょうか」
これはどこに使われたのか。民が購入する服や装飾品を包むため、店舗で使ったのだろうと結論を出した。なぜか外食が増えて、屋台の売上が上がったりしているが。この辺りは特筆すべき部分ではない。今後も金額の推移をチェックするよう指示を出し、ルシファーは一息ついた。
お茶菓子を作りに厨房に入り浸るリリスが戻り、にこにこと提案する。
「ルカ達と一緒にたくさん作って、お祝いのお菓子に使えないかしら」
「……ベールと相談しようか」
いいアイディアだと言いかけて、予定変更にベールが怒る案件ではないかと気づいた。危険察知能力が改善したルシファーは、問題を部下に丸投げする。卑怯な大人の思惑を知らず、リリスは機嫌良くお菓子を机に並べた。
「お茶にしましょうよ」
「そうだな」
粗方片付けた書類を押しやり、ルシファーは笑顔で頷いた。なお、この後ベールにこってり叱られたのは、監督不行き届きのルシファーだったとか。叱られた甲斐はあった。リリス達のお菓子を撒くため、量産されることになる。忙しさはさらに増した。
ずっと独身を通してきた魔王の結婚式、晴れの舞台を見にいくとなれば……民も大いに盛り上がった。百年分単位の貯蓄が様々な品物に消費される。空前絶後の大消費となった。
「これはすごいな」
「意外と貯蓄してたわね」
報告書のグラフは、金額の桁を切り落として表示された。それほどの金銭が動いたことに感心するルシファーに、報告書をまとめたベルゼビュートが肩を竦める。数字となれば、休暇を切り上げたベルゼビュートの出番だ。計算して統計を出した報告書に署名をもらいながら、彼女はひとつの金額を指差した。
「ここだけ突出してるの」
剣を扱うために短く切り揃えた爪が示したのは、一見すると無関係な本の売上だった。
「本? また小説でも出たのか」
「あら。ご存じでしたの? トリィの新刊が、まるで陛下とリリス様のようだと人気なんですわ」
話しながら、ひょいっと空中から本を取り出す。表紙は重厚な紺色で、銀箔の絵と文字が並んでいた。イラストはイメージなのか、人影のみだ。それがまたルシファーやリリスを思い起こさせる。翼を背に負う髪の長い長身の青年に、ふんわりしたドレスで髪をツインテールにした少女。手を取り合い愛を誓うシーンのようだ。
「よく描けている」
表紙に凝ったのかと手で撫でるルシファーだが、ふと気づいて眉を寄せた。そういえば、10日程前にリリスが夢中になって本を読んでいた。カバーがしてあり表紙は見えなかったが、もしかしたら? 熱烈なファンであるリリスが新刊を見逃すはずはない。
「なるほど。リリスが徹夜して読んだのは、これか」
何度もダメだと叱ったのに、結局夜通し夢中になって読み耽った。翌日どうしても起きていられなくて、ダンスレッスンを休んで昼寝をさせたのだ。あれはこの小説が原因だったらしい。
苦笑いしたルシファーへ、ベルゼビュートが本を差し出した。
「これ、差し上げますわ。読んでみてくださいませ」
「ありがとう、目を通そう」
「それで本への消費額が跳ね上がり、その後で今度は服や装飾品へ流れました。ここら辺がそうですわね。あとは意外なものが売れています」
ぺらりと報告書をめくり、ベルゼビュートが文字の上に指を滑らせる。ぴたりと止まったのは、金額としては突出していない。他の消費が上がったので目立ちにくいが、普段購入する額とは桁違いだった。
「……化粧紙?」
「プレゼントでも流行ったんでしょうか」
これはどこに使われたのか。民が購入する服や装飾品を包むため、店舗で使ったのだろうと結論を出した。なぜか外食が増えて、屋台の売上が上がったりしているが。この辺りは特筆すべき部分ではない。今後も金額の推移をチェックするよう指示を出し、ルシファーは一息ついた。
お茶菓子を作りに厨房に入り浸るリリスが戻り、にこにこと提案する。
「ルカ達と一緒にたくさん作って、お祝いのお菓子に使えないかしら」
「……ベールと相談しようか」
いいアイディアだと言いかけて、予定変更にベールが怒る案件ではないかと気づいた。危険察知能力が改善したルシファーは、問題を部下に丸投げする。卑怯な大人の思惑を知らず、リリスは機嫌良くお菓子を机に並べた。
「お茶にしましょうよ」
「そうだな」
粗方片付けた書類を押しやり、ルシファーは笑顔で頷いた。なお、この後ベールにこってり叱られたのは、監督不行き届きのルシファーだったとか。叱られた甲斐はあった。リリス達のお菓子を撒くため、量産されることになる。忙しさはさらに増した。
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