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54.人は表と裏があるのよね
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木製の手彫りアクセサリーと、宝石付きのジュエリー。同じお店に並べたら、お客さんはジュエリーを欲しがる。でもね、宝石を買える人は少ない。
ならばとアクセサリーに向かい合っても、隣と見比べてしまうわ。もし同じ店でなければ、気にならないと思うけれど。
「そういうものですか」
「ええ、だから騙されたと思って小さくして、その大きさに見合う値段で売るの。一口サイズでいいのよ」
飴も大きな瓶に入った売り方じゃなくて、一つずつ買えるようにしたら欲しい人が現れるわ。半信半疑で首を傾げるものの、私の言葉を信じるしかない。というか、断れないわよね。
店主は崩れないよう小さく切り分け、それを個別包装した。慣れた手つきでクロエ達が手伝い、店先に並べる。それから扉を開けたままにして呼び込みをしてみた。
農業の手伝いをした時に、野菜売りをしたの。あの経験が生きた。なんでも経験しておいて損はないわね。呼び声に釣られて数人が近づき、値段を二度も三度も確認してお金を取り出す。笑顔で販売して、売り上げを瓶へ入れた。
一人が買うと、次々に購入者が現れる。小さな子どももお金を握り締めて、買いに来た。いつも頑張るお母さんにあげるらしい。その話を聞きながら、微笑んで少し大きめの菓子を渡した。
「美味しかったらまた買いに来てね」
「うん!」
男の子は元気よく返事をして、手を振りながら帰っていく。その姿を見ていた店主が、やれやれと頭を掻いた。それから大声で呼び込みを始める。
「まさか、貴族のお嬢様から商いを教わるとは思いませんでした」
苦笑いしながら、手早くお菓子を切り分けていく。大きなケーキを丸ごと買える平民は滅多にいない。でも、それが八等分されていたら? 値段が相応に下がっていたら。家族のために買う人も出てくるわ。
最初は物珍しさと、綺麗な見た目に釣られて購入し、味に満足すれば特別な日のご馳走になるの。ふふっと笑って、私も売り上げに貢献した。美しいお菓子はあっという間に売り切れ、素朴な焼き菓子も一緒に売れた。
「なんですかね、こっちも売れてしまいました」
驚く店主に、私は自分が知る体験を話した。高価なお菓子は毎日食べないわ。私だって太ることを気にして、普段はスコーンのジャムを減らすのよ。でもお茶会の時は、気にしてないフリでたっぷり塗るの。
人ってそういう両面を持っている。だから地味な焼き菓子だけ買いに、豪華なお店に入るのは辛い。でも豪華なお菓子を一つ手にとって、ついでのフリでいつものお菓子に手を伸ばした。
「両方並べていいの。でも、豪華なお菓子は小分けで売れるよう、手間をかけたらいいわ」
「ありがとうございます。ご令嬢様」
後ろで手伝っていたクロエが、ぼそっと口を挟んだ。
「隣国の姫様ですわ」
「え?」
「ちょっと! 言わなくていいから」
止めた時には遅くて、姫様?! と絶叫されていた。周囲のお客さんがさっと引くし、もう!! 街歩きがしづらくなるわ。
ならばとアクセサリーに向かい合っても、隣と見比べてしまうわ。もし同じ店でなければ、気にならないと思うけれど。
「そういうものですか」
「ええ、だから騙されたと思って小さくして、その大きさに見合う値段で売るの。一口サイズでいいのよ」
飴も大きな瓶に入った売り方じゃなくて、一つずつ買えるようにしたら欲しい人が現れるわ。半信半疑で首を傾げるものの、私の言葉を信じるしかない。というか、断れないわよね。
店主は崩れないよう小さく切り分け、それを個別包装した。慣れた手つきでクロエ達が手伝い、店先に並べる。それから扉を開けたままにして呼び込みをしてみた。
農業の手伝いをした時に、野菜売りをしたの。あの経験が生きた。なんでも経験しておいて損はないわね。呼び声に釣られて数人が近づき、値段を二度も三度も確認してお金を取り出す。笑顔で販売して、売り上げを瓶へ入れた。
一人が買うと、次々に購入者が現れる。小さな子どももお金を握り締めて、買いに来た。いつも頑張るお母さんにあげるらしい。その話を聞きながら、微笑んで少し大きめの菓子を渡した。
「美味しかったらまた買いに来てね」
「うん!」
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「まさか、貴族のお嬢様から商いを教わるとは思いませんでした」
苦笑いしながら、手早くお菓子を切り分けていく。大きなケーキを丸ごと買える平民は滅多にいない。でも、それが八等分されていたら? 値段が相応に下がっていたら。家族のために買う人も出てくるわ。
最初は物珍しさと、綺麗な見た目に釣られて購入し、味に満足すれば特別な日のご馳走になるの。ふふっと笑って、私も売り上げに貢献した。美しいお菓子はあっという間に売り切れ、素朴な焼き菓子も一緒に売れた。
「なんですかね、こっちも売れてしまいました」
驚く店主に、私は自分が知る体験を話した。高価なお菓子は毎日食べないわ。私だって太ることを気にして、普段はスコーンのジャムを減らすのよ。でもお茶会の時は、気にしてないフリでたっぷり塗るの。
人ってそういう両面を持っている。だから地味な焼き菓子だけ買いに、豪華なお店に入るのは辛い。でも豪華なお菓子を一つ手にとって、ついでのフリでいつものお菓子に手を伸ばした。
「両方並べていいの。でも、豪華なお菓子は小分けで売れるよう、手間をかけたらいいわ」
「ありがとうございます。ご令嬢様」
後ろで手伝っていたクロエが、ぼそっと口を挟んだ。
「隣国の姫様ですわ」
「え?」
「ちょっと! 言わなくていいから」
止めた時には遅くて、姫様?! と絶叫されていた。周囲のお客さんがさっと引くし、もう!! 街歩きがしづらくなるわ。
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