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87.忙しい前日準備と肌磨き
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お兄様の到着は、きちんと玄関ホールでお迎えできた。というのも、一日に三回も先触れの使者が来たの。街に入ったと知らせる騎士の言葉に、お茶の準備をクロエに頼んだ。結婚式前日に到着するなんて、ギリギリね。
公爵令嬢と結婚したお兄様は、妻子を置いて参列を決めた。出産したばかりなので、長旅は無理だと私も思う。オデットお義姉様が残念そうにしていた話に、笑顔で相槌を打った。言葉の端端に、お義姉様への愛が滲んでいるわ。
お二人の結婚式は絵のようで、私の憧れでもあった。綺麗に一礼して挨拶を述べる。頷いて受けたお兄様は、こうしてみると立派な王子様だった。次期国王として振る舞う姿は、大人っぽく感じる。
「ありがとう、アン。フェルナン王弟殿下はどちらかな?」
ご挨拶をしないと。周囲を見回すお兄様を、まずは客間へ誘導した。隣の客間に国王ご夫妻がお待ちなの。そう伝えたら、理解してくれた。そうよ、エル様は陛下とご一緒している。
「遠かったでしょう。お疲れになったのでは? ディオンお兄様」
公式の場ではないので、いつもと同じ呼び名で話しかける。
「いや。気楽な旅だったよ。盗賊もなくて治安もいい」
途中で轍に嵌った荷馬車を助けた話をしながら、お兄様はお茶で一息ついた。お父様達の近情、生まれた未来の王太子殿下の話を楽しむ。話が一段落したのを見計らったように、ノックの音がした。
「どうぞ」
入室を促しながら、お兄様は立ち上がって裾を正す。私も隣に並んで、スカートを少し摘んだ。入室された国王夫妻とエル様へ、足を引いて一礼する。私はまだアルドワンの王女なので、跪礼は相応しくなかった。今できる最高礼を披露する。
「楽にしてくれないか」
畏まらなくていいと許しをもらい、私とお兄様は並んで腰掛けた。向かいにエル様と王妃殿下、一人掛けの椅子に陛下が着座する。自己紹介、軽い世間話を経て、政のお話に入るところで私は立ち上がった。
「準備がありますので、失礼致します」
まだ私が聞いていいお話じゃないわ。そう判断してクロエと一緒に自室へ戻った。準備があるというのは、嘘ではない。お客様のお名前を確認し、足りないものはないか報告を受けた。
執事の役目でもあるけれど、私は未来の女主人なので報告は入ってくる。ずっと一緒に暮らしていたんだもの。そこに気兼ねはなかった。足りないカトラリーを調達する手筈を整え、宿から届いたお客様の到着具合に目を通す。
「予定通りね」
「あとは姫様の肌を磨くのみでございます」
「え? まだ磨くの?」
もう一週間もかけて磨いてきたじゃない。これ以上は皮膚がなくなっちゃうわ。そう訴えるも、セリアやデジレは首を横に振る。お風呂の準備をするコレットの元へ、案内された。あっという間に脱がされ、丁寧にもみほぐされる。
血行が良くなった肌がピンクに染まり、香油を纏って滑らかになる。手触りのいい肌を作り上げたら、今度は髪の手入れだった。顔が小さくなると人気のマッサージは、ちょっと痛い。綺麗になるためと我慢し、ようやく解放された時には、疲れ切っていた。
「姫様、晩餐の支度をいたしましょう」
「え、ええ」
正直なところ、明日のためにもう眠りたい。降りてくる目蓋と戦いながら化粧をして、お兄様や明日家族になる国王夫妻と食卓を囲んだ。
公爵令嬢と結婚したお兄様は、妻子を置いて参列を決めた。出産したばかりなので、長旅は無理だと私も思う。オデットお義姉様が残念そうにしていた話に、笑顔で相槌を打った。言葉の端端に、お義姉様への愛が滲んでいるわ。
お二人の結婚式は絵のようで、私の憧れでもあった。綺麗に一礼して挨拶を述べる。頷いて受けたお兄様は、こうしてみると立派な王子様だった。次期国王として振る舞う姿は、大人っぽく感じる。
「ありがとう、アン。フェルナン王弟殿下はどちらかな?」
ご挨拶をしないと。周囲を見回すお兄様を、まずは客間へ誘導した。隣の客間に国王ご夫妻がお待ちなの。そう伝えたら、理解してくれた。そうよ、エル様は陛下とご一緒している。
「遠かったでしょう。お疲れになったのでは? ディオンお兄様」
公式の場ではないので、いつもと同じ呼び名で話しかける。
「いや。気楽な旅だったよ。盗賊もなくて治安もいい」
途中で轍に嵌った荷馬車を助けた話をしながら、お兄様はお茶で一息ついた。お父様達の近情、生まれた未来の王太子殿下の話を楽しむ。話が一段落したのを見計らったように、ノックの音がした。
「どうぞ」
入室を促しながら、お兄様は立ち上がって裾を正す。私も隣に並んで、スカートを少し摘んだ。入室された国王夫妻とエル様へ、足を引いて一礼する。私はまだアルドワンの王女なので、跪礼は相応しくなかった。今できる最高礼を披露する。
「楽にしてくれないか」
畏まらなくていいと許しをもらい、私とお兄様は並んで腰掛けた。向かいにエル様と王妃殿下、一人掛けの椅子に陛下が着座する。自己紹介、軽い世間話を経て、政のお話に入るところで私は立ち上がった。
「準備がありますので、失礼致します」
まだ私が聞いていいお話じゃないわ。そう判断してクロエと一緒に自室へ戻った。準備があるというのは、嘘ではない。お客様のお名前を確認し、足りないものはないか報告を受けた。
執事の役目でもあるけれど、私は未来の女主人なので報告は入ってくる。ずっと一緒に暮らしていたんだもの。そこに気兼ねはなかった。足りないカトラリーを調達する手筈を整え、宿から届いたお客様の到着具合に目を通す。
「予定通りね」
「あとは姫様の肌を磨くのみでございます」
「え? まだ磨くの?」
もう一週間もかけて磨いてきたじゃない。これ以上は皮膚がなくなっちゃうわ。そう訴えるも、セリアやデジレは首を横に振る。お風呂の準備をするコレットの元へ、案内された。あっという間に脱がされ、丁寧にもみほぐされる。
血行が良くなった肌がピンクに染まり、香油を纏って滑らかになる。手触りのいい肌を作り上げたら、今度は髪の手入れだった。顔が小さくなると人気のマッサージは、ちょっと痛い。綺麗になるためと我慢し、ようやく解放された時には、疲れ切っていた。
「姫様、晩餐の支度をいたしましょう」
「え、ええ」
正直なところ、明日のためにもう眠りたい。降りてくる目蓋と戦いながら化粧をして、お兄様や明日家族になる国王夫妻と食卓を囲んだ。
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