【完結】神狐の巫女姫☆妖奇譚 ~封印された妖を逃がした陰陽の巫女姫、追いかけた隣大陸で仮面王子に恋しました~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
3 / 159

第3話 あ〜あ、逃げられちゃった

しおりを挟む
 ぶわっと生き物のように水が空中に盛り上がり、表面張力の限界を超えて縁から溢れ出た。追いかけてくる水から必死で逃げる。

 足は速い方だけど、今は素足だ。下生えの草に傷付けられた肌が、ちりちりと抗議の痛みを伝えてきた。何かが刺さったかも。

「いたっ」

『早よ逃げろ、われるぞ』

「いったい、何が……」

 来るってのよ。そうぼやいて振り返ったアイリーンの顔が青ざめた。

 まずい、あれはちょっと勝てない。いやフル装備ならやれるかもしれないが、今は勝てる気がしなかった。ドレスのフリルの影に隠したお札を全部撒いても、絶対にやられる。手数てかずが足りない。

 無言でぐりんと顔を前に向け、全力で走った。足の裏にまた何かが刺さって痛いし、血も出てるけどそんなこと嘆いてる場合じゃないわ。痛いのは生きてる証拠よ。アイリーンは大声で叫んだ。

「何あれぇ!!」

『封印されてた禍狗まがいぬだよ。早くっ! 喰われてしまう』

 ようやく口調の戻った小狐が肩に飛び乗る。応援してくれるのは助かるわ。契約した小狐の力を借りられるのは、接しているときだけ。ココを乗せたアイリーンは禁足地きんそくちの端まで駆けた。そこで振り返ると、水は大きな犬となって追ってくる。

「どうしたらいい?」

『まだ出られないはず! 封じ直す時間も準備もないし、一時的に弾いて飛ばすしか……ひっ』

 ココの声が引き攣った。巨大な犬は流れ出た水を利用してさらに体積を増やしていく。

 押しつぶされてしまう。そう感じた瞬間、アイリーンは覚悟を決めた。この化け物を禁足地の外へ出せないわ。お兄様もお姉様も、侍女達も傷付けられてしまう。お父様の御世でこんな失態、末代までの恥よ。そもそも、私の所為だし……ね! 覚悟が決まれば、後はやり遂げるだけだ。

「やるしかないわ! ココ!」

 凛としたはらえの声が響いた。

「我らが偉大なる神々そせんの名を借り、る者に知らしめせ。滅、禁、破……すべての言霊ことだまを束ねて我が力と成せ――呪われしけがれは巫女へ届かず」

 キン、と耳が痛くなるほど強い霊力が周囲を満たした。呆れ顔のココが仕方ないねと呟く声に頷き、私は己の力を解放する。

「ふるえ、ゆらゆらとふるへ」

 今は手元に封じ札もない。巫女装束でもなかった。祓いとしての能力はあっても、半分以上は使えないも同然。それでも大切な人達を守りたいと願う気持ちだけで、九字くじを切り霊力を込める。

『もっと抑えて。器がもたないよ』

 調整役のココが苦しそうにしながらも、指示をくれた。その声に頷いたアイリーンは、舞い上がる髪に霊力を流していく。青い髪は濃色の根本から毛先へとグラデーションがかかっていた。霊力を込めるたびに色が抜けて銀色に輝く。瞳に力を込めて睨みつけた。きっと目の色も変化しているはず。

ぜろっ!」

『あ、それダメ』

 叫んだココの忠告は間に合わず、水の化生けしょうとなった狗は飛び散った。派手に水をぶちまけたおかげで、足元を掬われて転がる。流されながら、禁足地の柵に寄りかかった。アイリーンの全身はびしょ濡れである。

「ココ、遅い!」

 もっと早く言ってよ。上から下まで濡れたじゃない! 文句を言うアイリーンをよそに、小狐は濡れた尻尾でぺしりと主人の頭を叩いた。

『あ~あ、逃げられちゃった』

 悔しそうに空を見上げるココの視線の先には、何も見えない。だけどアイリーンも気づいた。この場に立ち込めていた黒い気が消えている。

 禁足地の水底みなぞこに封じた魔物を解き放ってしまった……かも?

 青ざめたアイリーンに、小狐は冷たく言い放った。

『捕まえないと大変なことになるよ』
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

夜の声

神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。 読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。 小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。 柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。 そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!

はちみつ電車
恋愛
3歳の時、弟ができた。 大学生に成長した今も弟はめっちゃくちゃかわいい。 未だに思春期を引きずって対応は超塩。 それでも、弟が世界で一番かわいい。 彼氏より弟。 そんな私が会社の人気者の年上男性とわずかに接点を持ったのをきっかけに、どんどん惹かれてしまう。 けれど、彼はかわいがってくれる年下の先輩が好きな人。好きになってはいけない.......。

【完結】それはダメなやつと笑われましたが、どうやら最高級だったみたいです。

まりぃべる
ファンタジー
「あなたの石、屑石じゃないの!?魔力、入ってらっしゃるの?」 ええよく言われますわ…。 でもこんな見た目でも、よく働いてくれるのですわよ。 この国では、13歳になると学校へ入学する。 そして1年生は聖なる山へ登り、石場で自分にだけ煌めいたように見える石を一つ選ぶ。その石に魔力を使ってもらって生活に役立てるのだ。 ☆この国での世界観です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

プライベート・スペクタル

点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。 この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。 その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。 (※基本 隔週土曜日に更新予定)

処理中です...