【完結】神狐の巫女姫☆妖奇譚 ~封印された妖を逃がした陰陽の巫女姫、追いかけた隣大陸で仮面王子に恋しました~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
10 / 159

第10話 君を置いて行けない

しおりを挟む
 赤い瞳は人外であることを示す。誇りを失い堕落した獣……禍狗は穢れを纏っていても、元は神の一柱だった。圧倒的な強さは堕ちても変わらない。

「目を逸らして! 魅入られるわ」

 叫んだアイリーンの声に、ルイは無理矢理目を逸らした。他者の心を操る魅了のような力があるらしい。心臓が高鳴り、息苦しさに呼吸が乱れた。

『我が息は神のいき仮衣かりぎぬを借りて狩るは、しきけがれ――舞い、踊り、はらへ』

 咄嗟に陰陽の術を発したアイリーンが、禍狗を包む膜を作る。綺麗に覆った瞬間、禍狗は大きく吠えた。その声が圧で膜を飛ばし、受け切れずにアイリーンが膝を突く。

 ココも補佐に入るが、現時点の能力で禍狗を抑えるのは無理だった。神狐の一員であるココだが、地上に降りたことで神の権限は半分も使えない。解放した状態で使役できるほど、アイリーンが成熟していなかった。

『……っ、リンもたないよぉ』

 展開した膜が破られていく。アイリーンが叫んだ。ハーフツインテールの青い髪が揺れる。

「お願い、逃げて」

 ルイを見つめる禍狗の赤い目が、ぎろりと少女へ向かう。毛先へ向かうにつれて薄くなる青髪は、結んだ紐が解けていた。血の気を失った彼女の頬にかかる髪が、さらに顔色を悪く見せた。ぎりぎりで持ち堪えているのが伝わる。

「君を置いて行けない」

 舌打ちしたい気分でアイリーンが声を絞り出す。

「早くっ! あなたがいたら全力を出せないわ」

 陰陽の術、奥義をフルール大陸の住人に披露するわけにいかない。それにここが王家の墓所なら、目の前の青年は王家の関係者だろう。東開大陸の術を使うアイリーンが封じに失敗し、彼が害されたら……戦争になっちゃうわ。アイリーンの懸念に気付きながらも、ルイは引かなかった。

「僕の心配より、自分を守れ」

 言うが早いか、素早く剣を抜く。ただの武器なんて、元神族に効かないのに。アイリーンの懸念をよそに、月の光を浴びて銀に光る刃を、禍狗は恐れるように後ずさった。

 ぐるると唸る声が威嚇の響きに変化していく。

「ココ、あの剣……」

『何かの加護があるみたいだね』

 一種の神器の類かしら。首を傾げるアイリーンを守るように、ルイは禍狗と彼女の間に立った。

「フレイムソード」

 簡単な呪文に似た呟きで、銀剣は炎を纏った。表面を舐めて走る炎の色は淡い黄色だ。禍狗の姿は獣、動物が火を恐れるという本能を利用して追い払う気だろう。

「ダメよ、追い払っては」

 アイリーンが止めるより早く、禍狗は身を翻して闇に駆け出した。追い掛ける彼女を、ルイが留める。

「待て、まだ話がある」

「……私はあの禍狗を捕まえなきゃいけないの。どいて」

 唸るココを肩に乗せ、式神を呼び戻す。中で禍狗と争ったのか、戻った式神は傷ついていた。風と雷を司る式神は戦闘向きなのに、それでも禍狗を抑えるには足りない。

「ごめんなさい、ありがとう。休んで」

 触れた指先で傷を消し、彼らを戻す。術を解除した後に落ちた紙片をルイが拾う間に、アイリーンは姿を消した。くしゃりと紙を握る。

「……逃がさない」

 必ず捕まえて、彼女の正体を暴く。黒い狐面で顔を隠した青い髪の少女。魔法とは違う術を使った。おそらく東開大陸の陰陽師か巫女だと思うが、このフルール大陸で自由にさせる気はない。ここはビュシェルベルジェール、竜の血族の大地なのだから。

 彼女との再会を心に誓いながら、ルイはこの時まだ自覚はなかった。胸の奥に芽生えた、温かな感情の名前も知らず。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

EX級アーティファクト化した介護用ガイノイドと行く未来異星世界遺跡探索~君と添い遂げるために~

青空顎門
SF
病で余命宣告を受けた主人公。彼は介護用に購入した最愛のガイノイド(女性型アンドロイド)の腕の中で息絶えた……はずだったが、気づくと彼女と共に見知らぬ場所にいた。そこは遥か未来――時空間転移技術が暴走して崩壊した後の時代、宇宙の遥か彼方の辺境惑星だった。男はファンタジーの如く高度な技術の名残が散見される世界で、今度こそ彼女と添い遂げるために未来の超文明の遺跡を巡っていく。 ※小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ+様、ノベルバ様にも掲載しております。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...