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第11話 また会いたい
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病弱を装ってベッドに潜りながら、ルイは手元の本を開いた。フルール大陸に王家は一つしかない。広大な領地を持つビュシェルベルジェール王家の第二王子である彼は、自分の役割を心得ていた。
ドラゴンの魔力を最も強く受けた王子だから、貴族の期待が凄い。王太子である兄が即位するまで、このまま病弱を通すつもりだった。魔力が多過ぎると、体が蝕まれる。実際によくある症状なので疑われることもなかった。
代々収集された図書室の膨大な棚から、陰陽術に関する書籍を探す。見つけた数少ない本は、カサつく革の表紙だった。乱暴に扱ったらバラけてしまいそうな痛み具合から、相当古い本のようだ。ゆっくり開いて、紙を破らないよう捲った。
ざらつく紙は不思議な手触りで、本の背は糸で縫われている。もしかしたら、東開大陸で作られた書籍だろうか。ドキドキしながら捲った二枚目の文字をじっくり眺め、ルイは溜め息を吐いた。
「だめだ、何が書いてあるか分からない」
見たことのない文字だ。黒い、これはインクか? 顔を近づけると、独特の臭いが鼻をついた。古くなるとインクは色が抜けるが、この本は書いたばかりのような黒々とした色を保っている。読めないまま数枚捲った後、諦めて横になった。
王子としての教養で公用語を話すことはできるが、読み書きまでは履修していない。さらにこの本の古さからして、解読するレベルの達筆だろう。自国の古書も、流暢な流れる筆記体で解読に苦戦したことを思い出した。下手すると、隣大陸の出身者でも読めないかもな。
「手がかりは別方面から探すか」
本をナイトテーブルの上に置く。夜に出歩くので、その分の睡眠を取らなくてはならない。分かっていても、眠りはなかなか訪れなかった。目を閉じて体だけでも休めようと努める。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは、鮮やかな一人の少女だった。闇に溶け込む不思議な濃茶の膝丈ドレスを纏い、狐の面で顔を隠す。マスクで口元を覆ったせいでくぐもった声は、彼女がまだ若いことを知らせた。耳に心地よい声だ。叫んだ時の張り上げた声を思い出し、ごろりと寝返りを打った。
闇装束を思わせる色合いなのに、赤や黄色の飾りとフリルをあしらう気遣いは、女の子だからか? まあ、僕も不要な金ボタンがあったりするけど。すごく可愛らしい感じだった。
華奢な手足は真っ白ではない。健康的な象牙色の柔らかそうな肌で、なのに化け物と正面から対峙した。見惚れる強さだ。そういや、あの化け物は何だったのか。彼女は「禍狗」と呼んだけれど。
あの時、混乱して倭国の言葉で話したなら、少女の母国語なのだろう。咄嗟に言葉を合わせて会話を続けた。倭国の響きは彼女によく似合っていた。左右の襟元を合わせる服は、倭国の民族衣装だったっけ。
溜め息をついて、自分を罵る。出会った少女の面影をなよなよと追うのは僕らしくない。そう思うのに、どうしても頭の中から出ていかなかった。
また会えるかな。会えるといい。今夜もあの墓所に行ってみようか。白い狐を連れた少女を脳裏に浮かべたまま、ルイは眠りの中に意識を委ねた。そのせいか、彼女の夢を見ることになったのだけれど。
ドラゴンの魔力を最も強く受けた王子だから、貴族の期待が凄い。王太子である兄が即位するまで、このまま病弱を通すつもりだった。魔力が多過ぎると、体が蝕まれる。実際によくある症状なので疑われることもなかった。
代々収集された図書室の膨大な棚から、陰陽術に関する書籍を探す。見つけた数少ない本は、カサつく革の表紙だった。乱暴に扱ったらバラけてしまいそうな痛み具合から、相当古い本のようだ。ゆっくり開いて、紙を破らないよう捲った。
ざらつく紙は不思議な手触りで、本の背は糸で縫われている。もしかしたら、東開大陸で作られた書籍だろうか。ドキドキしながら捲った二枚目の文字をじっくり眺め、ルイは溜め息を吐いた。
「だめだ、何が書いてあるか分からない」
見たことのない文字だ。黒い、これはインクか? 顔を近づけると、独特の臭いが鼻をついた。古くなるとインクは色が抜けるが、この本は書いたばかりのような黒々とした色を保っている。読めないまま数枚捲った後、諦めて横になった。
王子としての教養で公用語を話すことはできるが、読み書きまでは履修していない。さらにこの本の古さからして、解読するレベルの達筆だろう。自国の古書も、流暢な流れる筆記体で解読に苦戦したことを思い出した。下手すると、隣大陸の出身者でも読めないかもな。
「手がかりは別方面から探すか」
本をナイトテーブルの上に置く。夜に出歩くので、その分の睡眠を取らなくてはならない。分かっていても、眠りはなかなか訪れなかった。目を閉じて体だけでも休めようと努める。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは、鮮やかな一人の少女だった。闇に溶け込む不思議な濃茶の膝丈ドレスを纏い、狐の面で顔を隠す。マスクで口元を覆ったせいでくぐもった声は、彼女がまだ若いことを知らせた。耳に心地よい声だ。叫んだ時の張り上げた声を思い出し、ごろりと寝返りを打った。
闇装束を思わせる色合いなのに、赤や黄色の飾りとフリルをあしらう気遣いは、女の子だからか? まあ、僕も不要な金ボタンがあったりするけど。すごく可愛らしい感じだった。
華奢な手足は真っ白ではない。健康的な象牙色の柔らかそうな肌で、なのに化け物と正面から対峙した。見惚れる強さだ。そういや、あの化け物は何だったのか。彼女は「禍狗」と呼んだけれど。
あの時、混乱して倭国の言葉で話したなら、少女の母国語なのだろう。咄嗟に言葉を合わせて会話を続けた。倭国の響きは彼女によく似合っていた。左右の襟元を合わせる服は、倭国の民族衣装だったっけ。
溜め息をついて、自分を罵る。出会った少女の面影をなよなよと追うのは僕らしくない。そう思うのに、どうしても頭の中から出ていかなかった。
また会えるかな。会えるといい。今夜もあの墓所に行ってみようか。白い狐を連れた少女を脳裏に浮かべたまま、ルイは眠りの中に意識を委ねた。そのせいか、彼女の夢を見ることになったのだけれど。
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