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第98話 穢れてしまう!
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勢いに押され、屋敷の結界に綻びができた。細い隙間から這い出ようとする穢れは、まだ瘴気と呼ぶほど凝り固まっていない。今なら祓うことも容易だ。唇を尖らせ、細く長い息を吐き出した。
こんな大きな穢れが街に放たれたら、何人も食われてしまう。犠牲を出すわけにいかなかった。
『ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここのたり……古の契約を求めん、巫女たる愛梨が契約獣たる瑚琴を従え、神狐の清めを望む』
神狐ココが大きくなる。一時的に元の姿に戻ったココが、ふさふさの尻尾を大きく揺らした。
『我らが偉大なる神々の名を借り、威を駆る者に知らしめせ。滅、禁、破……すべての言霊を束ねて我が力と成せ――呪われし穢れは巫女へ届かず』
穢れを散らすための神呪が口をつく。何度も叩き込まれた文言は、霊力を増幅させた。向かいで姉アオイが必死に堪える。神楽鈴がリンと涼やかに鳴った。
「消えろっ! フレイムソード」
体内の魔力を燃やし、ルイが靄に攻撃を仕掛ける。穢れの集合体であるため、実体はないがドラゴンの魔力が消耗させた。炎の剣であるため、浄化の力を帯びているのも大きい。
逃げ場を失って暴れる穢れに、白い獣が飛びかかった。
「ネネ? どうして!」
叫んだアイリーンの気が削がれる。慌てて立て直すが、放つ霊力は小さくなった。一度に消そうと溜めた霊力が半減し、効力も落ちる。もう一度と霊力を練るアイリーンの前で、ネネは穢れに噛みついた。
子犬姿なので、すぐに振り落とされる。それでも飛び掛かろうと、タイミングを探っていた。
「ダメよ、穢れてしまう!」
『じゃあ、僕の出番だね』
ココは飛び掛かり、狗神を蹴った。転がるネネが体勢を立て直す前に、穢れを散らす。混戦状態の中庭で、白蛇神はにたりと笑った。
『ここで真打登場と洒落込もう』
蛇の体が大きく膨らみ、練り上げた霊力を纏って穢れを囲む。きつく締め上げる形で、押し込めた。そこへ大きな口を開け、ぱくりと噛み付く。いや、一口で飲み込んだ。穢れが悲鳴に似た声をあげ、身を捩る。その抵抗も、あっさりと押さえた。
『これで終いよ』
再び大きな口を開けた白蛇神だが、飛んできた霊力に動きを止める。瞬きしない瞳が、大きく見開かれた。アイリーンの放った霊力が直撃し、穢れはガラスが割れるような音を残して消滅した。
『奪われた』
しょんぼりと項垂れる白蛇神が嘆く。ココは逆立てた毛を納め、叱られ待ちのネネに詰め寄る。ぺちんと手で叩き、そっと身を擦り寄せた。心配したのだと示す神狐に、耳と尻尾を垂らした子犬が鼻を鳴らす。
微笑ましい場面に、アイリーンは尻餅をついた。安心して体の力が抜けたのだ。中庭の土に寝転がりそうな彼女を、ルイがそっと支えた。
こんな大きな穢れが街に放たれたら、何人も食われてしまう。犠牲を出すわけにいかなかった。
『ひ、ふ、み、よ、いつ、む、なな、や、ここのたり……古の契約を求めん、巫女たる愛梨が契約獣たる瑚琴を従え、神狐の清めを望む』
神狐ココが大きくなる。一時的に元の姿に戻ったココが、ふさふさの尻尾を大きく揺らした。
『我らが偉大なる神々の名を借り、威を駆る者に知らしめせ。滅、禁、破……すべての言霊を束ねて我が力と成せ――呪われし穢れは巫女へ届かず』
穢れを散らすための神呪が口をつく。何度も叩き込まれた文言は、霊力を増幅させた。向かいで姉アオイが必死に堪える。神楽鈴がリンと涼やかに鳴った。
「消えろっ! フレイムソード」
体内の魔力を燃やし、ルイが靄に攻撃を仕掛ける。穢れの集合体であるため、実体はないがドラゴンの魔力が消耗させた。炎の剣であるため、浄化の力を帯びているのも大きい。
逃げ場を失って暴れる穢れに、白い獣が飛びかかった。
「ネネ? どうして!」
叫んだアイリーンの気が削がれる。慌てて立て直すが、放つ霊力は小さくなった。一度に消そうと溜めた霊力が半減し、効力も落ちる。もう一度と霊力を練るアイリーンの前で、ネネは穢れに噛みついた。
子犬姿なので、すぐに振り落とされる。それでも飛び掛かろうと、タイミングを探っていた。
「ダメよ、穢れてしまう!」
『じゃあ、僕の出番だね』
ココは飛び掛かり、狗神を蹴った。転がるネネが体勢を立て直す前に、穢れを散らす。混戦状態の中庭で、白蛇神はにたりと笑った。
『ここで真打登場と洒落込もう』
蛇の体が大きく膨らみ、練り上げた霊力を纏って穢れを囲む。きつく締め上げる形で、押し込めた。そこへ大きな口を開け、ぱくりと噛み付く。いや、一口で飲み込んだ。穢れが悲鳴に似た声をあげ、身を捩る。その抵抗も、あっさりと押さえた。
『これで終いよ』
再び大きな口を開けた白蛇神だが、飛んできた霊力に動きを止める。瞬きしない瞳が、大きく見開かれた。アイリーンの放った霊力が直撃し、穢れはガラスが割れるような音を残して消滅した。
『奪われた』
しょんぼりと項垂れる白蛇神が嘆く。ココは逆立てた毛を納め、叱られ待ちのネネに詰め寄る。ぺちんと手で叩き、そっと身を擦り寄せた。心配したのだと示す神狐に、耳と尻尾を垂らした子犬が鼻を鳴らす。
微笑ましい場面に、アイリーンは尻餅をついた。安心して体の力が抜けたのだ。中庭の土に寝転がりそうな彼女を、ルイがそっと支えた。
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