124 / 159
第123話 私たち、不審者じゃない!
しおりを挟む
揺れる大地に驚くが、三人はさっと防御態勢を取った。蹲って頭を抱える。近くに机があれば、頭を突っ込んだだろう。この部屋は長椅子と木製クローゼットが据え付けられているだけ。頭を突っ込む場所がない三人は身を寄せ合った。
東開大陸、とりわけ倭国は地震が多い。温泉や地熱などの恩恵もあるが、建物が木造なのも地震が理由だった。揺れを吸収して破損を防ぐ知恵だ。フルール大陸は石材を多用した建築物ばかりである。普段はあまり地揺れはないのだろう。
安全を確認して身を起こしたアオイの言葉に、妹二人は頷いた。窓の外を見れば、人々が右往左往しているのがわかる。あの慌てようは、地震の経験が少ないことを示していた。
「揺れに比べて被害が少ない気がするわ」
ヒスイが淡々と指摘する通り、石造りの建物が崩壊している場所はほぼない。揺れでずれた程度だった。崩れる危険性を考えれば、建物から出た方が安全だ。逃げ惑う人々の姿に、アイリーンが動いた。
「街へ行こうよ。何かできるかも」
『リン、いつも言ってるけど……君の思いつきは、だいたい騒動を大きくするんだよ』
呆れ顔のココが膨らんだ尻尾を毛繕いしながら答える。その隣で、ネネは顔を隠す形で丸くなっていた。怖かったのだろう。ケロッとしているのがミミで、するすると移動を始めた。アイリーンが手を伸ばせば、肩まで上る。
『ドラゴンが目覚めたようだ。これはしばらく揺れるぞ』
予言のように呟く白蛇神は、ちろちろと舌を覗かせた。それから嫌そうに付け加える。
『我はここで待つ。あやつと顔を合わせたくないのでな』
あやつ? きょとんとした顔で首を傾げ、姉達を見るが知っているわけもない。全員で疑問符を浮かべる結果に終わった。神狐ココがようやく落ち着いた尻尾を振り、アイリーンに近づく。白蛇神が滑り落ちるのと交代で、肩に飛び乗った。
「助けに行ったらダメなの?」
『あのさ、僕らは不法入国者なんだけど』
「「「あっ」」」
言われて三姉妹は気づいた。正規のルートを通って入国していないので、不法滞在だ。この状態でうっかり街に出て、警備の衛兵に捕まったら? 本国に連絡して開放してもらうまでに一カ月以上かかる。
「えっと、ルイを探すのはどうかな。彼なら災害現場にいそう」
アイリーンが妥協案のように出した意見に、ヒスイは同意した。この国の第二王子が一緒なら、身分を証明してくれるはず。アオイは慎重派で、このまま屋敷に残る方がいいと考えた。
陰陽術は魔法に近いが、もっと繊細で理が厳しい。この場を離れて戻れなければ、倭国に帰れない可能性があるのだ。状況が把握できるまで、動かない。またはルイと合流するまで、危険を考慮して留まるのも選択肢だと告げた。
残酷なようだが、いまの彼女らは無力な異国の女性に過ぎない。陰陽術を使うことで、異端扱いされる危険もあった。街に大きな被害がないなら、ルイに伝令を送るだけにした方が……そう言われ、アイリーンは眉尻を下げた。
自分だけならココを振り切って動くが、姉達を危険に晒すのは嫌だ。結局、様子を見ることになった。持ってきた風呂敷を広げ、軽食をとる。おにぎりを分け合い、最後に梅だけ残した。
ルイに食べさせたいアイリーンの気持ちを知る二人は、わざと違う具を選ぶ。ココは用意されたお稲荷さんを齧り、隣で頬張ったネネは揺れを警戒して尻尾を丸めていた。
東開大陸、とりわけ倭国は地震が多い。温泉や地熱などの恩恵もあるが、建物が木造なのも地震が理由だった。揺れを吸収して破損を防ぐ知恵だ。フルール大陸は石材を多用した建築物ばかりである。普段はあまり地揺れはないのだろう。
安全を確認して身を起こしたアオイの言葉に、妹二人は頷いた。窓の外を見れば、人々が右往左往しているのがわかる。あの慌てようは、地震の経験が少ないことを示していた。
「揺れに比べて被害が少ない気がするわ」
ヒスイが淡々と指摘する通り、石造りの建物が崩壊している場所はほぼない。揺れでずれた程度だった。崩れる危険性を考えれば、建物から出た方が安全だ。逃げ惑う人々の姿に、アイリーンが動いた。
「街へ行こうよ。何かできるかも」
『リン、いつも言ってるけど……君の思いつきは、だいたい騒動を大きくするんだよ』
呆れ顔のココが膨らんだ尻尾を毛繕いしながら答える。その隣で、ネネは顔を隠す形で丸くなっていた。怖かったのだろう。ケロッとしているのがミミで、するすると移動を始めた。アイリーンが手を伸ばせば、肩まで上る。
『ドラゴンが目覚めたようだ。これはしばらく揺れるぞ』
予言のように呟く白蛇神は、ちろちろと舌を覗かせた。それから嫌そうに付け加える。
『我はここで待つ。あやつと顔を合わせたくないのでな』
あやつ? きょとんとした顔で首を傾げ、姉達を見るが知っているわけもない。全員で疑問符を浮かべる結果に終わった。神狐ココがようやく落ち着いた尻尾を振り、アイリーンに近づく。白蛇神が滑り落ちるのと交代で、肩に飛び乗った。
「助けに行ったらダメなの?」
『あのさ、僕らは不法入国者なんだけど』
「「「あっ」」」
言われて三姉妹は気づいた。正規のルートを通って入国していないので、不法滞在だ。この状態でうっかり街に出て、警備の衛兵に捕まったら? 本国に連絡して開放してもらうまでに一カ月以上かかる。
「えっと、ルイを探すのはどうかな。彼なら災害現場にいそう」
アイリーンが妥協案のように出した意見に、ヒスイは同意した。この国の第二王子が一緒なら、身分を証明してくれるはず。アオイは慎重派で、このまま屋敷に残る方がいいと考えた。
陰陽術は魔法に近いが、もっと繊細で理が厳しい。この場を離れて戻れなければ、倭国に帰れない可能性があるのだ。状況が把握できるまで、動かない。またはルイと合流するまで、危険を考慮して留まるのも選択肢だと告げた。
残酷なようだが、いまの彼女らは無力な異国の女性に過ぎない。陰陽術を使うことで、異端扱いされる危険もあった。街に大きな被害がないなら、ルイに伝令を送るだけにした方が……そう言われ、アイリーンは眉尻を下げた。
自分だけならココを振り切って動くが、姉達を危険に晒すのは嫌だ。結局、様子を見ることになった。持ってきた風呂敷を広げ、軽食をとる。おにぎりを分け合い、最後に梅だけ残した。
ルイに食べさせたいアイリーンの気持ちを知る二人は、わざと違う具を選ぶ。ココは用意されたお稲荷さんを齧り、隣で頬張ったネネは揺れを警戒して尻尾を丸めていた。
91
あなたにおすすめの小説
夜の声
神崎
恋愛
r15にしてありますが、濡れ場のシーンはわずかにあります。
読まなくても物語はわかるので、あるところはタイトルの数字を#で囲んでます。
小さな喫茶店でアルバイトをしている高校生の「桜」は、ある日、喫茶店の店主「葵」より、彼の友人である「柊」を紹介される。
柊の声は彼女が聴いている夜の声によく似ていた。
そこから彼女は柊に急速に惹かれていく。しかし彼は彼女に決して語らない事があった。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う
yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。
これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。
うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!
はちみつ電車
恋愛
3歳の時、弟ができた。
大学生に成長した今も弟はめっちゃくちゃかわいい。
未だに思春期を引きずって対応は超塩。
それでも、弟が世界で一番かわいい。
彼氏より弟。
そんな私が会社の人気者の年上男性とわずかに接点を持ったのをきっかけに、どんどん惹かれてしまう。
けれど、彼はかわいがってくれる年下の先輩が好きな人。好きになってはいけない.......。
プライベート・スペクタル
点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。
この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。
その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。
(※基本 隔週土曜日に更新予定)
寡黙な男はモテるのだ!……多分
しょうわな人
ファンタジー
俺の名前は磯貝澄也(いそがいとうや)。年齢は四十五歳で、ある会社で課長職についていた。
俺は子供の頃から人と喋るのが苦手で、大人になってからもそれは変わることが無かった。
そんな俺が何故か課長という役職についているのは、部下になってくれた若者たちがとても優秀だったからだと今でも思っている。
俺の手振り、目線で俺が何をどうすれば良いかと察してくれる優秀な部下たち。俺が居なくなってもきっと会社に多大な貢献をしてくれている事だろう。
そして今の俺は目の前に神と自称する存在と対話している。と言ってももっぱら喋っているのは自称神の方なのだが……
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる