【完結】神狐の巫女姫☆妖奇譚 ~封印された妖を逃がした陰陽の巫女姫、追いかけた隣大陸で仮面王子に恋しました~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
154 / 159

第153話 お握りを二人で

しおりを挟む
 国のトップである父親同士の顔合わせが行われたため、婚約はとんとん拍子で調った。横やりを入れようとしても、それぞれの父親が一喝して終わりだ。規模は違えど国の最高権力者同士、気が合うのか二人は仲よくなっていた。

 一泊して戻った屋敷は大騒ぎで、セイランは部屋に軟禁されそうなほど叱られた。近習は泣き出してしまうし、皇太子シンは腰が抜けて運ばれる。まるで連れ出したかのように叱られるアイリーンは、自分は無関係で巻き込まれたと潔白を主張。父の援護で無罪を勝ち取る。

 カオス状態の倭国に比べ、ビュシェルベルジェール王国は落ち着いていた。王が決めたと宣言し、王子が納得している。王妃や側妃の応援があれば、誰も反対など出来ない。王太子である兄アンリも援護に回り、こちらはすぐに鎮静化した。








「本当に婿入りして平気なの?」

「ああ、兄上の治世が安定するまでは残るが、その後は別に俺がいなくていいだろ」

「お兄さん、寂しがると思うよ」

「だって定期的に会いに来られるんだ。それでいいじゃん」

 砕けた口調で話す二人がいるのは、王城の屋根の上だ。といっても細長い塔の屋根は危険なので諦めた。下で侍従長が悲鳴を上げているが、ルイは笑顔で手を振る。騎士が数人、連れ戻そうとしたものの追い返された。

「魔法って便利ね」

 風を使って騎士を退けたルイの魔法に、アイリーンは竹の皮を開きながら呟く。陰陽術は形式が重要だ。神呪はある程度変更可能だが、舞いや呼び出しの作法は細かく決まっていた。

「お? 握り飯か。久しぶりだな、あれあるか? あの酸っぱい奴」

「あるわよ。ほら」

 お握りの包みを開いたアイリーンは、片方を二つに割った。そちらには鮭が入っている。ならば、もう片方が梅だろう。割っていない方を手渡し、自分は鮭にかぶりつく。肩から腕を渡った小狐が、お握りの具である鮭を持ち逃げした。

「ちょ! 美味しいところなのに」

 取り戻そうにも、離れた場所で飲み込むココの方が早い。振り返ってにやりと笑う神狐は、ぺろりと舌なめずりした。美味しかったと言葉にならない感想が伝わる。

「もうっ!」

 キエに言いつけちゃうから。お稲荷さんをお預けされるといいわ。ぷんぷんと怒りながら、膝の上で大人しく待つネネを撫でる。ネネにお握りを割って差し出し、指をしゃぶる勢いで食べる子犬に笑った。

「やっと一緒に食べられたね」

「ん? そういや、稲荷寿司は買いに行ったけど、お握りは屋敷の上以来か」

「顔を隠してたわよね」

「あの仮面、外さないと取れない仕掛けがあってさ」

「あら、私の仮面と似てるかも」

 お互いに、それほど昔でもない思い出話をして。ルイがお握りの梅の種を飲み込んだことで、少し騒いで。下で騒いでいた侍従や騎士の声が聞こえなくなるほど、遅い時間まで一緒に過ごした。月が傾き、そろそろ帰らないと……とアイリーンが立ち上がる。

「私、帰るね。次は明後日かな」

「時間は? 迎えを出すよ」

 打ち合わせをして、次の約束をかわす。些細なそれが嬉しくて、二人はくすくす笑って下の部屋に飛び込んだ。慌てて追いかけるネネとココを捕まえ、アイリーンは手を振って別れた。その後捕まったルイが、侍従長に説教されたのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

処理中です...