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第152話 突然の訪問で門前を騒がす
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父セイランが一緒なの。そう告げる王城門前の馬車に、衛兵は顔を引きつらせた。この大陸では、王族以上の地位を持つ存在はドラゴンだけ。一つしか国がないため、他国の王族への振る舞いは慣れていなかった。
以前に皇太子シンが来たが、前触れがきちんとされていた。出迎えは上位の貴族が行い、衛兵は馬車に敬礼して見送るだけだ。それが約束も前触れもなく、他国の帝が現れたと聞けば……青褪めるのが当然だった。一人が上司に報告で走り、残った一人は通していいか迷って挙動不審になる。
「リン! 一大事だと……っ、え、ええええ?!」
アイリーンが訪ねてきたら、すぐ知らせるよう通知していた第二王子ルイの登場に、門番の衛兵は必死で訴える。あの馬車の中に、倭国の最高権力者がいると。実際、顔を合わせた経験のあるルイは、馬車からにこやかに手を振る男に見覚えがあった。
アイリーンが同行して、父と呼ぶからには間違いない。ルイはそれでも冷静さを保とうと深呼吸し、やや裏返った声で国王夫妻に取り次ぐよう指示を出した。全然取り繕えていないが、及第点なのだろう。セイランは「うん、悪くない」と満足げだ。
第二王子の許可で、馬車は迅速にエントランスへ回された。出迎えるのは王城を管理する執事長や侍女長だ。向こうから宰相が息を切らせて走ってくる。間に合うか。ぎりぎりのタイミングで、襟と息を整えながら滑り込んだ。
普段は運動などしない宰相は、真っ赤に高揚した顔で一礼する。
「前触れもなく失礼した。国王陛下にお会いできるだろうか」
外では人当たりのいいセイランは、物腰柔らかく問いかける。倭国で直接の声掛けなど考えられないが、他国なら許されるはずだ。いつもと違う環境を楽しみながら、帝は答えを待った。
「謁見の準備を整えておりますので、こちらへ」
息が詰まった宰相の隣で、ルイが笑顔で促した。王族スマイルはなかなか様になっている。鷹揚に頷いたセイランは、先に馬車を降りて娘に手を差し出す。ほぼ同時に、婚約者へ手を差し伸べたルイが顔を引きつらせた。まさか、今さら邪魔をしに?
どちらの手を取るか、迷う仕草を見せないアイリーンはルイの手を借りた。得意げに胸を張る王子と並んだアイリーンは、婚約者の顔をちらちらと盗み見る。こうしていると、やっぱり王子様よね。普段は悪戯っ子な感じなのに。ギャップがありすぎて、ときめいちゃうわ。
「やれやれ、父親ほど損な役割はないな」
溜め息を吐いたセイランの呟きに反応したのは、宰相だった。彼にも年頃の娘がおり、最近は夜会でもエスコートの機会が減っている。嫁ぐまで一年を切った今、少しでも一緒にいたいのに。娘は婚約者に釘付けだった。
「わかります」
同意の声が零れ、立場を超えて父親同士で苦笑いする。いつか、娘は選んだ相手に嫁ぐ。分かっていても、ぎりぎりまで娘でいてほしい。いや、嫁いだ後も干渉し保護してやりたいと思うのが親心だ。それでも役割が終わり、夫になる男に渡さなくてはならない。
胸につかえた苦しさを分かち合いながら、倭国の帝とドラゴンの大陸の宰相は若い二人の後に続いた。
以前に皇太子シンが来たが、前触れがきちんとされていた。出迎えは上位の貴族が行い、衛兵は馬車に敬礼して見送るだけだ。それが約束も前触れもなく、他国の帝が現れたと聞けば……青褪めるのが当然だった。一人が上司に報告で走り、残った一人は通していいか迷って挙動不審になる。
「リン! 一大事だと……っ、え、ええええ?!」
アイリーンが訪ねてきたら、すぐ知らせるよう通知していた第二王子ルイの登場に、門番の衛兵は必死で訴える。あの馬車の中に、倭国の最高権力者がいると。実際、顔を合わせた経験のあるルイは、馬車からにこやかに手を振る男に見覚えがあった。
アイリーンが同行して、父と呼ぶからには間違いない。ルイはそれでも冷静さを保とうと深呼吸し、やや裏返った声で国王夫妻に取り次ぐよう指示を出した。全然取り繕えていないが、及第点なのだろう。セイランは「うん、悪くない」と満足げだ。
第二王子の許可で、馬車は迅速にエントランスへ回された。出迎えるのは王城を管理する執事長や侍女長だ。向こうから宰相が息を切らせて走ってくる。間に合うか。ぎりぎりのタイミングで、襟と息を整えながら滑り込んだ。
普段は運動などしない宰相は、真っ赤に高揚した顔で一礼する。
「前触れもなく失礼した。国王陛下にお会いできるだろうか」
外では人当たりのいいセイランは、物腰柔らかく問いかける。倭国で直接の声掛けなど考えられないが、他国なら許されるはずだ。いつもと違う環境を楽しみながら、帝は答えを待った。
「謁見の準備を整えておりますので、こちらへ」
息が詰まった宰相の隣で、ルイが笑顔で促した。王族スマイルはなかなか様になっている。鷹揚に頷いたセイランは、先に馬車を降りて娘に手を差し出す。ほぼ同時に、婚約者へ手を差し伸べたルイが顔を引きつらせた。まさか、今さら邪魔をしに?
どちらの手を取るか、迷う仕草を見せないアイリーンはルイの手を借りた。得意げに胸を張る王子と並んだアイリーンは、婚約者の顔をちらちらと盗み見る。こうしていると、やっぱり王子様よね。普段は悪戯っ子な感じなのに。ギャップがありすぎて、ときめいちゃうわ。
「やれやれ、父親ほど損な役割はないな」
溜め息を吐いたセイランの呟きに反応したのは、宰相だった。彼にも年頃の娘がおり、最近は夜会でもエスコートの機会が減っている。嫁ぐまで一年を切った今、少しでも一緒にいたいのに。娘は婚約者に釘付けだった。
「わかります」
同意の声が零れ、立場を超えて父親同士で苦笑いする。いつか、娘は選んだ相手に嫁ぐ。分かっていても、ぎりぎりまで娘でいてほしい。いや、嫁いだ後も干渉し保護してやりたいと思うのが親心だ。それでも役割が終わり、夫になる男に渡さなくてはならない。
胸につかえた苦しさを分かち合いながら、倭国の帝とドラゴンの大陸の宰相は若い二人の後に続いた。
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