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05.育ての母との穏やかな日々は終わり
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何事もなかったように、5年が過ぎた。乳母エイミーは私を連れて、実家に戻ったのだ。一応、名称は貴族だった。でも一代限りの準男爵家だ。騎士などが功績を立てて得られる、当代限りで継承されない爵位である。
つまり乳母の父親が準男爵だから、ぎりぎり乳母も貴族に含まれる。ただし、サムソン準男爵が亡くなれば話は別で、平民へ戻ってしまう。不安定な生活なのに、エイミーは優しかった。実の母親のように、私を愛して育ててくれる。
情報が不足しているのと、何より自分が動けないので大人しくエイミーの子として過ごした。まだ一桁の年齢で、実の母じゃないと指摘するのはおかしい。何より、もういっそこの人の子でいいかな? と思う部分もあった。
復讐はまだ出来ないし、幼いうちは愛情たっぷりの彼女の子として生きていきたい。仇である二人の情報はないけど、まだ老衰する年齢じゃないし。
「ママ!」
「お母様と呼んでちょうだい。どこで覚えてきたのかしら」
「うーんと、あっちで」
適当な方角を指差して誤魔化す。元お母様の実家が、ママと呼ばせるのよね。つい幼さに釣られて出てしまった。この国では使わない表現だけど、不思議とエイミーの反応は悪くない。微笑んで髪を撫でてくれた。
光り輝く金髪にほんのりと入ったピンク色、瞳は紫色だった。どう考えても、あの二人の血を引いている証拠ね。足して割ったような色合いだった。
第二王子メレディスは金髪碧眼、聖女リリアンはピンクの髪と赤に近い瞳。どちらも顔立ちは綺麗だから、遺伝した私の顔は整っている。まだ幼いけど、可愛らしさは評判だった。
「遊んでくる」
「遠くへ行ってはダメよ、それから知らない人に呼ばれても断ってね」
「分かってるわ、おかぁさま」
殺された時にもう成人間近だったから、大人びた言葉遣いになる。笑顔で手を振り、街へ繰り出した。パン屋のおばさんに挨拶し、飴をもらって通りを曲がる。その先の宿屋の娘アビーと遊ぶのだ。
「あ、キャリー!」
「アビー、お手伝いした?」
終わったと笑うアビーは、綺麗な銀髪だった。吟遊詩人だったお父さんの色らしい。すぐに旅に出てしまい、宿屋の跡取り娘だったアビーのお母さんは、別の男性と結婚した。明らかに色の違う子を、慈しむ優しい父親に恵まれた友人は、笑顔で駆け寄ってくる。
「何して遊ぶ?」
「こないだのお人形は?」
「置いてきちゃった」
いろいろ相談する私達は、遊びの予定に夢中だった。後ろに近づく人影に気づくのが遅れる。ぐいと腕を掴まれ、私は青ざめた。
「嫌だぁ!」
「離して! キャリー、きゃああああぁ!!」
大きな声で叫んだことが功を奏したのか、宿屋からアビーのお父さんが走ってくる。
「うちの子に何を!?」
目の前に赤い血が飛んだ。アビーのお父さんが傷つけられ、倒れる。泣き出したアビーの悲鳴に、周囲が騒がしくなった。
「急げ」
合図を出した男達が、私とアビーを抱えて走る。遠ざかる赤い光景から目が離せなかった。人は簡単に死んでしまう。私もそうだったわ。今は無理だからと遠ざけていた記憶が、一気に存在感を増した。
復讐するまで死ねない。売られて奴隷にもなりたくない。感情が爆発した。
つまり乳母の父親が準男爵だから、ぎりぎり乳母も貴族に含まれる。ただし、サムソン準男爵が亡くなれば話は別で、平民へ戻ってしまう。不安定な生活なのに、エイミーは優しかった。実の母親のように、私を愛して育ててくれる。
情報が不足しているのと、何より自分が動けないので大人しくエイミーの子として過ごした。まだ一桁の年齢で、実の母じゃないと指摘するのはおかしい。何より、もういっそこの人の子でいいかな? と思う部分もあった。
復讐はまだ出来ないし、幼いうちは愛情たっぷりの彼女の子として生きていきたい。仇である二人の情報はないけど、まだ老衰する年齢じゃないし。
「ママ!」
「お母様と呼んでちょうだい。どこで覚えてきたのかしら」
「うーんと、あっちで」
適当な方角を指差して誤魔化す。元お母様の実家が、ママと呼ばせるのよね。つい幼さに釣られて出てしまった。この国では使わない表現だけど、不思議とエイミーの反応は悪くない。微笑んで髪を撫でてくれた。
光り輝く金髪にほんのりと入ったピンク色、瞳は紫色だった。どう考えても、あの二人の血を引いている証拠ね。足して割ったような色合いだった。
第二王子メレディスは金髪碧眼、聖女リリアンはピンクの髪と赤に近い瞳。どちらも顔立ちは綺麗だから、遺伝した私の顔は整っている。まだ幼いけど、可愛らしさは評判だった。
「遊んでくる」
「遠くへ行ってはダメよ、それから知らない人に呼ばれても断ってね」
「分かってるわ、おかぁさま」
殺された時にもう成人間近だったから、大人びた言葉遣いになる。笑顔で手を振り、街へ繰り出した。パン屋のおばさんに挨拶し、飴をもらって通りを曲がる。その先の宿屋の娘アビーと遊ぶのだ。
「あ、キャリー!」
「アビー、お手伝いした?」
終わったと笑うアビーは、綺麗な銀髪だった。吟遊詩人だったお父さんの色らしい。すぐに旅に出てしまい、宿屋の跡取り娘だったアビーのお母さんは、別の男性と結婚した。明らかに色の違う子を、慈しむ優しい父親に恵まれた友人は、笑顔で駆け寄ってくる。
「何して遊ぶ?」
「こないだのお人形は?」
「置いてきちゃった」
いろいろ相談する私達は、遊びの予定に夢中だった。後ろに近づく人影に気づくのが遅れる。ぐいと腕を掴まれ、私は青ざめた。
「嫌だぁ!」
「離して! キャリー、きゃああああぁ!!」
大きな声で叫んだことが功を奏したのか、宿屋からアビーのお父さんが走ってくる。
「うちの子に何を!?」
目の前に赤い血が飛んだ。アビーのお父さんが傷つけられ、倒れる。泣き出したアビーの悲鳴に、周囲が騒がしくなった。
「急げ」
合図を出した男達が、私とアビーを抱えて走る。遠ざかる赤い光景から目が離せなかった。人は簡単に死んでしまう。私もそうだったわ。今は無理だからと遠ざけていた記憶が、一気に存在感を増した。
復讐するまで死ねない。売られて奴隷にもなりたくない。感情が爆発した。
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