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47.魔王が名付けた子狼

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 人に似た姿に化ける狼……間違いなく魔族だ。目の前にいるのは、神殿が人族の敵と名指しする相手なのだが。ブレンダは不思議と恐怖心や嫌悪を覚えなかった。

「驚かせやがって」

 大人びた口を利くが、年齢はまだ一桁だろう。立ち上がれば、腹のあたりに顔が来る。一人であれこれ出来て、親を心配させる頃か。弟を思い出し、無自覚に手を伸ばした。警戒するでもなく、素直に撫でられている。

 頭をぐりぐりと撫でられた子狼は、気持ちよさそうに耳を横に倒した。うっとりとした表情から、両親に愛されて育った子だとわかる。

「悪かったな、これは詫びだ」

 口の中の干し肉を飲み込み、代わりに新しく干し肉を取り出した。腰にベルトで固定するバッグには、他に火打石や金貨が入っている。着替えや少額の金は背負うバッグに詰めた。これだけで、引ったくりや戦う間の盗難被害が減らせる。

 くんくんと匂った子狼の尻尾が大きく揺れた。

「食っていいのか?」

「ああ、もちろんだ。心配なら齧ってみせようか」

「平気」

 毒の臭いはしないから。そう付け加えて、子狼は干し肉に牙を突き立てた。幼く見えても狼だ。その牙は鋭く尖っていた。本気で噛まれたら、引き千切られそうだ。

「うまい」

 しっかり噛んで食べる子狼に、名を尋ねた。

「あたしはブレンダだ。名前は?」

「ブエル、魔王様につけてもらった名前なんだぞ」

 誇らしげに胸を張るブエルは、薄茶の髪を乱暴にかき上げた。爪や肉球の痕跡がある手を器用に扱う。緑の瞳を瞬かせ、ブエルは手にした最後の肉片を噛み砕いた。干し肉の硬さは気にならないようだ。

「これ、味が濃いな」

「香辛料を塗ってある」

 興味を示したブエルだが、ぴぴっと耳を動かした。人の耳とは動きが違う。ぐるりと向きを変え、音を選んで聞いている感じがした。

「お父さんにバレた」

 泣きそうな声で呟くブエルの尻尾が垂れる。耳だけは音を拾っており、ぴくりと動いた。直後、何かが目の前に飛び出した。咄嗟に防御の構えを取り、ブレンダは身を屈める。その右手は鞘を掴んでいた。

 いきなり抜いたりはしないが、場合による。もし襲ってくれば、反撃しないわけにいかないだろう。ブエルと話すため座っていた腰を浮かせ、じりじりと距離を置く。

 飛び出したのは、大きな狼だった。額に立派なツノがあり、どう見ても魔族だ。唸りながら、子狼を庇う位置に移動した。驚いた顔をするブエルが「お父さん」と呼びかける。

「お父さん、この人……ブレンダっていうんだ!」

 何を思ったのか、ブエルは声を張り上げた。最後は叫ぶようにして紹介する。父と呼ばれた巨狼は、驚いた様子で威嚇をやめた。
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