上 下
60 / 82

60.黄金の畑が刈られるまで見ていたい

しおりを挟む
 人間はこの間の戦いで数が減った。いつも纏まって暮らしているけど、国がひとつ滅びたらしい。国は大きな街と小さな村がいくつか集まった塊だ。それが滅びたなら、住んでいた人が全員死んじゃったの?

「いいや、よその国へ逃げた」

「じゃあ、全員じゃないんだね」

 びっくりした。吸血鬼のおじさんは生かしておいて血を貰うって話していた。いつの間に全員の血を飲んだのかと心配しちゃった。一度にたくさん飲んでも、よくないよね。

「ウェパルは面白い考え方をする」

 ベル様はそう言って頭を撫でた。褒められたんだと思う。黄金の畑はすごく綺麗で、いつまでも見ていたい。でも数日したら人間が来て、刈り取るんだって。それまで見ていることにして、近くの森に巣を作る。僕が干し草を作る間に、ベル様が家を建てた。

 ベル様と僕が眠る大きさの家は、小屋と呼ぶんだ。森の木を使ってて、立派なお家だった。僕が乾かした草を運んで、一面に敷き詰める。丸い形じゃないからか、草が足りなかった。外へ出て、もう一度草を乾かす。長くて細くて柔らかい草を選んで、根元で切った。並べてブレスを浴びせる。

 燃やさないように注意したけど、一部は火がついちゃった。仕方ないので、焦げた部分は置いていく。

「ウェパル、これも使えるぞ」

 ベル様は片付けた空間から絨毯を引っ張り出した。あれはお家で使っていた布と同じ柄だ。見覚えがある絨毯を草の上に敷いた。お家と同じ巣になったね。

「寒くなってきたし、これも使おう」

 ふかふかの毛皮が出てくる。これは上に掛けるらしい。ベル様は色んなものを隠していて、僕のために出してくれる。温かくして寝ようと言われて、嬉しくなった。温かいのは大好き! ベル様と作った小屋から出て、少し離れた岩山の上に登った。

 ここからなら、黄金の畑が見える。いっぱい眺めて、お風呂に入ってから眠った。お風呂は「臨時」と言って、ベル様が用意したの。臨時はよくわからないけど、凄い。温かいお湯はベル様が魔法で持ってきた。

 僕の頬に汚れがついていると、ベル様が指先で擦る。綺麗な黒い肌の指は、爪が長くない。ドラゴンみたいに爪で戦わないから、長い必要はないんだ。尖ってないけど、少し指先から出ていた。その爪で鱗についた汚れを落としてもらう。

 お返しに、僕もベル様のお顔を洗った。艶のあるお肌はすべすべで、鱗がある僕とは違う。洗って舐めて頬を擦り寄せて、ぼんやりしたところでお風呂から出た。前にもなったけど、これがのぼせ……。

 ぱたんと倒れた僕を受け止めたベル様は、温かいうちに小屋へ入った。上に毛皮を掛けて、二人で抱き合って横になる。外で獣の吠える声が聞こえた。

「ベル様、明日も黄金の畑あるかな」

「ああ、大丈夫だ」

 そっか、もう一日くらい眺めたいの。半分眠りながら伝え、僕は大きな欠伸をした。人間、明日は仕事しないでくれるといいな。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

心霊病院で怪物にされた話

ホラー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:4

【R-18】泥中の女

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:482pt お気に入り:52

音のしない部屋〜怪談・不思議系短編集

ホラー / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:3

あなたの愛なんて信じない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:128,220pt お気に入り:3,954

雨に濡れた犬の匂い(SS短文集)

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:312pt お気に入り:0

実は私、転生者です。 ~俺と霖とキネセンと

BL / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:1

処理中です...