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第2章 危険察知能力ゼロ

07.本性あらわる(4)

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 マグマのような高温で流れる土の上に、子供は素足で立つ。まるで痛みを感じていない様子から、魔力で己の身体を包んでいるのだろう。だが、目を凝らしても制御された魔力の欠片も見えなかった。

 高すぎる制御レベルに天を仰ぐ。

 『竜』と聞いているが、ここまで『純粋』な奴は初めて見た。


 この煉瓦を溶かす熱を生み出したのは、目の前の小柄な子供だ。

 使う術も魔力量も知らず、暴走させた結果だろう。炎を使うなら、これほど高熱である必要はなかった。

 血に濡れた彼の足元に転がる手枷と、元人間らしき残骸を見れば状況は推測できる。


 きっと『竜』を本気で怒らせ、殺された――。


「ねえ……」

 誘うように揺れる手に、レイルが苦笑いして一歩踏み出す。

 逆らえば殺される、だが従っても殺されるのだ。ジャック達が駆けつけるまで時間を稼ぐ必要があった。

 近づいた分だけ熱が肌を焼く。痛いほどの高熱を踏みしめ、子供は平然と笑う。

「おれはおまえを傷つけない」

 落ち着かせるために告げた言葉に、赤瞳の子供は笑みを深めた。

 特徴を聞いた時は白金の髪と濃紫の瞳だったが、竜の特徴のひとつで『狂うと赤い瞳になる』者がいる。もちろん全員が対象ではなく、確率は半分程度だ。しかし、この赤い瞳が厄介だった。


 『竜の赤い瞳』は高すぎる能力を開放した際に現れる印だ。

 基本的に属性は『犬、猫、兎、馬、魚、虫、鳥、熊、牙、竜』の順で表記されてきた。なぜならば、左から右に行くにつれ希少性が上がる。

 この順番が示すのは『魔力量』『気性の荒さ』『精神状態』『魔法への適正』『繁殖力の低さ』を示していた。すべては基本的に右へ行くほど強くなる。

 だが一番重視された並び順は『希少性』だ。


 竜が一番希少とされるのは、彼らの性質にあった。

 理性を手放したが最後、周囲を破壊し尽くすまで止まらない。殺し尽くし、満足するまで蹂躙し尽くしてやっと『戻る』のだ。

 火山や台風の天災に似て、勢いが収まるまで手が付けられないほど、凶暴になる。

 赤い瞳を持たない竜にその特性は現れないが、それが世間に浸透するまでの間に竜はほぼ殺されてしまった。他の属性を持つ者にしてみれば、竜はもっとも魔法に適して魔力量の多い『脅威』でしかなかったのだ。

 いくら竜が他の属性より強くとも、多数に囲まれて襲撃されれば敵わない。赤瞳を持たない竜は大人しい者達だが、知らない他の属性に虐殺されて極端に数を減らしていった。
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