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第2章 危険察知能力ゼロ

08.遊びつかれた子供(1)

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 目の前にいた獲物を横取りした存在に、オレは目を細める。

 ブロンズ色の髪は艶があり、本当に金属のようだった。首筋を覆う長さで切り揃えた髪が熱風に煽られて揺れるのを、青年は無造作に掻き上げる。

 モデルじみた顔は、荒事に縁がなさそうだった。育ちの良さそうな坊ちゃん、そんな雰囲気が似合う。

 モテる奴は気に入らない。

「お前が代わり、か?」

 小首を傾げ、興味半分で足を踏み出す。


 炎が揺れる緑の瞳は明るい色をしていた。雪のような肌、整った顔立ち、きっとモテるだろう。華奢な印象だが、しっかり鍛えられた筋肉が覆った身体が警戒する様子も見せず、こちらへ一歩近づく。

 互いが歩み寄ったことで距離は一度に縮まり、手が届きそうだった。

「ええ、私も竜ですのでお相手しましょう」

 竜だと聞いて、目を見開いた。かなりの希少種と聞いていたが、どこで見つけてきたのか。



 ようやくがきた。



 オレを不当に扱ったモノは消した。

 だが傷つけられたこの身の代償はまだ足りない。そう、足りないのだ。あの程度の輩をバラしても、引き裂いても、まったく満たされなかった。

 くつくつ喉を鳴らして笑い、無邪気に手を伸ばす。

「なら、来い」

 相手が同族でも関係ない。この苛立ちに似た感情をぶつける対象が欲しいだけ。

 格上でも構わない。叩き伏せるほどの力があるなら、示して欲しかった……それできっと納得できるから。


 無造作にナイフを取り出す青年の手で、銀の刃が光る。銃ではなくナイフを向けたのは、オレを殺さずに捕らえる意図が見えた。

 シフェルの身が沈む。一瞬で距離を詰めたシフェルの右手が差し出され、延長したようにナイフが繰り出された。

 捻る動きの所為で軌道が読みづらい。咄嗟に下がろうとして、ぐっと足を踏みしめた。


 下がる? あり得ない、このオレが。


 以前なら廚二こじらせすぎ……と一笑に付す行為だが、なぜか本気でそう思った。僅かに残った己の一部が、彼の実力を自分より下だと囁く。
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