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第4章 やらなきゃやられる!

17.教育は情熱だ!!(8)

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 もう納得するしかない。因数分解の数式なんかと同じだ。理屈を考えるより、こういうものだと暗記した方が早かった。いずれ理解できるまで、原理や理由は後回しだ。

 覚えることが多すぎて、丸暗記しか出来ないのが本音。

「それで、3秒ルールって何だ?」

「えっと……小さい頃に親によく言われたんだよな。落としたお菓子とか、3秒以内に拾って食べたらセーフ! 3秒以上経つとアウト」

「「「3秒の根拠は?」」」

 異口同音にハモった連中をぐるりと見回す。そうだよな、全員そう思うよな。わかる、わかるけど、オレも根拠なんて知らんよ。口の中に干し肉が入っているサシャだけが参加していないが、彼の顔を見れば同様の疑問を持っているとわかる。

「根拠は知らないなぁ……いつの間にか決まってたんだ」

「親が決めたのか?」

「いや、親も誰かに言われたんだと思うぞ」

 ふーんと相槌が返る。わかる、オレも子供の頃に3秒と4秒で何が違うって親に聞いて、よくわからない返答されたときに同じ返事したもん。彼らの常識である『話せたら読める』と、オレの知る『3秒ルール』に大きな違いはなさそうだ。つまり、きちんとした根拠はない。

「読めるけど書けない。でも教われば書けるって解釈で合ってる?」

「ああ」

 ノアが再び裂いた干し肉に手を伸ばすが、サシャが避けてしまい宙をかいた。残念そうに干し肉の大きな塊を噛み千切る様子に、ノアの面倒くさがりの一面が垣間見える。そうか、マメなのはサシャだけか。

「計算は特別なのか?」

「計算が出来れば王宮務め、それも上級の文官になれるぞ」

 上級の文官……どの程度の職なのかわからないが、かなり高給取りのイメージだ。しかも前線で戦わなくていい職業だろうから、政治家や大臣みたいな位置づけか。

「商人も計算できるのに?」

「あいつらの計算は足したり引いたりだろ。お前みたいに数字が踊って絡みついた計算じゃない」

 踊って絡みついた計算、ね。言いえて妙だ。分数や小数点以下の計算程度しか披露していないが、知らない人間から見たら奇妙な光景だったらしい。あれで因数分解やら偏微分が出たら天才扱いかも知れない。

 小学生の算数で商人レベル、ちょっとした都市の官吏でも中学生レベルの数学で用が足りるのだろう。確かに普段の生活で複雑な計算式は使わないのだから、当然といえば当然だ。三角形の面積を求められれば、土地の面積計算が出来るから官吏レベルだった。大学入試レベルなら、もう専門知識に匹敵しそう。

 日本の基礎教育って素晴らしいレベルだったんだな。微分積分とか懐かしい。もしかしたら理科の知識も、この世界より優れた教育されてる可能性があるわけだ。
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