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第6章 聖獣、一方的な契約

23.聖なる獣って偉いんだってよ(2)

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 確か中国の風水の考え方だよな? 四神の考え方だ。南の鳳凰、東の青龍、西の白虎、北の……なんだっけ、ほら……げんど、じゃなくて…蛇がついた大きな亀。北だけはっきり思い出せないが、そのうち出てくるだろう。適当な考えで流して、サシャへ尋ねる。

「ヒジリは聖獣じゃないかもよ?」

『……我は聖獣だが、白虎ではない』

 自分の話だというのに、欠伸をしてから答えるヒジリに緊張感はない。逆にシフェルやリアムの方が緊張しているようだ。割れたままの窓から寒風が吹き込み、首を竦めてシャツの襟を立てた。

「その辺はこれから説明します。陛下とよく勉強なさってください」

 にっこりとシフェルに話を纏められてしまい、オレは渦巻く疑問を放り出して頷いた。考えてもわからないし、この世界の常識がオレの知る当たり前と違う事実は今更だ。悩むより、教えてもらったことを覚えたほうが早い。

「ところで、戦略会議とやらは終わったの?」

「ええ、明日の午後に再開します」

 どうやら今日は一度終わりにしたらしい。明日も午後に集まるというのなら、意見がばらばらで纏まらないか、何か資料や情報が足りないのかもしれない。

「今日はどこで勉強する?」

 リアムに話を振れば、考える素振りをしてから「図書室、がいいか」と返った。まあ、庭は除外されると思っていたから、ある意味予想通りだ。

 黒い沼に攫われたのは、一昨日の午後すぐの庭だった。ましてや今日は隙間風も寒い天気なので、外に出るのは御免だ。魔法を使えば周囲を快適空間に保てるらしいが、まだ習っていなかった。

「ヒジリはどうする?」

『主殿と一緒に行くぞ』

 何をおかしなことを言っているのだ。そんな顔でヒジリに言い切られ、図書室に動物を入れる許可が出るかと考えてしまう。

「大きな敷物を用意させよう」

 リアムがあっさり許可したため、黒豹を連れてのお勉強会が決まった。






 図書室は侍女たちで賑やかだった。前世界だと図書館は静かに使うもので、飲食禁止が当たり前だったが……この世界は常識が違うようだ。

「今日の紅茶は余のお気に入りを用意させた」

 笑顔の皇帝陛下の向かいで、差し出された紅茶を受け取る。手元にはたくさんの茶菓子を積んだタワーが用意され、果物が入った藤籠も置かれていた。まだ侍女が近くにいるため、リアムの口調は皇帝陛下バージョンだ。

 足元に敷いたふかふかのラグに寝そべる黒豹、レースのクロスとお茶セットが並ぶテーブル、ワゴン型のサイドテーブルは大量の本、ゆったりしたチェア。すべてが図書館の概念から外れている。まあ、図書室という表現の通り、ここは王宮の一室だから当然なのかもしれない。

「ありがとう」
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