12 / 100
12.信じたくない占い結果
しおりを挟む
子爵家の屋敷に帰りたい。五日目にして、私は温泉が恋しくなっていた。心なしか、お肌も荒れた気がする。
小屋敷には、王妃様のお気遣いで数人の侍女が派遣された。そこに加え、子爵家に連絡して、私物を送ってもらった。ドレスや装飾品は小屋敷にあるので、日記帳や靴など量は多くない。受け取りながら、客間で溜め息を吐いた。
「お嬢様、しゃんとなさいませ」
執事アルベルトに喝を入れられるが、背筋を伸ばすので手一杯だ。これ以上は無理、と崩れてしまった。
「宮廷占い師イーリス様ともあろう方が、このような」
「だって、疲れるんだもの」
ぼやいてしまうのは、息抜きができないからだ。今までは占いに行く時だけ、イーリス・ヴェナライネンを装えば良かった。でも今は、一日中イーリスでいなければならない。
この屋敷を維持する侍女を減らしてもらおうか。それとも子爵家の使用人を派遣してもらう? いいえ、どこから嗅ぎつけられるか。悩んだ末、現状を素直に受け入れるしかなく。ヴェールを外せない日々は、鬱憤が溜まった。
「お嬢様、何のための肩書きですか」
首を傾げるが、すぐに思い至った。そうだ、宮廷占い師なんだから、集中するためとか理由をつけて部屋に篭ればいい。その間、カーテンを閉めっぱなしになるけれど、邪魔されずに過ごせる!
「頑張る!」
「国のため、しっかりお励みください。ところで、未来の旦那様にご挨拶をしたいのですが」
「……忙しそうだから今度ね」
婚約の話は子爵家の使用人達に伝えた。マイラもアルベルトも、ハンナだって大喜びだ。これでネヴァライネン子爵家の血が繋がると、涙ながらに安堵されたら……偽装婚約だなんて言えない。王命だから、彼ら相手でも口にできないけれど。
「承知いたしました。では本日はこれで」
「ええ、悪いけれど頼むわね」
屋敷を……の言葉を呑み込んだ。ここ以外に屋敷があるとバレるのはまずい。ここまで警戒している理由は、王妃様が選抜した侍女や使用人から情報が漏れる可能性があるからだ。彼や彼女らは、よく情報交換をしている。その中に「あの屋敷でね、こんなことが」と口にされる危険性があった。
だったら使用人を全て断ればいいのだが、そうすると維持が出来ない。あっという間に掃除が行き届かず、庭も荒れてしまうだろう。想像がつくだけに、帰ってくださいとも言えなかった。
宮廷占い師イーリスは、宰相閣下に嫁ぐほどの家格がある。そう示しておかなくてはならない。アルベルトを見送り、私は早速自室へ閉じこもった。
ずっとは不自然なので、半日くらいを目安にする。占いに関することなので、部屋に近づかないよう厳しく命じた。慣れない命令なんてしたので、声が上擦っちゃったわ。
カーテンを閉めて、周囲を見まわし……ヴェールを外した。ベッドに寝転がり、カードを手に取る。だが自分を占う事はできないので、宰相閣下の結婚生活を占ってみた。正直、はしたない行為だと思うけれど、気になった。
偽装じゃない奥様を迎えて、幸せになるんだろうな。そう思いながら、カードをシャッフルして積み重ねる。上から一枚ずつ開きながら定位置に並べた。
国王陛下や王妃様を占う際、普段は選んでもらう。対象者が触れることで、精度が上がるからだ。しかし、本来の占いは別の形式だった。混ぜる時だけ触れてもらい精度を高め、カードを開くのも読むのも占い師が行う。
ゆっくりと開き終えたカードは、宰相閣下のやや特殊な結婚生活を示した。
「見なかったことに、しよう……うん」
さっとカードを崩し、丁寧にケースへ片付ける。そうよ、私は何も見ていないわ。奥様が閉じ込められ、それに満足しているだなんて。ちょっとおかしいもの。
新年のご挨拶を入れる予定でしたが、地震がありましたので自粛します。ご無事でありますように!
小屋敷には、王妃様のお気遣いで数人の侍女が派遣された。そこに加え、子爵家に連絡して、私物を送ってもらった。ドレスや装飾品は小屋敷にあるので、日記帳や靴など量は多くない。受け取りながら、客間で溜め息を吐いた。
「お嬢様、しゃんとなさいませ」
執事アルベルトに喝を入れられるが、背筋を伸ばすので手一杯だ。これ以上は無理、と崩れてしまった。
「宮廷占い師イーリス様ともあろう方が、このような」
「だって、疲れるんだもの」
ぼやいてしまうのは、息抜きができないからだ。今までは占いに行く時だけ、イーリス・ヴェナライネンを装えば良かった。でも今は、一日中イーリスでいなければならない。
この屋敷を維持する侍女を減らしてもらおうか。それとも子爵家の使用人を派遣してもらう? いいえ、どこから嗅ぎつけられるか。悩んだ末、現状を素直に受け入れるしかなく。ヴェールを外せない日々は、鬱憤が溜まった。
「お嬢様、何のための肩書きですか」
首を傾げるが、すぐに思い至った。そうだ、宮廷占い師なんだから、集中するためとか理由をつけて部屋に篭ればいい。その間、カーテンを閉めっぱなしになるけれど、邪魔されずに過ごせる!
「頑張る!」
「国のため、しっかりお励みください。ところで、未来の旦那様にご挨拶をしたいのですが」
「……忙しそうだから今度ね」
婚約の話は子爵家の使用人達に伝えた。マイラもアルベルトも、ハンナだって大喜びだ。これでネヴァライネン子爵家の血が繋がると、涙ながらに安堵されたら……偽装婚約だなんて言えない。王命だから、彼ら相手でも口にできないけれど。
「承知いたしました。では本日はこれで」
「ええ、悪いけれど頼むわね」
屋敷を……の言葉を呑み込んだ。ここ以外に屋敷があるとバレるのはまずい。ここまで警戒している理由は、王妃様が選抜した侍女や使用人から情報が漏れる可能性があるからだ。彼や彼女らは、よく情報交換をしている。その中に「あの屋敷でね、こんなことが」と口にされる危険性があった。
だったら使用人を全て断ればいいのだが、そうすると維持が出来ない。あっという間に掃除が行き届かず、庭も荒れてしまうだろう。想像がつくだけに、帰ってくださいとも言えなかった。
宮廷占い師イーリスは、宰相閣下に嫁ぐほどの家格がある。そう示しておかなくてはならない。アルベルトを見送り、私は早速自室へ閉じこもった。
ずっとは不自然なので、半日くらいを目安にする。占いに関することなので、部屋に近づかないよう厳しく命じた。慣れない命令なんてしたので、声が上擦っちゃったわ。
カーテンを閉めて、周囲を見まわし……ヴェールを外した。ベッドに寝転がり、カードを手に取る。だが自分を占う事はできないので、宰相閣下の結婚生活を占ってみた。正直、はしたない行為だと思うけれど、気になった。
偽装じゃない奥様を迎えて、幸せになるんだろうな。そう思いながら、カードをシャッフルして積み重ねる。上から一枚ずつ開きながら定位置に並べた。
国王陛下や王妃様を占う際、普段は選んでもらう。対象者が触れることで、精度が上がるからだ。しかし、本来の占いは別の形式だった。混ぜる時だけ触れてもらい精度を高め、カードを開くのも読むのも占い師が行う。
ゆっくりと開き終えたカードは、宰相閣下のやや特殊な結婚生活を示した。
「見なかったことに、しよう……うん」
さっとカードを崩し、丁寧にケースへ片付ける。そうよ、私は何も見ていないわ。奥様が閉じ込められ、それに満足しているだなんて。ちょっとおかしいもの。
新年のご挨拶を入れる予定でしたが、地震がありましたので自粛します。ご無事でありますように!
32
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」
公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。
忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。
「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」
冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。
彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。
一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。
これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ】悪妃は余暇を楽しむ
ごろごろみかん。
恋愛
「こちら、離縁届です。私と、離縁してくださいませ、陛下」
ある日、悪妃と名高いクレメンティーナが夫に渡したのは、離縁届だった。彼女はにっこりと笑って言う。
「先日、あなた方の真実の愛を拝見させていただきまして……有難いことに目が覚めましたわ。ですので、王妃、やめさせていただこうかと」
何せ、あれだけ見せつけてくれたのである。ショックついでに前世の記憶を取り戻して、千年の恋も瞬間冷凍された。
都合のいい女は本日で卒業。
今後は、余暇を楽しむとしましょう。
吹っ切れた悪妃は身辺整理を終えると早々に城を出て行ってしまった。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる