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63.結論の前に根回しするから
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説明を聞いたお父様は、両手を机の上で組んで目を閉じました。考えている様子なので、ここはお待ちするべきでしょう。
「それはルナの出した結論かい?」
「ええ。カスト様に相談はしましたけれど、私の意見です」
王子妃、未来の王妃として教育を受けた。国のあり方、王族の責務、貴族の欲を抑えること……運営そのものは優秀な文官に任せてもよいのですが、舵を奪われてはならないのです。リーディア様の教えは、私の中に根付いていました。国王相手であっても、意見を言うべき時は躊躇わない。実際にリーディア様が実践して来られたと聞きました。
貴族がどう動くか、私は予想しか出来ません。それが現実になったときは手遅れで、その前に手を打つ必要がありました。考えすぎだと言われるでしょうか。
「王姉が権力を持てば、その夫カストも含めて貴族に懐柔される。その危険性は間違っていないが……ダヴィードは反対するだろう。国王として考えるなら、ルナの案は正しい」
まだ続きがあるのに途中で話を切ったお父様は、困ったような顔で微笑みました。まだ懸念があるのでしょうか。
「娘と離れていた父親として思うのは、一日でも長く一緒に暮らしていたい……これを叶えて欲しい」
国を憂う国王の立場ではなく、お父様として娘の私に願うのですね。それは勝てません。私も同じように思っておりますわ。お父様やお母様、弟のダヴィードも。もちろん私の最初の騎士アロルド伯父様だって。カスト様との新婚生活を夢見ると同時に、いつも会える距離で暮らしたいのです。
「結論を出さずに、少し待ってもらえないか? 根回しするから」
お父様は新しい白紙を引き寄せ、数行のメモを残しました。私やアロルド伯父様から見えないように、手元を隠すんです。ふふっ、子どもみたいです。
「根回しがうまくいけば、解決するから。急いで答えを出さないでくれ」
「わかりましたわ、お父様。でもお母様にはすでに話してしまいました」
「……兄上とティナか。手強いな」
うーんと唸ったお父様ですが、何か秘策がありそうです。ここはお任せしましょう。私のために尽力してくださるお姿は、なんだか嬉しいんですもの。
「楽しみにお待ちしております」
「ああ、公爵家を継ぐ案はいいと思うよ。ただ、公爵領が遠いのが問題なだけさ」
お父様にお仕事を頑張ってくださいと伝え、用意してきたお菓子を差し上げました。先日、侍女達と焼いたのですが、美味しく仕上がったのです。見た目も綺麗なので、味わっていただきたいです。
部屋を出た私に、伯父様がにこにこと手を差し出しました。わかってますわ、伯父様。
「伯父様はこれからお茶をご一緒にいかが? もちろん、持ち帰りのお菓子も用意しておりますの」
「これはこれは、王女殿下のお誘いとあれば是非に。他にはどなたを呼んでおられますかな?」
「伯父様と私だけですわ。カスト様は仕事に出ておりますし、お母様も忙しいそうです」
「光栄なお誘いに重ねるようで恐縮ですが、エスコートの栄誉を賜りたく」
伯父様の手に、そっと私の手を重ねました。幼い私に忠誠を捧げてくださった伯父様は、今も昔もずっと……私の大切な最初の騎士様ですわ。
「それはルナの出した結論かい?」
「ええ。カスト様に相談はしましたけれど、私の意見です」
王子妃、未来の王妃として教育を受けた。国のあり方、王族の責務、貴族の欲を抑えること……運営そのものは優秀な文官に任せてもよいのですが、舵を奪われてはならないのです。リーディア様の教えは、私の中に根付いていました。国王相手であっても、意見を言うべき時は躊躇わない。実際にリーディア様が実践して来られたと聞きました。
貴族がどう動くか、私は予想しか出来ません。それが現実になったときは手遅れで、その前に手を打つ必要がありました。考えすぎだと言われるでしょうか。
「王姉が権力を持てば、その夫カストも含めて貴族に懐柔される。その危険性は間違っていないが……ダヴィードは反対するだろう。国王として考えるなら、ルナの案は正しい」
まだ続きがあるのに途中で話を切ったお父様は、困ったような顔で微笑みました。まだ懸念があるのでしょうか。
「娘と離れていた父親として思うのは、一日でも長く一緒に暮らしていたい……これを叶えて欲しい」
国を憂う国王の立場ではなく、お父様として娘の私に願うのですね。それは勝てません。私も同じように思っておりますわ。お父様やお母様、弟のダヴィードも。もちろん私の最初の騎士アロルド伯父様だって。カスト様との新婚生活を夢見ると同時に、いつも会える距離で暮らしたいのです。
「結論を出さずに、少し待ってもらえないか? 根回しするから」
お父様は新しい白紙を引き寄せ、数行のメモを残しました。私やアロルド伯父様から見えないように、手元を隠すんです。ふふっ、子どもみたいです。
「根回しがうまくいけば、解決するから。急いで答えを出さないでくれ」
「わかりましたわ、お父様。でもお母様にはすでに話してしまいました」
「……兄上とティナか。手強いな」
うーんと唸ったお父様ですが、何か秘策がありそうです。ここはお任せしましょう。私のために尽力してくださるお姿は、なんだか嬉しいんですもの。
「楽しみにお待ちしております」
「ああ、公爵家を継ぐ案はいいと思うよ。ただ、公爵領が遠いのが問題なだけさ」
お父様にお仕事を頑張ってくださいと伝え、用意してきたお菓子を差し上げました。先日、侍女達と焼いたのですが、美味しく仕上がったのです。見た目も綺麗なので、味わっていただきたいです。
部屋を出た私に、伯父様がにこにこと手を差し出しました。わかってますわ、伯父様。
「伯父様はこれからお茶をご一緒にいかが? もちろん、持ち帰りのお菓子も用意しておりますの」
「これはこれは、王女殿下のお誘いとあれば是非に。他にはどなたを呼んでおられますかな?」
「伯父様と私だけですわ。カスト様は仕事に出ておりますし、お母様も忙しいそうです」
「光栄なお誘いに重ねるようで恐縮ですが、エスコートの栄誉を賜りたく」
伯父様の手に、そっと私の手を重ねました。幼い私に忠誠を捧げてくださった伯父様は、今も昔もずっと……私の大切な最初の騎士様ですわ。
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