77 / 79
外伝
外伝2−1.こんなに愛しい存在だなんて
しおりを挟む
必死に頑張って、痛みを堪えて、それでも泣いてしまったけれど……聞こえた産声に安堵の息を吐いた。頬を伝う涙を優しく拭うのは、カスト様の無骨な手。戦う騎士としての強さの証だった。人より厳しい訓練を課す彼は、今ではアロルド伯父様にも一目置かれる存在になっている。
「おめでとうございます。お美しいお嬢様ですわ」
跡取りが欲しかったんじゃないかしら。そう思った私は少しだけ落ち込む。でもカスト様は違ったみたい。嬉しそうに声を上げた。
「なんと! これは陛下や王妃殿下はもちろん、アロルド様も可愛がってくださるに違いない。どれ……最愛の奥様にそっくりだ」
取り上げた産婆から受け取る我が子を、私の腕に移すカスト様の表情は、嘘偽りなく明るかった。初めて見る娘の顔は、私に似てるかしら? まだ真っ赤で皺があってよく分からないわ。でも……小さな手を握って緩める所作を見たら、また涙が溢れた。愛しい、可愛い。よく頑張ってくれたわ。
生まれてきてくれてありがとう。微笑むけれど、胸がつかえてうまく言葉にならなかった。その代わりに頬を擦り寄せる。小さくて軽くて、でも重い命が嬉しかった。
「本当に可愛いわ」
やっと絞り出した声は震えていた。娘を抱いた私ごと、カスト様が包むように抱く
大きくて逞しい腕に、これからは私だけじゃなく、この子も守られるのだと実感した。
「そろそろ駆けつけてくるぞ」
カスト様がにやりと笑った直後、ばたばたと廊下を走る音がする。叱る執事の声がしないから、お父様達ね。ノックして、すぐに扉が開いた。
「おお! 生まれたか」
「どっち? あら、お姫様だわ。素敵!」
お父様とお母様の後ろから、呆れたと声に滲ませた弟ダヴィードが入ってくる。
「父上、母上、落ち着いてください。姉様が驚いてしまいます」
オリエッタ嬢を伴った弟は、どこか大人びていた。先日、告白に成功したばかりと聞いているわ。
「ご出産おめでとうございます」
丁寧に挨拶してくれる未来の義妹へ、にっこりと笑顔を向けた。化粧はしていないし、髪も乱れている。頬には涙の跡もあった。それでも家族になるんだもの、構わないわ。みっともない姿も含めて、私なのだから。
ここで娘が泣き始め、授乳のために全員外へ出てもらった。女性だから残ると言いはった母も、名前を決める家族会議をすると聞いてあっさり意見を翻す。こういうところ、本当にお母様らしいわ。
初めての授乳は大切なのだと、事前に習っている。産婆の手助けを借りながら抱き直し、娘が吸い付く力に驚いた。まだ生まれたばかりよ。この力こそ、生き抜くための生命力なのでしょう。必死で飲む姿が愛しくて、張った乳を含む我が子の頬に手を添わせた。
「元気に育って。私があなたに望むのはそれだけよ」
色は夫カストと同じ黒髪、私と同じ紫の瞳。どちらも受け継いでくれて嬉しいわ。乳を飲み終えた赤子にゲップをさせて、一緒に横たわった。ひどく眠い。少しだけ……そうしたら、私も名前を……一緒に。
「おめでとうございます。お美しいお嬢様ですわ」
跡取りが欲しかったんじゃないかしら。そう思った私は少しだけ落ち込む。でもカスト様は違ったみたい。嬉しそうに声を上げた。
「なんと! これは陛下や王妃殿下はもちろん、アロルド様も可愛がってくださるに違いない。どれ……最愛の奥様にそっくりだ」
取り上げた産婆から受け取る我が子を、私の腕に移すカスト様の表情は、嘘偽りなく明るかった。初めて見る娘の顔は、私に似てるかしら? まだ真っ赤で皺があってよく分からないわ。でも……小さな手を握って緩める所作を見たら、また涙が溢れた。愛しい、可愛い。よく頑張ってくれたわ。
生まれてきてくれてありがとう。微笑むけれど、胸がつかえてうまく言葉にならなかった。その代わりに頬を擦り寄せる。小さくて軽くて、でも重い命が嬉しかった。
「本当に可愛いわ」
やっと絞り出した声は震えていた。娘を抱いた私ごと、カスト様が包むように抱く
大きくて逞しい腕に、これからは私だけじゃなく、この子も守られるのだと実感した。
「そろそろ駆けつけてくるぞ」
カスト様がにやりと笑った直後、ばたばたと廊下を走る音がする。叱る執事の声がしないから、お父様達ね。ノックして、すぐに扉が開いた。
「おお! 生まれたか」
「どっち? あら、お姫様だわ。素敵!」
お父様とお母様の後ろから、呆れたと声に滲ませた弟ダヴィードが入ってくる。
「父上、母上、落ち着いてください。姉様が驚いてしまいます」
オリエッタ嬢を伴った弟は、どこか大人びていた。先日、告白に成功したばかりと聞いているわ。
「ご出産おめでとうございます」
丁寧に挨拶してくれる未来の義妹へ、にっこりと笑顔を向けた。化粧はしていないし、髪も乱れている。頬には涙の跡もあった。それでも家族になるんだもの、構わないわ。みっともない姿も含めて、私なのだから。
ここで娘が泣き始め、授乳のために全員外へ出てもらった。女性だから残ると言いはった母も、名前を決める家族会議をすると聞いてあっさり意見を翻す。こういうところ、本当にお母様らしいわ。
初めての授乳は大切なのだと、事前に習っている。産婆の手助けを借りながら抱き直し、娘が吸い付く力に驚いた。まだ生まれたばかりよ。この力こそ、生き抜くための生命力なのでしょう。必死で飲む姿が愛しくて、張った乳を含む我が子の頬に手を添わせた。
「元気に育って。私があなたに望むのはそれだけよ」
色は夫カストと同じ黒髪、私と同じ紫の瞳。どちらも受け継いでくれて嬉しいわ。乳を飲み終えた赤子にゲップをさせて、一緒に横たわった。ひどく眠い。少しだけ……そうしたら、私も名前を……一緒に。
238
あなたにおすすめの小説
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載中です)
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
捨てられた令嬢と、選ばれなかった未来
鍛高譚
恋愛
「君とは釣り合わない。だから、僕は王女殿下を選ぶ」
婚約者アルバート・ロンズデールに冷たく告げられた瞬間、エミリア・ウィンスレットの人生は暗転した。
王都一の名門公爵令嬢として慎ましくも誠実に彼を支えてきたというのに、待っていたのは無慈悲な婚約破棄――しかも相手は王女クラリッサ。
アルバートと王女の華やかな婚約発表の裏で、エミリアは社交界から冷遇され、"捨てられた哀れな令嬢"と嘲笑される日々が始まる。
だが、彼女は決して屈しない。
「ならば、貴方たちが後悔するような未来を作るわ」
そう決意したエミリアは、ある人物から手を差し伸べられる。
――それは、冷静沈着にして王国の正統な後継者、皇太子アレクシス・フォルベルト。
彼は告げる。「私と共に来い。……君の聡明さと誇りが、この国には必要だ」
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
婚約破棄された令嬢は、もう誰の答えも借りません
鷹 綾
恋愛
「君との婚約は破棄する。――君は、もう必要ない」
王太子から一方的に突きつけられた婚約破棄。
その理由は、新たに寵愛する令嬢の存在と、「君は優秀すぎて扱いづらい」という身勝手な評価だった。
だが、公爵令嬢である彼女は泣かない。
怒りに任せて復讐もしない。
ただ静かに、こう告げる。
「承知しました。――もう、誰の答えも借りませんわ」
王国のために尽くし、判断を肩代わりし、失敗すら引き受けてきた日々。
だが婚約破棄を機に、彼女は“助けること”をやめる。
答えを与えない。
手を差し伸べない。
代わりに、考える機会と責任だけを返す。
戸惑い、転び、失敗しながらも、王国は少しずつ変わっていく。
依存をやめ、比較をやめ、他人の成功を羨まなくなったとき――
そこに生まれたのは、静かで確かな自立だった。
派手な断罪も、劇的な復讐もない。
けれどこれは、
「奪われたものを取り戻す物語」ではなく、
「もう取り戻す必要がなくなった物語」。
婚約破棄ざまぁの、その先へ。
知性と覚悟で未来を選び取る、静かな逆転譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる